12月11日放送

 「ほっかいどう元気びと」は30分間のインタビュー番組だが、前半と後半を橋渡しするように“その人が大切にしてきたことやもの”をコメントで紹介する通称「宝もの」コーナーがある。インタビュー収録が終わってほっとしていただいているところで、「あなたの宝ものは何ですか?」と伺いながら“その人の中の大切”を取材させていただき、1分半前後の文章にまとめナレーションでお伝えしている。
 “宝もの=大切にしていること”というのは、価値観や人生観にも繋がり、その人の背景や来し方、道のりの中でちょっと辛かったり苦しかったりというビターな面も立体的に浮き上がってくる。「元気びと」達を3Dで紹介出来るような、私自身も大好きなコーナーだ。
 前回放送の「公益財団法人 北海道演劇財団」常務理事・芸術監督で役者の斎藤歩さんの「宝もの」は胸にジンとくるいい話。こんなナレーションでご紹介した。
 <あなたにとって宝ものはなんですか?と質問をしてみると、「娘が結婚したんですよ」と嬉しい一言。「その娘が結婚式に呼んでくれて。この娘(こ)は宝ものだなぁと思いました」と続けます。27歳の娘さんとは2歳の時に別れて暮らし、父親らしいことはお金くらいで何も出来なかったと話しますが、自分のことをお父さんと思い続け、呼んでくれる人が世の中にたったひとりいたのだ、こんな宝ものがあったことを忘れていたなぁと、ついこの間気づいて感動したのだそうです。折に触れ会っていた娘さんからはお相手も事前に紹介されていたそうで、「その前のデートで観に行った映画のスクリーンに僕が突然出てきて、『これお父さん』と言われた相手はびっくりしていたそうです」と役者ならではのエピソードも。離れて暮らしていた娘、その存在感への愛おしさ、申し訳なさ・・・「扱いがわからない宝ものです」とその思いを表現し、「どうにもならない関係を描くのが演劇には多いのですが、まだまだそこまで引いて見られません」と、父親の素の顔もみせてくれます。>・・・

笹田悟子さん 今回の「元気びと」の宝ものもとてもユニーク。今取り組んでいることの“根っこ”が見えてくるようなエピソードがとても興味深かった。釧路からお呼びしたのは、オーダーケーキ専門店「Dear Angie(ディア アンジー)」の笹田悟子さん 35歳。今から7年前に長女のあんじちゃんの誕生日ケーキを作ったことがきっかけでケーキ作りの面白さに目覚め、いろんな人に作ってfacebookに載せているうちに評判になり、2013年のクリスマスに「Dear Angie」と店名を付けて本格的にオーダーの受け付けを開始、今では全国からのお客様に渾身の手作りケーキを届けている。
 最も注目を集めているケーキのデザインが魚介類。厚岸の漁師の家に生まれたことから沢山の魚や海の生き物をふんだんに観察してきたという笹田さん。「その体験はラッキーでした」というように、マンボウなど珍しい魚が獲れるとお父さんは真っ先に持って来て見せてくれるような家族の中で育ち、そんな故郷の環境は最高でしたとケーキで魚を作るユニークな発想の元を教えてくれる。
 お菓子の材料であるフォンダンで作る魚はリアルさが笹田さんらしさだそうで、鮭に秋刀魚に牡蠣、タラコを抱いたタラ、折箱に整然と並べられている美味しそうなウニ、牡蠣、花咲ガニに至るまで、「生臭そう」と思わせるほど精巧に作るという。「やっぱり釧路ですからねぇ」と豪快に笑うが、他にも、釧路市動物園のアムールトラの「ココア」や鹿の頭などの動物も得意。そして、楽しんで貰うのが一番とのことで、リクエストにお応えしてカツカレーやステーキも美味しそうに作るのだとか。本物そっくりで驚く食品サンプルがライバルらしいが、あくまでも中身は美味しいケーキ。勿論、笑えるものばかりではなく、華やかなウエディングケーキや、可愛らしい子供の顔を立体で形作るようなバースデーケーキなども優しい思いを込めて作っているのだそう。
 頭の中のデザインを形にしていくことがとても楽しくて、時間も忘れるほど。そんなふうに夢中になって作ったもので誰かを笑顔にすることが本当に嬉しいと話すのを聞きながら、やはり、自分がやっていることに「楽しい」「嬉しい」と口癖のように言っている人は、ほんとうに楽しく嬉しくなっていくのだなという、人が幸せを感じる法則のようなものを改めて思い出させていただいたひとときでもあった。

笹田悟子さん 収録後の「宝ものは何ですか?」の問いかけに対しての笹田さんの答えは「おもちゃ」。「ドリームペッツ」という60年代にアメリカで人気だった日本製のぬいぐるみのビンテージを集めるのが好きなのだそうで、段ボールの中に仕舞ったものを年に1度くらい開いて「かわいい」と思うひとときがとても楽しいのだそう。部屋に飾らないのかと訊くと、「自分はお母さんなので、今は自分の空間は作れないのだけれど、そのうち、そんな宝もの達や大きな犬と過ごせる“基地”を作りたいんです」と笹田さん。何とユニークなとさらに伺うと、厚岸に暮らしていた子供の頃に、家の裏山に行ってひとりで“秘密基地”を作り、飼い犬と共にその中にこもっているのが大好きだったそう。“秘密基地”の作り方は、紐を一本持って行き、丈の低い木をミステリーサークルのように丸く刈り、その木の上の方を紐で束ねて屋根にして、自然のテントのように居場所を作ったのだとか。
 そんな遊びを満喫出来、海の生き物や動物と触れ合い、観察力と行動力を育むことが出来る北海道の地方の恵みの豊かさよ。それを「ラッキーだった」と思える感性が、今は「ケーキデコレーター」として人を喜ばせる笹田さんの大いなる強みでありエネルギー源なのだろう。将来は、家の敷地のどこかに自分だけの基地を作って、ろくろも持ち込み、陶芸などもしてみたいと話す笹田さん。「真剣に何事もやるけど、真面目に楽しみたいんです」と、自由人だからこそ軸はしっかりしていたいという真っ直ぐな信条も爽やかに印象に残るインタビューだった。

 人は沢山の経験を乗り越えて、心の内側に幾つもの層を重ねている。誰にも話さないでいることや心に秘めたことなども奥の方にぎゅっと押し込まれているだろう。収録後の「あなたの宝ものは?」から出てくるものは、その奥の奥というより“半地下”位の所に仕舞われている宝ものなのかもしれないなと思う。日々もなんとなく意識はしているけれど、あえて取り出して言葉にしてみることで、改めてそれが自分を自分たらしめていた大事なものだったと気づく「かけがえのない宝もの」・・・。
 話してくださるおひとりおひとりが、そんな「自分を支えるもの」を言葉にすることで、さらにまるごとの自分自身を好きになっていただけたら嬉しいなと感じている。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP