2月28日放送

 「ほっかいどう元気びと」で毎週おひとりにお話を伺っていると、全く違う取り組みをしているのに大事にしている基本が一致しているということがよくある。ここのところ気づいたのは、「個別対応=オーダーメイド」という考え方。例えば。足に悩みがある人に手作りで靴を誂える職人さん。例えば、片付けに困っている人にその人に合った整理方法をサポートする人。依頼者や企業の求めるものに応えてエンターテインメントを企画するマジシャン・・・すべてに共通しているのが、目の前のこの人は「何を望み、何を欲し、何を求めているのか」ということを大事にしているということだ。「相手の立場に立つ」ということは実はとても難しいことだが、逆の立場に立ってみれば、どれほど嬉しく、有り難いか。だからこそ、その価値も大きいのかもしれない。

垣實敬介さん 今回お迎えしたのは、道産食材を駆使して料理を提供する料理人だが、お店で既に決まったメニューの注文を受けるのではなく、ケータリングという形態で、希望に合わせたメニューを企画し届けるという「出張料理人」。パーティーなどに料理を届けることは勿論、シェフ自ら出向いてその場に相応しい料理を作り、満足度の高い「おもてなし」を提供することに力を注ぐ「アロイ札幌 株式会社北海道ケータリングサービス」代表シェフの垣實敬介さん。道内あちこちに出向いて「個別対応」の食卓演出に思いを込める、道産子料理人として可能性溢れる38歳だ。
 札幌生まれの垣實さんは、大学卒業後に新聞社に就職が決まり上京するが、東京の水を始め食べ物全般に北海道との違いを感じ、配属先の広告部門の仕事に夢中になる中で体調を壊してしまう。「食べ物は自分の身体にどれだけ大事なのかに気づいてしまった」垣實さんは、1年ほどで辞める決意をし、元々興味があった食の道で食べていこうと札幌に戻って調理師免許を取り、ホテル内の和食会席のお店などで修行を積んで2004年に独立。「出張料理人」としてスタートを切る。
 なぜ、ケータリングという方式での食の提供だったのか?と訊くと、垣實さんは、「『食べ物屋』ではなく、『食べ事(ごと)屋』をやりたかったんです」と答え、お店という形態でマニュアルとして出来上がっているレシピに沿って料理を作るのではなく、お客さんに合わせた料理をオーダーメイドで作って、その空間や時間を丸ごと楽しんで貰いたいと思ったのだと、自分が出かけていく意味を話してくれる。まさに、「個別対応」の取り組み。そして、それは、やっていて心底楽しいのだという思いが伝わってくる。
 和食は勿論、海外へも出かけて料理の研究に取り組んだという垣實さんのレパートリーは幅広く、法要向けの和食膳から、パーティ向けのイタリアン、フレンチ、そして、握り寿司のサービスと、引き出しは多い。例えば、「仕出し料理」なら予め料理内容は決まっているが、垣實さんは、法要の料理でも、故人がイタリアンが好きだったとしたらイタリアンのテイストを織り込むとか、長寿の祝いなら主役のお年寄りが食べられるものを聞いてその家族に相応しいメニューを提案するとか、相手が求めるものを食でしっかりと演出したいと語る。
垣實敬介さん 時には、一般家庭のキッチンで料理の仕上げをすることもあり、出張して出かけていく先に必要なものは何かを想定しなくてはならない難しい仕事でもある。料理人として「相手の立場に立つ」ためにどんな能力が必要なのだろう?垣實さんは、「自分の厨房ではないところに出かけていって作るということで、思ってもみなかったことはいろいろ起こるし、足りないものもある。その時に、どうするかを考えて、何とかするという対応は常にしているかもしれません」と話す。これまでも、野外で寿司を振る舞っていて急に雨が降り出し、近くのテントに駆け込む判断を迫られたり、出張のために「冷蔵車」を頼んだのに「冷凍車」が手配されてきた際、冷凍の電源を出発の際に切って冷蔵庫の状態にして食材を入れて走るということもあったり、「さあ、どうする?!」と判断を迫られることばかりですと続ける。
 それらのエピソードは、収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の聞き取りの時に、修行で使った「宝もの」の包丁を見せてくれながら話してくれたことなのだが、とても楽しそうにハプニングの数々を語るので、「どんな時にもうろたえない、『臨機応変』と『対応力』が垣實さんの能力ですね」と問いかけると、垣實さんは、元々情報処理に興味があって新聞社への就職も決めたので、「あるもので組み合わせる」ということは結構好きかもしれないとご自身の分析を言葉にしてくれる。そして、爽やかな笑顔で、「あとは、気持ちでカバーですね」と気合いの大切さも。
 垣實さんの料理人としてのモットーは、「『食』という漢字は、『人を良くする』と書くので、『食を通して、人を良くする、良き人を作る』ということを大事にしていきたい」ということ。垣實さんが「出張料理人」として、「相手の立場に立って、おもてなしを提供する」という「個別対応」に必要なのは、やはり、何よりも「自分をしっかりと持っている」ということなのだということが伝わってくるインタビューだった。

 「相手の立場に立つ」ということへの配慮は、これからのビジネスで益々求められていくことだろう。そして、仕事のみならず、日常でも、それを意識するのとしないのでは、人間関係構築の質が変わってくる。今の時代は他人にとても無関心。周りからの「承認」を欲求し過ぎる一方、自分と違う他の人への関心は薄い。そして、人の立場に立つという創造力が乏しいと、自我ばかりが肥大してイライラしたり、かっとしたりして、自己コントロールが難しくなる。
 「この人は何を望み、何を欲し、何を求めているのか?」
 もし、目の前の人が理解不能になって、「なんでそうなんだ!」とイラッとしそうになった時には、そんな言葉を自問自答してみよう。
 「相手の立場に立つ」は、仕事にしても人間関係構築にしても、これから益々大切なキーワードになっていくに違いない。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP