4月10日放送

 前回の「ほっかいどう元気びと」は、「NPO法人セカンドサポート」理事長 芳賀博信さん。「先を読む力」を大事にしながら子供達にサッカー指導をしているということをこの後記でも書いた。日々の生活の中で「あたりまえのことをあたりまえにし続ける」ということからその力は鍛えられる。それは、サッカーが上手くなることに繋がるのは勿論、その人が自分の生き方を自分で考え、責任を持って行動し、その先の第二の人生をも自分で選びとっていくための人間力を育むことにも通じる。元Jリーガーの芳賀さんの取り組みからは、人の中にあるまだ見えない力を「スポーツというアプローチ」で引き出しているということが伝わってきたが、今回もインタビューを終えてみると、全く違う分野なのに、「人づくり」という点で次代の人達に寄せる思いや活動に共通項があることに気づき、その期せずしての連動が面白かった。
 アプローチは違っても、やはり「大切なことは繋がっている」。

長谷川演さん 4月の第二週の出演者は、札幌のデザイン事務所「アトリエテンマ」の代表取締役 長谷川演(ひろむ)さん 49歳。空間デザイナーとしてこれまで900を超える店舗デザインを手掛ける他、ご自身もカフェ「椿サロン」のオーナーとして多忙な日々を送っている。
 そんな中で、今、最も思いを込めて取り組んでいるのは「デザイン塾」。プロを目指す人や大学生のみならず小学校に出向いて実践授業をする取り組みもすでに8年目になるという。NPO法人を立ち上げて、協賛も募りながらボランティアで続けているこの小学生達への授業は、彼らがデザイナーになったつもりでショップデザインをし、模型を完成させるという大がかりなもの。計3回の授業という限られた時間の中でチーム毎に構想を練り、様々な素材を使って模型を仕上げ、プレゼンテーションでアピールするためには、発想力や想像×創造力は勿論のこと、コミュニケーション能力や協調性、伝える力といった、社会に出てから必要不可欠な沢山の力が求められる。
 長谷川さんが子供達に提供したいのは、デザインという仕事の職業体験は勿論だが、同時に、ひとりひとりが内に持つ可能性への揺さぶりだ。「一見して自分には無理そうと思うものでも、実際にチャレンジしてみると出来ることに気づく」というような、人の才能開花へのきっかけ作りが根底にある。しかも、「本気」で取り組めば、内側から「好きなこと」が見えてきて、誰しもが持つ何らかの「能力」が引き出されてくる。
 仕事が楽しいという境地に達するには、そういった「揺さぶられるような体験」無しには難しいし、それを続けていって自分ならではの「オリジナル」にすることでしか達成感は得られない。長谷川さんも経験則でそこを信じているからこそ子供達へ「本気」で向き合う。
 「仕事は楽しいと思うか?辛くて大変だと思うか?」という問いかけから始まるというこの授業。それはそのまま、「仕事を楽しんで生きていくためには何が必要なのか?」という恒久的な問いになって子供達の頭の中に内在化し、その後もひとりひとり答えを探しながら道を進んで行く「よすが」にして欲しいという狙いが込められているのだろう。

長谷川演さん 長谷川さん自身も、とことんその問いを自分に突きつけ、自己を見つめ直し、再構築を考えたというのが30代から40代にさしかかる段階。この先はこれまでと同様では駄目だと自問自答する中で、「デザイン」というものの可能性をもっと広げるために「伝える」ことの重要性に気づき、若い人達や子供達への授業を構想していったのだそうだ。
 収録後の「あなたの宝ものはなんですか?」の聞き取りの中で、さらに、こんな素直な思いが紐解かれていく。
 「あなたは何のために仕事をしているのか?」と尊敬する人からふいに尋ねられたことがあり、その問いに答えられないばかりか全くその質問の意味を理解出来ず、自分自身に愕然としたことがあったという長谷川さん。それまでの仕事のやり方はゴリ押しタイプの完璧主義で、「こうと思ったことは突き進む」ために「バリバリの『上から目線』の人間」。仕事に他の意味など考えてもみなかったことに気づかされ、改めて「なぜ自分は仕事をするのか?」を問い直してみたのだと。そして、子供達への授業を続け、子供達が自分達で劇的に変わっていくことに出会っていくうちに、「上から教える」から「フラットに向き合って、気づいて貰う」というやり方に変わっていったのだと、「自分の中の変化」についてしみじみと語る。

 インタビューしていて、胸の中に温かいものが溢れてくるのはこんな時だ。
 「それまで180度違うやり方をしていた自分が、こんなふうに変われたのだ」という素直な思いの吐露。最近は私よりもゲストの方々のほうが年下というケースが多くなってきているが、30代から40代への切り替えとか、50代に差し掛かったところで気づいたことなど、ほんとうに素の言葉でしみじみ聞かせていただくと、「この人もここまで一生懸命自分の道を切り開いてきたのだな・・・」と、人への愛おしい気持ちで一杯になる。それだけ、人は「自分を変えて前に進む」ことは難しいということも分かるからこその感慨だ。
 そして、そういう「自分が変われた」実感を七転八倒の末に獲得した人は、次の世代の人達、子供達へその方法を受け渡そうという強い思いに突き動かされるのかもしれない。「教える」のではなく、「気づかせる」という「役割感」や「使命感」といったようなもの。
 長谷川さんは、こんな表現もされていた。
 「人の命も百年足らずの借り物。その間に、どれだけ自分を燃やせるか。どれだけ人にいい刺激を与えられるかだ」と。
 「仕事の楽しさ」というのは、きっと、最初の段階は「対価をいただける楽しさ」や「技能を発揮出来た楽しさ」というところにとどまるのだろうが、その次の段階は「誰かに喜んで貰える楽しさ」や「役立っている喜び」へ自分を成長させ、そうして、さらなる仕上げとしては、自分の生きてきた意味を持って「次世代の人達の生きる意味をも引き出すべく刺激を与える」・・・そんな最上級の「楽しさ」なのかもしれない。

 スポーツの分野の芳賀さんからのヒント、そして、デザイナーの長谷川さんが自問自答した「何のために仕事をし、何のために生きるのか?」を改めて噛みしめてみて、微力ながらも私自身10年取り組んできた講座という「人の中のまだ見ぬ力」を引き出す仕事を通して叶えたい思いとの「共通項」をしみじみと感じさせて貰った。
 信念とか志と言われるもの。悩み苦しんでそれらを確実なものとしていく中で、「大切なことは繋がっている」と感じられることこそが人と出会う喜び。
 春4月、さらなる仕事の楽しさに心が躍る。それが、ほんとうにありがたいと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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