4月9日放送

 「ほっかいどう元気びと」は、4月第2週から「ほっかいどう元気びと2017」として新たにスタート。放送時間は9時30分から50分までとこれまでより少し短くなりますが、「元気びとイズム」は変わらず、さらに人の中の思いや力を言葉にしてラジオから届けていきます。どうぞお聴き下さい。

大野雅嘉さん 「ほっかいどう元気びと2017」としての最初のお客様は、視覚障がい者と伴走者が共に走ることを楽しもうと活動する札幌のサークル「伴走フレンドリー」事務局の大野雅嘉さん 72歳。目が不自由でもジョギングをしたい、マラソンの大会に出たいと思っている人は潜在的に少なくないはず。そういうランナー達の“走るパートナー”になりたいとスタートした活動も既に12年。雪解けと共に始まる練習への意気込みを聞かせていただいた。
 大野さんが自己の健康のためにランニングを始めたのは40代の頃。冬場はクロスカントリーも楽しんでいたところ、白旗山の大会でたまたま視覚障がい者の人達が伴走者と競技に参加している場面を目にし、自分でもそういうお手伝いが出来るのではないかと思ったのがボランティア活動に入る始まりだったという。自分ひとりでマラソンに取り組みタイムを上げていくという目標にそれだけでいいのかという思いも感じていた時期でもあったそう。定年後の活動にもなると思い立ってボランティアクラブに入り、2005年に仲間とともに立ち上げたのが今も続く「伴走フレンドリー」なのだという。

 雪が解ける春は、目の不自由なランナー達にとって「冬眠から覚める嬉しい時期」と大野さん。「伴走フレンドリー」の会員である視覚障がい者19名、伴走者26名は4月に入ると真駒内公園で練習をスタート。ランナーと伴走者を繋ぐものは一本の輪になったロープ。方向を「〇〇メートル先を10時方向に」などと伝えたり、危険回避のための声掛けをしたりと安全のためのサポートは勿論だが、その人が野球好きなら「ファイターズが勝ちましたね」など地元球団の話題で盛り上がったり、真駒内公園は四季の移り変わりがとても綺麗なので「桜が咲きましたよ」とか「葉っぱが色づいています」など、伴走者の目に映る風景を伝えることも大事にしているのだそう。走る楽しみというのは、風を感じる触感や、耳に届く鳥の囀り、鼻腔で感じる土の香りなど、五感が刺激されるのも醍醐味だが、目に見える風景を補完してくれる人がいるというのは、それ以外の感覚をより研ぎ澄ますものになるのだろう。ランナーと伴走者が一体となって感覚を共有している光景が季節の彩りの中に浮かんでくる。
 伴走者というのはマイペースで走ればいいわけではなく、相手のペースに合わせなくてはならない。自己のコンディションを日々整える大変さもあるだろう。その配慮が喜びに変わるのが、互いの信頼関係が出来ている上で呼吸が合っていく瞬間だという。普通の人間関係でも初対面同志ではなかなかしっくりこないが、信頼関係が出来ることでいろいろなことがうまくいく。走る時も同じですと大野さん。仲間達同士の信頼関係がすでに出来ているサークルなのでそんなふうに楽しく走れるのですと語ってくれる。
 目の見える人達にアイマスクを付けて視覚障がい者の状況を体験して貰う講習なども行っているそうだが、その状態でいざ歩こうと思っても怖くてなかなか一歩を踏み出せないという。視覚障がいの方々もこの人と一緒なら大丈夫という信頼関係があって初めて前に進むことが出来、徐々に走れるようにもなるのだそう。実際に、「私には走るなんて無理」と言っていた視覚障がいの方が、仲間となって少しずつ走り始め、段々に距離を伸ばしていった例も少なくないそうで、大野さんにとっての醍醐味は、「そういう人達に走りを楽しんで貰えること」。まだまだ潜在的に「走ってみたい」と思っている人は多いはずだから、そういう人達にもこの活動があるということを知って貰い、まずは外に出て一緒に走ってみましょうと誘いたいのだと力を込める。「そのための自分は“広告塔”。取材を受けることで活動を知って貰えるとしたら、どんどん出てお話をしていきたいです」と、今回のラジオ出演を引き受けた思いも遠慮がちに話してくれる。
 「伴走フレンドリー」の“広告塔”として大野さんが目指したいのは、街で目の不自由な人が困っていたら声を掛けようという意識をみんなが持てる世の中なのだと、この活動の先にある理想を語ってくれる。実際に伴走ボランティアで活動する仲間達は60代以上と高年齢の方々が多いのが実情だそうだが、子供達や若い人達にも、こんなふうにして人は助け合えるということを伝えていきたいのだという。この活動が多くの人の目に触れて、視覚障がいなど“何らかの違いを持った人達”も住みやすい世の中になってほしいという思い。その原動力が静かに伝わってくるお話だった。

大野雅嘉さん これまで「ほっかいどう元気びと」では、収録後に「あなたの宝ものは何ですか?」と伺って、その人の背景にあるものをコメントでもご紹介してきた。「宝もの」というのはイコール「その人の人生で大切にしてきたこと」。それぞれの価値観が、あるときは微笑ましく、あるときは深い情緒とともにこぼれてきて、人を支えるバックボーンにはやはりいろいろなものがあるのだなと沢山の普遍を感じさせていただいた。新年度の番組構成でコメント紹介のコーナーは無くなったが、「大切にしてきたことはなんですか?」の問いかけは続けていこうと思っている。誰かの「大切」は、それを聞く誰かの無意識の「大切」を呼び覚ますことになるだろうし、それを300,400・・・と言葉にして集めていけば、「人の中の力」が新たに見えてくるのではと思うからだ。
 大野さんにも尋ねると、「ものごとに誠実にあたると人はちゃんとわかってくれるということ」と、この取り組みで確信出来たことを言葉にしてくれる。「大野さんにとっての誠実とは?」と言葉をさらに砕いて貰うと、「二枚舌じゃないことです」と笑い、「常に黒子に徹し、みんなで楽しくを常に考えること」という答え。「それが出来たから12年も続いてこられたのではないかな」としみじみ話してくれた。

 つい先頃の新聞の特集記事。北大教授の雪博士・中谷宇吉郎の随筆の中の、「日本の国力というものが、こういう人の知らない土地で、人に知られない姿で、幽(かす)かに培養されているのではないか」という一文が紹介されていた。岩手県一関市を訪れ、そこで出会った心遣いが細やかで向学心を持つ宿屋の奥さんのことを書いた「I駅の一夜」という随筆にある表現だという。書かれたのは終戦直後の昭和21年。本を求めて読んでみると、さらにこんな思いが附記されていた。
 「日本の力は軍閥や官僚が培ったものではない。だから私は今のような国の姿を目の前に見せられても、望みは捨てない」
 人の知らない土地で、人に知られない姿で、幽かに“培養”されている日本の国力。
 この世界を支える力を、人知れず幽かに培養している誠実な人達。そこに「元気びとイズム」の源があるような気がした。

(インタビュー後記 村井裕子)

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