2月21日放送

 「ほっかいどう元気びと」でおひとりおひとりにその人生のストーリーを伺っていると、現在の活動に繋がる何かしらのきっかけについて、「その時はとにかく突き動かされるようで、思ってもみない力が出た」「今考えても、なぜあんなふうに行動出来たのか不思議」・・・といった言葉が多くの人から発せられる。「突き動かされ、走り出している」感覚は私も何度か経験していて、しかも、後で結果が腑に落ちることだらけなので、「それはいったい何の力によるのか?」を解明したいとずっと思っていたのだが、多くの方からそんな「自分でもわからない力」について聞かせて貰っているうちに、最近は、「そういうことは確実にあり、ただ素直に従えばいい」・・・と、そんなふうに思うようになった。
 「突き動かされる」ということは、身体の奥にある何かその人を作っている確固たるものからの発露に違いない。自分でも顕在化出来ていない精神の核のような、本質のような、目に見えない何か。私利私欲、邪念を取り払った静かな精神を保つ中で「こうしよう!」とふいに湧いてくる「直感」は、きっとその人の本質が選びとったもの。それは多分、自分の外側に向かって何かに繋がっているのだから、迷わず従えばいいのだと、多くの方々の経験からさらに気づかせていただいている。

白石典子さん 今回のゲストは、札幌で活動する「スキン・カモフラージュ・サービス」代表の白石典子さん 60歳。スキンカモフラージュとは、体や顔の痣や傷痕を特別なクリームで目立たなくするイギリスが発祥の技術で、40年ほど前に英国赤十字社が国民へのサービスとして確立したとのこと。イギリスでは、技術を学び認定を受けた「プラクティショナ-」のみが施術を行うことが出来るといい、メイクテクニックというよりも医療現場で医療行為が終わった後の患者さんの内面のケアやサポートとして機能することも多いのだという。
 白石さんは、その資格を日本で初めて取得し、悩む人に向き合い、広める活動を続けてきた女性だ。その技術を身に付けることになったきっかけが、高齢者施設でハンドマッサージやメイクのボランティアをしていた時。多くのお年寄りとの出会いの中、炭焼きの仕事を続けてきたために身体のあちこちに火傷の痕が残るおばあさんが、「この痕がなければ・・・」と嘆くのを聞いて、メイクで消してあげられる方法はないのかと、そのための技術に関心を深めていったのだという。その頃、白石さんは40代半ば。学ぶ方法を探し、人に会いに飛んで行き、情報を集めて、そして、イギリスで習得出来るとわかると、すぐに単身渡英して資格を取得するというエネルギッシュな行動を起こしている。
白石典子さん 「そのすごい力はどこから?」と訊くと、白石さん、「それは、なぜなのか、自分でも振り返ってみたりしているのですが・・・」と心の裡を紐解いてくれ、何かに突き動かされて何かに向かっていった心境をこんな言葉で答えてくれた。
 「私自身の結婚生活はあまり幸福ではなく、抑圧されていたと思う。だから、自分自身を生きたい、自分自身をすべて表現したいと思ったのだと思います」
 「尊厳を取り戻す」という強い表現も用いながら率直に思いを語ってくださったが、その深い決断と自分を取り戻すためのエネルギーを想像して圧倒される。
 白石さんは、自分の心を解放させることで、自分を「今、いる場所」から「次の場所」へと動かし、同時に「他の誰かの心を解放する」ことの役割に気づいていったに違いない。
 自分の中の「まだ使われていない力」は、「自分を生きる」と決めたその瞬間に溢れ出し、「第三者である誰かのために働ける自分」を自分の中に見つけ、生かすことで、その力はプラスのスパイラルとなっていく。そういう力の獲得が、白石さんの「自分を生きること」なのだと感じられた。

 実際に、悩みを持つ人に向き合うというのは、自分を持っていないと難しい。まして、痣や傷痕が気になっている人の悩みの感情は他人にはわからない。白石さんは、その人のほんとうの心情は家族にも打ち明けにくいが、だからこそ「第三者」の関わりが大切なのだと話す。心掛けているのは、施術希望のクライアントの話をゆっくり聴き、気持ちを受け止め、言葉を引き出していくこと。「あなたの苦しみ、半分貰ってもいいよ」と伝えながら。
 そして、そういった外見の悩みを抱えた人に伝えてきたことは、「本来あなたが持っている美しさは他にある」ということ。「この傷痕のせいで」とか「この傷があるからこれ以上のことが出来ない」と思っている人に、「そこが原因ではない。あなたには他にいいところが沢山ある」と伝え、自分の良さに気づいて貰うことに思いを込めてきたと言い、だからこそ、その悩みの箇所をスキンカモフラージュで目立たなくするということが大事なのですと力を込める。
 イギリスでは、スキンカモフラージュに対して、「この活動は、社会貢献事業であり、個人の私欲のためのものではない」という概念を掲げているそうで、白石さんが最も賛同しているのもその部分。ビジネスとして利益を追求していくのではなく、困っている人に確実に届けたい、そして同じような信念を分かち合える人にその技術を伝えていきたいと、ご自身の中のスタート当初も今も変わらぬ思いを語ってくれた。このラジオ出演も、人知れず痣や傷痕で悩んでいる人に「そういうのがあるんだ」と知って貰えればという思いで受けたのだそうだ。

 「自分を生きよう」と行動を起こして10数年、今実際に、誰かの「自分らしく生きる」ためのサポートをしている白石さん。きっと、「突き動かされるように」この道を選んできたのは、白石さんの内側で今か今かと出番を待っていた「使命」のなせる技に違いない。
 そういう人は、心の中にどんな「宝もの」を持っているのだろう。収録後に問いかけると、スキンカモフラージュの活動とともに続けてきた東札幌病院のボランティア活動についてこんな思いを聞かせてくれる。・・・緩和ケアを充実させてきた病院だけに亡くなっていく人とも向き合うことが少なくないが、患者さんの言葉や行動、生き方にほんとうに沢山教えられてきた。自分の命が残り少ないことを受け入れた人は、自分の中からいろいろなものをこそぎ落とし、尊い人になる。そういう人と向き合うためには、繕わない「素の心」でしか向き合えないと思う。そして、「そのためには、自分が誠実であるかどうか・・・ということが、やはり一番の宝ものかもしれません」と。
 出来ていることは多くはないのですがと遠慮がちに話されていたが、人として何が大切かということが、しみじみと伝わってくるインタビューだった。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP