4月24日放送

 熊本県を中心にした大地震の被害に遭われた皆さまに、心からお見舞いを申し上げます。
 東北の復興がまだまだなのに、まだ避難先から故郷に帰れないでいる人も多いのに、「被災地」がまたひとつ増えたということに気持ちの整理が追いつかない。
 無力感にさいなまれるこういう時は・・・そう、5年前にも学んだはず。自分の場所で自分の仕事をきちんとこなすこと。自分の持ち場を守ること。心をぶれさせないために目の前の選択と判断にひとつひとつ誠実に向き合うこと。そうやって、自分のエネルギーを消耗させすぎないこと。まずは、自分自身と身近な人の健康を保つこと。・・・そうしているうちに、何をしたらいいかが見えてくるはず。
 何を書いても何の役にも立たないが、何より、地震が一日でも早く収まることと、被災地の方々の心身の健康を祈りながら、思いを寄せていきたいと思っている。

安田香織さん ひとつひとつの出来事は、人の心を揺さぶり、考えるきっかけを与え、発奮させ、新たな行動を引き出すこともある。
 「ほっかいどう元気びと」、4月最後のお客様は、去年12月に札幌の豊平区月寒東で仲間とともに「にじ色こども食堂」を立ち上げた安田香織さん 45歳。スタッフのおひとりが経営する茶房で月に2回、子供は200円という低価格で食事を提供している。
 様々な事情によりひとりで食事をしている子供や、経済的に困窮している家庭の子供に栄養バランスのとれた温かい手作りごはんを、無料あるいは安い価格で提供する「こども食堂」の取り組みは全国で広がりつつあり、安田さんも東京で立ち上げた人に実際に話を聞きに行って意を強くし、札幌での開設に踏み切ったとのこと。
 これまでも路上生活者の支援活動を始め、障がいを抱える人達の生活介助事業所や高齢者のデイサービスなどでヨガを通じたボランティア活動を長年続けてきたという安田さん。児童養護施設の子供達とも関わる中で、ちゃんとごはんを食べられていない子供達も少なくない現実を知って何とかしなくてはという思いだったというが、立ち上げていくうちに必要なことがさらに見えてきたと話す。それは、事情を抱える子供のフォローだけではなく、その親の気持ちをも支える大切さ。そして、地域というものが機能し、日々の見守りの中で子供達のSOSもキャッチ出来るような「場づくり」の大切さだという。
 こども食堂がきっかけとなって、昔の近所のように「うちでごはん食べていきなよ」と気軽に子供に声を掛けられる、そんなコミュニティが出来ていくのが理想と話す安田さん。「ひとりじゃないよ、またおいで」と向き合いながら、地域ボランティアの人達や学生さん、子育て中のお母さんや高齢者の方々にも来て貰って、温かいごはんを皆で食べる楽しみを共有したいのだと続ける。活動で配慮したいのは、「こども食堂」=「貧困の子供が集まる場所」という印象で見られてしまわないようにとの思い。「にじ色こども食堂」としては、「支援」が先に来るのではなく、今の社会に少し欠けてしまったものを皆で補うための居場所作りという目的地に皆で向かいたいのだということが伝わってきた。その先にあるのは、「すべての子供達に幸せになってほしい」という願いだ。

安田香織さん 意を決して行動に移すその強さはどこから来るのだろう。
 「宝ものは何ですか?」の安田さんの答えは「心」。ヨガの指導者であり、特に、心(メンタル)を大事にするヨガに取り組んできたという安田さんはこんなふうに続ける。
 「人間には人間にしかない心がある。身内だけでなくいろいろなものを慈しむ心がある。それが今欠けてきているからこんな寂しい世の中になってきているのではと思う」
 そして、例えば、虐待する親も、その「心が欠けてしまう」までの寂しさや孤独があったはず・・・といつも考えてしまうと言い、だから、常に、「心を満たしていく」活動を続けていたように思いますと続ける。
 ご自身も心が疲れ果てた時があってヨガに出会ったと話されていた。人の行動力は、何も「強さ」ばかりではなく、「弱さ」から出てくる力もあるのかもしれないと思う。人の弱さが分かって、寄り添えたり、共感出来たり、共に歩けるといったような・・・柔らかな弱さ。

 「願いはすべての子供達が幸せになること」・・・そんな安田さんの言葉は、私の中にもある「弱さ」を刺激し、私自身がこの放送という仕事を選択した40年も前の気持ちを呼び起こしてくれた。たまたま見たNHKのドキュメンタリー番組。凛とした女性アナウンサーのナレーションで進行するその番組のテーマは「捨て子を生む社会」。当時大問題となっていた「コインロッカーに子供を捨てる」という社会の病巣を追った内容は、二親がいて何不自由なく学校に通っている十代の「普通の子供」である私にとって頭を殴られたような衝撃で、いてもたってもいられなくなった。番組で取材されていたある地方の乳児院のことを知りたくなり、そこで働くためにはどんな資格がいるのかなど突き動かされるように調べ始めたのだが、そんなふうに心が震える中でふいに思ったのだ。高校生の私は今、放送部にいて、放送の事やアナウンスメントを学んでいる。一乳児院で働くことも自分が出来る大事なひとつの選択だけれど、「社会で見過ごしてはいけない様々な問題」を放送することに携われれば、「伝える」ことで何かが変わるきっかけになるかもしれない。放送局に入りたい、と。
 純粋且つ一途な一女子高生はそんな思いで突き進み、何とか放送現場の扉を開けて、今に至る。番組を通して沢山のテーマと向き合い、今も尚、新たな時代が生んだ「老い」の問題や「戦争と平和」などを取り上げたドキュメンタリーにナレーションで関わることもある。初心はやはりその時に感じた「すべての子供達が幸せにならなくては」という思いだ。
 人の仕事の選択はほんの些細な偶然の出会いから始まり、そして、同じような思いでも、人によりそれぞれの仕事に転化させることが出来るのだと、今回の安田さんの取り組みを聞かせていただいて改めて感じた。思いという軸はひとつでも、自転車のスポークのように放射線状に人の役割は広がっていき、それをそれぞれに働かせて、世の中は回っている。個々の熱い気持ちが、その車輪を何処かへ運ぶエンジンになるのだろう。
  子供を取り巻く問題では一昔前とはまた違った難しさが浮上し、その他にも、数々の社会問題は新たに出現し・・・そして、大きな震災でまた、多くの人が辛い思いをしている。
 どんな時代でも不条理なことは消えず、心が波立つことの何と多い世の中かと思うが、だからこそ、ひとりひとりの思いや力が何らかの仕事や活動を生み出すということにも繋がるのだとも思う。日本人は、どうしようもないと思えることにも知恵や技で立ち向かってきた。きっと、今も、これからも、人の柔らかな感性の中から新たな仕事が生まれるのだろう。
 そこに希望を持っていたいと思うし、その弱いからこそ発揮出来る「人の中の力」を、私は伝えていかなくてはと思っている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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