1月29日放送

 「ひらめき」って、いったい何処から来るのでしょうね?・・・
 『ほっかいどう元気びと』の収録後にゲストの方と時々そんな話になることがある。その人の来し方を伺っていると、頭の中で“電球がピカッと光るみたいにひらめいた”ことがその後の人生を決定付けるきっかけになったという話が少なからず出てきて、その“人智を超えた”ような作用はいったいどういうメカニズムなのかと興味深く感じるのだ。そんなふうに人生までを左右するものから日常の中での小さなアイディアに至るまで「ひらめき」には多種多様なものがあるが、それらはあたかもパズルのピースみたいに元々から決まっていたかのような結果を連れてくることが多くて益々興味が尽きない。
 「ひらめき」ってほんとうに何処から来るのか?と多くの方とその不思議さに共感したり感動したりしているのだが、未だに答は見つかっていない。とはいえ、答えの解らないことの中にこそ凄い真理が隠されているはず。ひらめきは天恵であると信じる私は、ふいに降りてくる小さな欠片も逃さないように心の裡に耳を澄ましていたいと思う日々だ。

鈴木聡一郎さん 今回のゲストも「ひらめき」を育んで来られた人。北見工業大学 冬季スポーツ科学推進センター長の鈴木聡一郎さん 57歳。ロボット工学、福祉工学、スポーツ工学が専門の鈴木さんが目下取り組むもののひとつはアスリートの潜在力を引き出す道具やシステムの開発とのことだが、目指すところを伺うととても明快で分かりやすい。それは、ウィンタースポーツの選手達の技術を高めることで、冬のスポーツを北海道の地域により浸透させ、子供からお年寄りまでの健康を維持するための生涯スポーツの普及に寄与するということ。日本のトップアスリート達が世界で成績を上げることでそのスポーツに注目が集まり競技人口が確実に増え、アルペンスキーでもカーリングでも「私もやってみよう」と思う裾野が広がっていけば、北海道の過疎地域を活性化させることが出来る。そして、高齢化が進んでもそれを補う道具やトレーニング方法が編み出されれば冬のスポーツももっと身近になる。そんなビジョンで行われている北見での地道な研究は、アスリートのみならず私達道民ひとりひとりにも喜びをもたらしてくれるということがお話の中から浮かび上がってくる。
 鈴木さんが研究者として大事にしているのは、「開発したものを使って貰い、喜んで貰えること」。研究者の中には、自分の死後にようやく結果の出るような研究をしているケースも勿論少なくないが、「私にとっては、自分の考えたものを広く一般の方々に使って貰えることが喜び。より多くの人に喜んで貰いたいのです」と静かな意志を真っ直ぐに表現する。
 今回は、アルペンスキーの選手がブーツの底に入れることで重心が移動がしやすくなり、スキーのターンを速くすることが出来るという「ステルステック(見えない技術)」とネーミングされた製品について簡単に話していただいたが、そういうちょっとしたことで技術が向上する為の方法を見つけ出すために、日夜、「動作」の研究・分析を進めているのだそうだ。日本の選手と動作が明らかに違う海外のアルペンスキーのトップ選手はどういう動きをするのか、なぜ違うのか、そうするためのトレーニングはどうすればいいのか、補う道具をどう開発したらいいか・・・という継続的な取り組み。そういうところから高齢者の動きを補佐するためのアイディアや障がいを持つ人達の用具の開発にも繋がっていくのだという、まさに話を聞いてみて初めて分かる分野のお話だった。

鈴木聡一郎さん 鈴木さんにとって研究職は天職なのだろう。元々は、神戸のスポーツ用品メーカーでゴルフクラブなど用具の研究開発に携わっていたというが、研究のために北大に出向したきっかけで研究職の心地よさに目覚め、ほんの小さな偶然によって北見工大の助手の仕事に就くことになったという話もインタビューの中でされていた。北大から神戸に帰ることが決まっていた1週間前のある日、あまりに空が青かったので少し歩こう・・・とふと思ったことがきっかけで北見工大との縁が繋がった・・・という“意味のある偶然”的エピソード。
 「面白いですねぇ」「なぜなのでしょうねぇ」とそんな場合の出会いの妙に感動しながら、収録後にも「アイディアなど“ふとひらめく・・・”というのはどんな時か」といった会話に繋がっていく。鈴木さんは、「私は家ではほんとうに音が聞こえるように“パチン”とオフになる。でも翌朝仕事に行く時にはまた“パチン”と音がしてオンになるんです」と言うので、「ひらめく時はどちらのスイッチの時が多いですか?」と訊くと、こんな答え。
 「ああ・・・オフの時が多いかも。仕事モードのオンの時に沢山悩んだり考えたりした後、オフにした時になぜかふっといいアイディアがひらめきます。例えばお風呂の中でとか・・・」
 そして、そういうひらめきに関しては、「必ず、ものに出来るとなぜか自信があるんです」と、研究者としての矜持をのぞかせる。こういう会話はほんとうに面白い。収録インタビューは食事で言えばメインディッシュにあたるが、収録後のやりとりは“別腹” 的なデザートだ。意図せぬ甘さや酸っぱさや芳しい香りが味わえて、それを放送上でどう添えようか・・・という“盛り合わせ”も個人的にはたいそうワクワクする。

 人の中には、ほんとうにまだまだ解明されていない不思議な力があって面白い。私自身のここのところ頻発するミラクルは、全く脈絡もなく無意識から誰かの名前をふっと口にしたとすると、例えば有名人なら次の日に新聞やテレビにその人が登場。身の回りの知人に関しても、ふと誰かのことを思い出すと、だいたい数日後にどこかですれ違ったりメールが来たりする。まるで、「はい、私はここにいますよ」とアピールしているかのような現れ方。これもひとつの、突然降りてくる「ひらめき」の一種。それは単なる「偶然」ではなく、きっと、自分の中の意識と外側の意識が“繋がって”いる証拠ではないかと個人的には思っている。・・・とはいえ、そのミラクルが何か世の中の役に立っているかと問われれば、何にも貢献しているわけではないというのが凡人の極みというものだろう。
 「役に立つひらめき(アイディア)」のほうに関して、鈴木さんとのお話でひとつ腑に落ちたのは、「その前にとことん考えたり悩んだりしている」ということだ。それは確かに真理である。きっと、何か世の中に有益なものを生み出すためには、脳を最大限使って使って、これ以上使えないというところまで活用することで、緩めた時に潜在力が“ポンッ”と放たれるに違いない。考えるから、何かが絞り出される。何かが降りて来る。
 畢竟ずるに、人の体というのは、頭脳も含めて、最大限に使えよ・・・ということなのかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP