5月29日放送

石川圭子さん 「ほっかいどう元気びと」、5月最後のゲストは、札幌の「古民家Gallery 鴨々堂」店主の石川圭子さん 44歳。専門学校で建築工学を学んで設計事務所や住宅設備メーカーに勤めてきた石川さんが、古民家再生に携わったことで鴨々川沿いの古民家に出会い、札幌の宝として残さなくてはと借り受けてギャラリーにしたのが2013年。翌年にはその界隈の歴史や文化を発掘するイベント「鴨々川ノスタルジア」実行委員会を立ち上げ、古いものから今の私達の暮らしを見直すという視点で多彩な分野の人達とユニークな活動を始めているという。なぜ古民家なのか、なぜ地域の歴史や文化の掘り起こしが大切なのか、込める思いを聞かせていただいた。

 石川さんが鴨々川の古民家を見つけて「鴨々堂」の店主になったのは、美術品などを展示するギャラリーを作るのが目的ではなく、何はともあれ「古民家を保存したい」という気持ちだったという。聞けばそこは大正末期から昭和にかけて建てられた芸者の置屋だったそうで、柱自体は明治の建物に使われていた古材。そのように古民家は材木の加工技術が今と違うために耐久年数が長い。石川さんの中にはその現存する古民家を実際に見て貰って「循環型の社会」の大切さをもう一度考えてほしいという思いがあるのだという。
 そんな心境に至るきっかけとなったのは90年頃。最初に就職した設計事務所で大規模マンションの図面を書いていた時だったそう。鉄筋コンクリートの耐久年数は50年程と学校で習ったことがどうにも引っかかり、しかも50年後に壊すとなった場合に木造と違ってコンクリートは人の手には負えない、リサイクルは出来ない、土には還らない。それが何かとてつもなく無駄なものを造っているような気がしたのだという。そこから環境工学に視点がいって古民家鑑定について学び、なんとかしなければという思いをさらに強くしたのだそうだ。
 「身の丈に合った暮らし方」「手に負える範囲で暮らす」というキーワードを石川さんは慈しむように口にする。手に負える家屋の昔は隣近所互いに助け合っていた。そんな人間関係も含めた「住まう」という全般についてももう一度根底から考えてみたい。古民家に触れることで建築に関して今は当たり前になっている視点をもう一度見直し、「循環型社会」の良さを少しでも知って貰いたい。そのための拠点としての「古民家Gallery 」なのだという思いが石川さんの根底にあることが伝わってくる。そういう場があることで何かが少しずつ違ってくるかもしれないから、という願いにも似た思い。

石川圭子さん 「鴨々川ノスタルジア」というイベントも鴨々川やその周辺の歴史を発掘することで、自分達の住む札幌という街をどうしていくのか、どんな住み方をしたいのかを考えるきっかけにしていきたいのだと語る。鴨々川周辺を紐解くと明治以前の日本の状態が見えてくる。そこからどのように札幌、そして北海道は発展していったかがわかり、それを共有することで今後に何をどう残すのかなど街の見方がこれまでよりも変わってくるはずだ、と。
 そして、「私はただの川好きだということもあるんですけど」と笑いながら、「川をもっとうまく利用する暮らしを見直したい」と続ける。例えば、暗渠にしてしまった新川はその昔、鴨々川から北海道庁までの街の真ん中を流れていたが、そういうものを少しずつ復活させて活用してもいい。雪を捨てたり、水力発電を起こしたり。「鴨々川電力」なんて名を付けて自然エネルギーとして使ってもいいと思う・・・と、川で循環型社会を後押しする構想を楽しそうに話してくれた。
 石川さんの視点は「これから」にある。人口が減少するこれから、すでにあるコンクリートの建物をさてどうしていくか、空きビルが増えていくのをどうするかという構想。「鴨々川ノスタルジア」で繋がる学生達と「ビル一棟が空いていたら何に使うか」を話し合ったり、街の中の残飯からメタンガスを発生させてビルのエネルギーにする方法を研究したりと、都会での循環型の実現に向けていろいろな分野の人達と考えていきたいと話し、それはけっして難しいことではなく、一昔前の生活者達が普通にしていた暮らしからその方法を学び、その時代の「いいところ」を今に合わせて取り入れていけば可能なのではと、これからのより良い暮らし方を実現させるためのその「考え方」を語ってくれた。

 「あなたの宝ものは何ですか?」
 収録後の恒例の問いかけに対する石川さんの答えは、「家族」。21歳の時に娘さんが産まれたことで、ご両親から学んだ暮らし方のすべてをどう娘に伝えればいいかを考えるようになったと家族から家族への「受け渡し」の意味を語る。
 「私の親はすごいことをしていたわけでもないし、完璧でもないけれど、とにかく出来る限りのことをしてくれた。人は100%完璧でなくても出来る時に出来ることを一生懸命することが大事なのだと自分が親になってみて気づきました」と石川さん。終戦後の物のない時代に育ったご両親の暮らしの工夫を娘さんにも引き継いで行くことを大切にしたいと思ったのだと言う。
 そして、「その後経済発展に力を尽くしてきた親の世代が作ってきたものの中で、要るものと要らないものを整理するのが自分達世代の役割」とも。次の世代に何を残すのか、何をどう繋ぐのか・・・時代の急激な変化の中で「住む・暮らす」という身近なことから気づいていけることは少なくないのだと、「個人の身の丈」そして「世の中の身の丈」について、終始明るい笑い声の中に一本筋の通った信念が伝わってくるお話を聞かせていただいた。

 川の流れはよく人生や時代に喩えられるが、私はやはり、老子の「上善は水のごとし」という言葉をことあるごと思い出す。水は器にしたがってしなやかに姿を変え、形に逆らわずに流れる。あらゆる命に恩恵を与えて、無駄なことは主張せず、人の嫌がる低いところへと流れても行く。でも、いざ急流となると硬い岩をも砕くエネルギーを秘めている・・・という、柔らかくてしなやかな水の特性の中に理想の生き方があるという考え方。
 時代はこの先、「成長から成熟」へ向かって行き、川をゆっくりゆっくり下っていく覚悟や知恵、そしてその方法が求められていくのだろうだろうと思う。その時、世の中も人も、「器にしたがって形を変える」工夫や、「低いところにも流れて行く」勇気を試されながら、「いざ急流になれば岩をも砕く力」をじっと蓄えていくのだろう。
 そして、それは、地方都市こそ「下り方」を面白くしていけるのではないか・・・。
 「循環型社会」への提案・発信は、明るく、楽しく、ゆるっと緩めに。そして、歴史や文化、地域の人々を味方に付けてといった「鴨々堂」石川さんのスタンスに触れてそんなことを感じた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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