11月13日放送

 「ほっかいどう元気びと」、前回は、起業して間もない若きゲストから「生きる意味」という言葉を聞かせていただき、この番組は出てくださるおひとりおひとりの人生に触れているのだと改めて感じたその嬉しさ、有り難さを書いた。
 インタビューの仕事で心が震えるのは、その人が心の内に仕舞っている「宝箱」をそっと開けてくれた時。いつもいつも誰にも彼にも言っている訳ではない静かに育ててきた言葉。それをこの場なら話してもいいと思って貰えて、「信念」とか「志」、「人生観」といった大切なものを表現してくれた時、仕事という概念を飛び越えて、何か大事な役割をさせていただいているような、まさに「私自身が生きる意味」を確認させて貰えるような気持ちになる。
 11月13日放送の今回のゲストが発した言葉の中にも、後からじわじわと温かさが心の奥に広がるような表現があった。収録後に聞き取りをしナレーションで紹介をする「あなたの宝ものは何ですか?」でのやり取り。52歳のその男性は「妻と子供です」と言い切り、「自分が何のために頑張っているのかと“仕事の目的”を考えたら、それは、妻と子に褒めて貰うため」と続ける。そして、「人は何のために生きているのかと考えれば、それはやはり、人に褒めて貰いたいから。でも、一番近い隣人である家族に褒められることをせず、他の人に認めて貰おうというのは違うと思う」と話し、さらに、「どこを向いて頑張ったらいいのかが自分の中ではっきりしているとぶれずにいられると思います」ととても素直な思いを表現してくれた。
 自分は何のために生き、どこを向いて生きるのか・・・そう考え始めたところから人の道はそこに向かって真っ直ぐに繋がっていくのではないか。多くの人とお話をしてきて最近はそんなふうに感じている。だから、「私はこれを大切にしたい」「こうなっていきたい」という理想を言語化しておくことが、やはり“より善く生きる”ためには大事なことなのではないか。そんなふうに、それぞれのお話の中の“生きる意味”から感じさせていただいている。

大島庸司さん お客様は、札幌駅近くのビジネス街にある「ラーメン札幌一粒庵」店主の大島庸司さん。北海道の産業に役立ちたいという志で道産食材にとことんこだわって一杯のラーメンを提供し続けている。ラーメンに人生あり。東京出身の大島さんが札幌でラーメン作りに辿り着いた道筋には沢山の体験が織り成すストーリーがあり、お話を伺い始めると一つの問いかけにエピソードが次々に溢れてきたのだが、放送時間は30分間を超えられない。すべてを網羅するわけにはいかずに申し訳ないと思いつつ、キーになる言葉を引き出していく。そのチャレンジングな取り組みと志をまとめさせていただくとこういう物語になる。
 幼い頃は、音楽家の父親の仕事の関係でドイツに育つが、父親が亡くなり母と子で帰国。母親がドイツ料理店を開いたこともあり食に興味を持ちはじめ、東海大学海洋学部へ進学。そこで、第39次南氷洋母船式捕鯨に事業員として乗り組み、得難い体験をし、「命」「食」への思いを深めていく。大島さんは、幼い頃に父の死、そして、10代の多感な頃にも友人達との死別を幾つも経験し、「命」への思いが人一倍強い中、鯨という生き物の「命」をいただいて「食」を得るという現場に立ち会い、その根源的なところをより深めていったとのこと。その後、食品冷凍士として企業で働き、あらゆる港の海産物を買い付ける経験を通して北海道の食材の生産力やポテンシャルの高さを実感し、「地産地消」への思いが高まって北海道へ。始めは、ビールの醸造士として北見市の会社へ。そして、さらには札幌の飲食プロデュース会社へ転職し、ラーメン店のプロジェクトに関わったことがきっかけで「博多一風堂」の店主である河原成美氏と出会い、そのビジネスの方法に共感してラーメン業界に舵を切ったとのこと。2003年に会社を立ち上げ、そこから、今の「ラーメン札幌一粒庵」を形作ってきた・・・という“一代記”だ。転職が続いたのは、「いいと思ったらとことんやるし、自分の思いは曲げたくない。人とぶつかってばかりでしたから」と苦笑い。
 ラーメン店を開業してからもいろいろな苦労があったそうだが、もう人に使われるサラリーマンではない、一国一城の主として、「曲げない思い」でラーメン店の事業に取り組んでいく。すすきのから札幌駅近くに移転する流れの中で、次第にこだわりを深めてきたのが、「医食同源」と「地産地消」。身体にいいラーメンを追求していくうちに道産食材が90%にもなり、北海道の産業に役立ちたいという意識も益々強くなって、そのための研究や開発に納得いくまで時間をかけたのだそう。
 収録後に聞かせていただいたのだが、人気商品の「元気のでるみそラーメン」に使う行者にんにくへのこだわりにも大島さんの真面目さと熱意が表れている。行者にんにくは浦幌町産。安定供給を確保するために生産者を見つけ、冬でも冷凍したものを活用しているそうだが、臭みを嫌う人も多いために、東海大学と連携して匂いを消す調理法を研究し、栄養価はアップする上に“にんにく臭”を気にしないで食べて貰うという理想を実現させるなど、思いを曲げないために努力も厭わないという大島さんの持ち味が伝わってきたのだった。

大島庸司さん そして、「宝ものは?」の問いへの答えが「妻と子供。二人に褒めて貰うために頑張っている」との前述の言葉。だからこそ、「医食同源」と「地産地消」を大事にし、そんな思いを持って仕事に向き合う夫であり、父親でありたい思っていると語る。
 「実際、お二人にはどんな風に褒めて貰えていますか?」との問いかけには、少し照れながら、「妻はとてもはっきりしている人。“好き”と“いい”、“嫌い”と“悪い”が一致していて(笑)、いい時はいいと言ってくれますね」との答え。本州の大学に通っている22歳の息子さんは、催事で百貨店に出店した時に友達を連れてラーメンを食べに来てくれたそうで、「お小遣いをはたいてね・・・友達と。わざわざ来てくれるというのは認めてくれているということだと思うんです」と、なんとも嬉しそうに教えてくれた。
 「宝ものは何ですか?」の恒例の問いには、「家族」と答える人が少なくないが、表現や思いは十人十色。10人いたら10通りあり、それぞれの温度で語られるのがなんともいいなあと思う。

 仕事、そして家族。それに対する人生哲学も幾通りもあるだろうが、ぶれさせてはいけないのは、「仕事は遙か遠くを見つめて邁進しながら、心は一番近い人と通わせる誠実さ」なのかもしれない。大島さんの「一番近い隣人である家族に褒められることをせず、他の人に認めて貰おうというのは違うと思う」という言葉に共感しながら、ゆっくりそんなことを考えてみた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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