1月31日放送

 10年程前の数年間、岩見沢に毎月通っていた。朝、バスかJRで札幌から岩見沢に向かい、「話し方」と「朗読」の講座をふたつ担当して帰るといういつもトンボ帰りのプチ出張。冬は雪を漕ぐようにして歩いたが、夏の空気の清々しさは格別。四季がはっきりと区別されている印象が残っている。市街に降り立つと、やはりシャッターを閉めているお店も目立ち寂しい雰囲気は否めなかったが、教室に入れば一転、学びに集まってくる人達の温度の高さを感じたものだった。何かを吸収したいという静かな情熱がたぎっているといったらいいか。他の土地同様ここでも女性が多かったが、自分の内側を耕したいという豊かさが感じられ、短い期間ではあったが気持ちが通じ合う共感・共振の瞬間を何度も感じた記憶がある。
 今回「ほっかいどう元気びと」にお迎えしたゲストとお話をしていて、その頃に出会った岩見沢の人達の魅力の源が何だったのか・・・改めて紐解くことが出来た。

高橋千奈美さん 1月最後の週のゲストは、岩見沢発信のフリーペーパー「これっと」編集長の高橋千奈美さん 47歳。「岩見沢ライフがもっと楽しくなる」ことを目指して岩見沢や南空知といった地域の生活・文化情報の掘り起こしに力を注いでいる。
 高橋さんは岩見沢で10代を過ごし、大学を卒業したのち札幌や東京での仕事経験を積み重ねて2014年に故郷にUターン。若い頃は地味な地元が嫌いだったそうだが、一度離れて、自分自身も多様な価値観を吸収して戻ってみると、様々な取り組みをしている人達があちらこちらにいることに気づき、地元に対して目が見開かれたという。それらの取り組みはひとつひとつがとても魅力的なのに、知られていないものばかり。美味しいものも素敵な場所もいろいろあるのに今ひとつアピールが出来ていない。それはあまりに勿体ないと感じたのだそう。例えば、岩見沢の誇りとして米の作付面積と収穫量北海道第一位という自慢があるが、土地柄として皆とても謙虚。そういう農村特有の「発信下手」な特徴があるとしたら、誰かがその「引き出し」を開ける役割をしなければと突き動かされ、フリーペーパーという媒体で仕掛け作りを始めたのだそう。地域の生活情報誌を通し、何よりも人の息づかいを届けたいという思いなのだと語る。

 地方都市はどこも現状は厳しい。だからこそ、それぞれの特色を生かして地域を盛りあげたい、活性化したい、近隣の地域と手を結んで広域の魅力で人を呼びたいという地元への愛が高橋さんから溢れてくるが、お話を進めていく中で、高橋さんの取り組みの中心にあるキーワードは「人」なのだということがより強く伝わってくる。自分の住む地域で誰かが地道に頑張っているのを知らせたい、才能溢れる若い人も地域に根づいて独自のものを作っていることを知ってほしい、こういう楽しい人が特産を活用して美味しい食べ物を作っているのをわかってほしい・・・などなど、共に地域に住む人への思いが強いことがわかる。
 地方が元気になるということは、人と人とが互いに知り合い、分かち合って、そしてさらに、繋がっていくということ。「情報」の「情」は、「人」と組み合わせて「人情」という言葉にもなる。やはり、「人の思い」なくして「地域」の温度は上がらない。そこに関わる人達が「どんな思いで取り組んでいるのか」を伝えていく大切さをフリーペーパー作りにも込めているのだと伝わってきた。

高橋千奈美さん 自分の住む土地に暮らす魅力ある人達と「繋がっていく」ことが、今の高橋さんの役割でもあり原動力でもあるのだと感じさせていただいたが、収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の聞き取りで、さらにその強い思いの源のようなものが紐解かれていった。
 「宝ものは、ありきたりかもしれませんが・・・人かな」と答えた高橋さん。「なぜ、人なのでしょう?」と問いかけると、「私は、子供の頃から『よく生きたい』と思っていました」という興味深い言葉が返ってくる。「人がよく生きるというのは、どんな生き方なんだろう。いい人生ってどんなことなんだろう」と、小さい頃から自問自答をよくしていたのだと言う。
 これは直接その時に言わなかったが、私自身もどちらかというとそんなふうに考える子供だったので、内心凄くワクワクしながら高橋さんの次の引き出しが開けられるのを待っていると、こんな思いが言葉になって繋がっていく。
 「いい人生って、自分がやりたいことを全うすること?・・・いや、違う。お金持ちになること?・・・いやいや、違うなぁ・・・ということの繰り返し。そのうちに、自分自身というのは、人からいただいていたり、周りの人に支えて貰っているものなんだなと気づいたんです」
 自分が「よりよく生きたい」というのは、結局、周りの人のため。周りの人におかげで助かったよと言って貰えることが生きることだと腑に落ちたのですと、自分と向き合って気づいた思いを素直に表現する。
  自分の中のもうひとりの自分と対話をするというのは、自分を知る作業でもあり、自分を知ることで他人を知るということにも繋がる。大学で哲学を学んだという高橋さんの「自分を知る作業」としての自己問答のお話はとても興味深く私の内側を耕してくれたが、ふと、小さいときからそんなふうに「哲学的」な思考を積み重ねていったのはどんな環境だったのだろうと思い問いを投げかけてみると、「子供の頃はおばあちゃんとふたり暮らしだったので、ひとりで考える時間が多かったからかもしれない」とさらにエピソードを語ってくれる。
 ひとりの時間にラジオを聴き、本を読み、沢山の言葉の力に触れた高橋さんは、1冊の詩集と出会う。谷川俊太郎さんの「二十億光年の孤独」。
 「地球に自分が孤独でいる。だけど、宇宙のどこかでその孤独な者同士が引力で引き合う・・・といった内容なんですが、何か生きる術みたいなものが伝わってきて凄く感動したんです」
 その時の会話を一言でまとめるのはとても難しいが、この地球で人が生きることの意味、誰かとどこかで繋がることの大切さが、高橋さんの10代の感受性に深く響いたのだろうなと思う。今、故郷の岩見沢で、地域に深く関わり、人に積極的に関わる仕事に突き動かされているその確かな根っこを感じさせて貰えたような、興味深いエピソードだった。

(インタビュー後記 村井裕子)

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