1月10日放送

 10年ほど前に作家の井上ひさしさん(1934-2010)の講演を聴きに行き、その際熱弁された「言葉の力」という話がとても印象深かったのを覚えている。
 「人間はどのように言葉を獲得していくか」・・・赤ちゃんがどのようにして母語を話せるようになるかという「言葉と脳」についての話だった。
 それによると、人間の脳だけ、誕生してから大人になるまでに3倍から4倍に成長するのだそうだが、それは言葉の獲得と密接に繋がっているという。まず幼児はお母さんの顔、特に舌の動きをじっと見、母親の発音を聞いて母音を覚え、10ヶ月位からアーとかウーとか言い始めて言葉を習得していく。3歳位には3000から5000位に増えるそうで、それが1回目の言葉の爆発期。「おうちとおんも」「わたしとおかあさん」など、世界は自分と他とが区切られて出来ているという概念を言葉で体得していくという。2回目は、接続詞を覚えて文法的に考えることが出来るようになる小学校に入る前後。その後、中学1,2年生でもう一度脳が成長して、10万、20万にも語彙が膨大になる。「銀河系があって、地球があり、日本がある」という言葉の並べ替えと体系づけが出来るようになるのがこの頃。
 井上さんは、「脳の成長と同時に人間は言葉の力を身につけていく」と力説する。「言葉が人を育てる。他のものでは育たない。言葉の力とは世界観をどう持つかということ。世界像を頭の中に描いて、自分はそれにどう立ち向かうか、どう乗り越えるかということを言葉で判断していくのだ」と。人がちゃんと成長するためには、「言葉のシャワー」を存分に浴びることが大事なのだと納得。それも、「美しい言葉と発音のシャワー」なら尚更だし、そこに物語が紡がれていれば更に脳の発達に好影響を与えるに違いない。大人が肉声で関わるということの大切さを再確認した思いだった。
 家庭でお母さんやお父さんが絵本を「読み聞かせ」ることの大切さもそんなところから来ているのだろうし、家庭内だけではなく本の世界に接して貰う機会を増やそうというボランティアや各図書館の取り組みがここ数十年でずいぶん増えたのもそれを確信しているからなのだろう。難しい効用は別にしても、子供は絵本を読んで貰うのが大好き。多くの方々の地道で温かい取り組みのおかげで本の世界のワクワクする瞬間を多くの子供達が感じているかと思うとそれだけでほっとする。

山川寧子さん 1月おふたり目の「ほっかいどう元気びと」は、札幌市東区のやまびこ座を拠点に「読み聞かせ」の活動を続けている「読み語りの会」代表の山川寧子さん 71歳。
 幼児から小学生に向けて、学校の長期休みを除いて毎週水曜日に30分間、会の仲間8人と手分けをして読み聞かせの時間を受け持ち、雨の日も雪の日も絵本や手作りの紙芝居を読み伝えてきたとのこと。何を励みに、何を大切に取り組んできたのか、その思いを聞かせていただいた。
 山川さんがその活動をボランティアでスタートさせたのは1989年というから、今年で27年になる。当事絵本を読んで貰った子供達も立派な大人になっている年月だ。
  3人の子育てに一生懸命に取り組んで40代になった時、子供達はそれぞれに夢中になるものを見つけているのを見て、「私が頑張れるものは何かないか?」と思った山川さん、たまたま「やまびこ座」で読み聞かせのボランティアを募集していたのを見て説明を聞きに行き、やはり同じ思いで来ていたもう一人の同年代の女性と二人で「読み語りの会」をスタートさせたのだという。
  1989年というと、まだ携帯電話もネットも電子ゲームも一般的ではなく子供の遊びも限られていたが、27年が経つうちには電子機器のゲームなども増えて遊びも様変わり。習い事やスポーツクラブなどに通う忙しい子供も増えて、本の頁を開く時間は減ってきているのが今の時代だ。現に一時、「読み聞かせ」に来る子供達が減った時期もあったそうだが、手作りの紙芝居を取り入れたり、工作の時間を設けてみたり、続ける工夫をしてきてここまでやってきたのだそうだ。山川さんは、マジックなども出来たら喜んで貰えるだろうと習いに行き、絵本を読む合間にそれを披露。「山ちゃんのマジック」と呼んで楽しみにする子供も増えたと言う。
 そして、肝心の絵本を読むときに大事にしているのは、子供達の目を見て、ちゃんと伝える気持ちで読むこと。名書と言われるものも参考にするけれど、やっぱり自分が好きだと思えなければ伝わらないと、自分の思いが込められるような本を選ぶと話す。
 山川さんがいいなと思う絵本は、斉藤隆介作 滝平二郎絵の「花さき山」。山菜を採りに行って山ンばに会った「あや」が、「やさしいことをすると美しい花がひとつ咲く花さき山」があるということを伝えられる物語。東北の方言で書かれた「優しい山ンば」の出てくるお話だ。思いを込めて読むことで子供達も集中して聞いてくれると話し、「とにかく子供達が可愛くて、それを楽しみに毎週通えています」と目を細める。

山川寧子さん 収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の問いには、「子供達とのふれ合いです」と答える山川さん。マジックを見た小学生の男の子が、「マジックの弟子にしてください」と言ってきたり、いつも来てくれている女の子が読み聞かせの後で、「絵本を読むのを私もしてみたい」と言ってきたりと、一方的ではないやりとりがまたいいのですと続ける。そんな読み手希望の子には紙芝居や絵本を預けて、来週まで練習してきてねと準備をして貰うのだそう。「一生懸命読み込んできて、とても上手に聞かせてくれるんですよ」ととても嬉しそう。この交流が原動力なのだと伝わってくる。
 「ひとりひとりは成長していくけれど、ずっと小さい子達と向き合えるなんて、読み聞かせをしていなければそんな幸せにも出会えません」と更に目を細める山川さん。
 子供と向き合い、子供の感性を育み、子供を支えるのは、決して親だけではなく、多くの人達が関われるのだなと改めて感じた。そして、大人にとっても、年齢を重ねても、ほんの身近に「生きがい」の種はある。山川さんにとっては、一冊絵本を読み語りする度に、心の中の山に綺麗な花が一輪咲くのだろうなと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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