10月30日放送

 先日、「話し方」をテーマに2時間ほどの講演を頼まれ、何日かかけて準備を進める中で、「話すこと」に取り組む私の仕事は一体何を大切にしているのだろうと、着慣れたセーターを端からほどくようにじっくりと紐解いてみた。一般的には「フリーアナウンサー」と言われる括りの職業だが、個人的には簡単な日本語で「伝える・引き出す・表現すること」に丁寧に向き合う仕事と言った方がストンと落ちる。そして、特に、この「伝える」ことと「引き出す」ことは、日常の誰にとっても実はとても大事なことなのだと、その意識を高める方法を具体的に浮き彫りにしていった。
 簡単なキーワードにすると、「伝える」というのは「自分と向き合い、自分の内側の思いを言語化する」ということ。そして、「引き出す」というのは「相手に向き合い、相手の内側の思いを言語化する」ということ。どちらも心の中の思いを「アウトプットする」ことであり、車の両輪のように大切なことなのだが、私自身、インタビューや講座でおひとりおひとりに向き合う仕事を通じて、「引き出す」ことの重要性をより感じている。
 夜からの講演のその日の午前中に「ほっかいどう元気びと」の収録があったのだが、奇しくもゲストの方から同じような気づきが話され、そのシンクロに内心驚きながらも、やはり、今、大事なのは、「人の思いに寄り添い、良く聴き、言葉を引き出し、受けとめる」ことなのかもしれないと再認識したのだった。

庄司証さん お客様は、「函館圏フリースクールすまいる」代表の庄司証(あかし)さん 36歳。七飯町のフリースクールで経験を積んだ後に函館市内に設立。学校に行けない、行かない子供達が集える場作りに力を注いでいる。その取り組みについて伺っている中でとても真摯に話されたのが、子供達の話を良く聴く大切さだった。
 「始めた当初は、一生懸命に伝えよう伝えようと思っていましたが、だんだん分かってきました。伝えるより、相手から出てくる言葉を待てばいいんだって」
 何らかの理由があって学校から遠ざかっている子供達にどんな場を提供したいと願いながら活動しているのか、どんなことに気づいていったのかを訊かせていただいた。
 庄司さんは、中学・高校の教師だった父親を見て「先生」という仕事に憧れ、また、実際に自分を受けとめてくれた先生にも出会えたことから教育者を志して教育大学へ進学。子供ひとりひとりと向き合える存在を目指し教員養成のコースで学び始めるが、学校教育制度や仕組みなどを知るうちに、「自分の目指していたものとはちょっと違う」と疑問が。職業としての教員に自分は向かないのではないかとその時思ったのだそうだ。
 子供ひとりひとりを受けとめ時間をかけて向き合う「せんせい」を目指すという理想と現実の中で葛藤していたそんな折り、庄司さんは、七飯町にあるフリースクールを知り、ボランティアとして参加。その後スタッフになり、10年間フリースクールで子供達に向き合う経験をする。その後、函館にあったフリースクールが閉鎖されるという現状に対し、自分がなんとかしなくてはと「函館圏フリースクールすまいる」を立ち上げたのだそうだ。2012年のこと。翌年には市内の民家に拠点を移し、現在の利用者は年間延べ400人ほど。函館市内や近郊の町村は勿論、遠く長万部などから通っている子供もいるという。
 一軒家でのフリースクールというのはどんな雰囲気を想像したらいいですかという質問に、「おじいちゃんのおうちに遊びに行くような感覚です」と、学校らしさのまるで無いほっとするスペースをそう表現し、「ダイニングやキッチンもある普通の家の中、自分のやりたいこと、好きなことが出来る環境になっています」と説明してくれる。「やりたいこと、好きなことが出来る」という時間の使い方とはどういうものだろうと興味が湧いてさらに問いかけていくと、インタビューは早々に深い話になっていく。
庄司証さん 「そこでは自分の好きなことをしていいんです。自由にいつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。何もしなくてもいいよとまで言っているんです」
 そんなふうに言われ慣れていない子供達にとってみれば、そこは「自由を学ぶ場、自由を考える場」そのもの。「自由が課題」という奥深いキーワードをさらに庄司さんに解いていただくと、「制限のない中で自分が今何が出来るのだろう、何がしたいのだろうと、自分をふり返り、自分の中を考えるということをしていくことになるので慣れていない子は大変かと思いますが・・・」と言い、「好きな事って何だろう?それをやっても周囲の人達は受け入れてくれるのだろうかという不安が学校に行っていない子供達の中には強くある。新しいことをやってわがままと思われないだろうかなど考えることは多いけれど、その“考える”ということをし、実際に“行動”してみて、その結果が伴うと、その体験が自分の中の自信になっていくんです」と続ける。さらに、上手くいかないこともひとつの学び。そのひとつひとつの積み重ねが外へ出て行った時の糧になると思うのですと。
 実際には、その日によってのプログラムなども用意し、強制はしないけれど興味あるなら参加してみてと函館山に登ったりスポーツを一緒にしたりという身体を動かすメニューを提案したり、話したいことを話して貰う日なども設けているそうだ。学習支援に関しても、教科書を学ぶ以前に、「こういうことが生活で出来るようになったらもっと楽しく、面白くなる」ということから始めるために、例えば料理をして理科や算数やの学びに繋げるといった実体験の学習をその都度工夫しているとのことだが、基本はあくまでも子供の主体性に任せるということ。
  庄司さんは言う。「この世界にはいろいろなことが満ち溢れていて、それを分かると生きていくことがより楽しくなり、面白くなっていく。いろんな可能性が広がっていく。それを子供自身の中で発見出来ることが素晴らしいことだと思う」と。それを共有して喜べる「せんせい」という存在を庄司さんは今体現しているのだということが真っ直ぐ伝わってきた。

 収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の問いかけには、「(教員の妻と)子育ての最中の3歳半の息子」との答え。とても明るい印象の庄司さんだが、「大学生の頃まで自分の事が嫌いで嫌いで、自分自身を受け入れられなかった」とのこと。何の疑いもなく自分を信じて愛してくれる息子から「人はこうやって人を愛せばいいのだという愛情の表現の仕方を学べました」と笑い、「そんな自分を受け入れてくれたのが妻であり、息子であり、いろんな人に受け入れられて多分ここにいる。そんなふうに“自分は存在していていいのだ”と自分自身が受け取ったものを、“学校へ行っていないから”と否定されがちなフリースクールの子供達にも渡していきたいんです」と、取り組みの根本にある思いが紐解かれていった。そして、そのためには、「自分が伝えよう伝えようとする以上に、相手から出てくる言葉を待つことを大事にしなければと思ったのです」と前述の気づきが言葉になったのだった。

 みんな何かに迷い、何かを怖れ、明日が見えなくなる時もある。でも、そんな時でも、誰かがひとりでも側にいて話を聴いてくれ、そっと頷いてくれたら、また1日頑張ってみようと力が湧いてくる。「受けとめられた」という実感は、「ちっぽけな自分でも大事な存在」なのだということを確認することに他ならない。ほんの些細なことで誰かが誰かを確実に救うこともあるのだと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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