8月2日放送

 この世にはあまたの本があるが、実は自分で選んでいるように見えて、その時々で必要なものが向こうからやってくるのではと、この頃特にそう思う。もう10年近く前に読んだ『ブレイクスルー思考』(飯田史彦著 PHP出版)もそんな一冊。なんとなくそうかなと思っていた事柄がジグソーパズルのピースのようにピタピタと填まって、その内容は自分の軸を支える大きな要素になった。
 ブレークスルー思考とは、発想法のこと。よく聞くマイナス思考は、自分の行く手をさえぎる壁(問題)を前にして、絶望し、今後の展開も悪い方向へ進むだろうと考えること。プラス思考とは、その壁(問題)を、なんとかして乗り越えようとする意志を持つこと。現実のよい面に注目したり、今後の展開についても、よい方向へ進むだろうと考えること。当然、プラス思考をするべきと思ってしまうが、この考え方は、無理に壁を乗り越えようと120%頑張ってしまうので、結果、疲れてしまう。プラス思考そのものに抵抗を覚える人もいる。
 飯田さんは、そこでブレイクスルー思考を提唱するのだ。
 ブレイクスルー思考とは、目の前にある壁(問題や障害物)そのものに価値を見出し、すべて「順調な試練」として受け止めることにより、その壁を自分の中に吸収しながら成長をはかり、一見閉じられているかのように見える状況を楽々と突破していくような発想法。
 思いがけない病の場合、「どうして自分ばかりがこんな目にあうの(怒)」「今までのようには出来ないのでもう私は駄目だ(悲)」と考えるのがマイナス思考。「なんとか頑張ってこの状態を乗り越えなければ!」「前向きに捉えなければ!」と力が入るのがプラス思考。
 それに対して、ブレイクスルー思考は、「この逆境はきっと何かの意味や価値があるはず」「何かを変えられるチャンスだとしたら、それは何だろう」と捉える発想の仕方。
 人生観をちょっとの考え方の違いでより良いものにしていく最大のヒントなのだ。

大海恵聖さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、まさにこのブレイクスルー思考の持ち主。どんな困難があっても「ピンチはチャンス」、つまり「順調な試練」と思える人生観には、人が生きがいを見つけるヒントが沢山含まれていた。
 札幌でこの2月に「株式会社 エムブイピークリエイティブジャパン」を立ち上げた大海恵聖(おおうみ・えみ)さん 47歳。「にっぽんの福祉をかわいくしよう」をキャッチフレーズに、杖に貼るキラキラの装飾シールや、杖や車イスの形をチャームにしたピアス、ペンダント、ボールペンなどを次々に製品化してホームページで紹介・販売。これまでなかったユニークな発想でネットワークを広げている。
 そういう製品を作る理由は、それらが全て会話のきっかけになるから。「それ、かわいい!どこでみつけたのですか?」などと声を掛けられ話が始まれば、そこからコミュニケーションが生まれる。これは人と人とを結ぶアイテムなのですと、大海さんは楽しそうに話す。

大海恵聖さん 大海さんが、福祉に関わる仕事を始めることになったのは、関節リウマチという病気を経験したことがきっかけだったそう。高校を卒業して金融機関に勤め、結婚後に手芸を始め資格も取り、人にも教える充実した日々を過ごしていたが、5年ほど前に発症。ご自身が「暗黒だった」と表現するように、もう自分は手芸など出来ないと思って編み物や織物の道具一切を処分し、これからどうなるのだろうと思い悩む日々だったと言う。
 大海さんを変化させていったきっかけは、それらの事情も全部知っている手芸の先生。「ファッションショーに出すものを作って」と言われ、メリヤス編みなら両手を使って出来るだろうと簡単なものを編み始めると、意外にも手の調子が良くなることに気づき、何とか完成にこぎ着けたのだそう。その時の感動はもう涙涙。絶望して内にこもっていた時とこうやって一つのものを作り上げることが出来た今と身体は何も変わっていないのに、チャレンジすることでこんなにも気持ちが違うと気づいたことがとても大きな発見だったと言う。
 その後、障がいを持ちながらも素敵な人達と出会う中で、その時その時の自分を受け入れればいいのだと更に気づかされ、じゃあ、そういう人達のための福祉用具ももっとキラキラさせてかわいくしようと、今の製品作りに繋がっていったのだそう。
 そして、大海さんは言ったのだ。病気はもちろん辛かったけれど、今振り返るとそれが私の世界を広げてくれた。「意味があったのだ」と。大海さんの「宝もの」は、「ピンチはチャンス」という発想。何か困ったことが起こったその瞬間に「きっといいことが待つていると思っている自分がいます!人生はプラスマイナスゼロですから」と朗らかに笑う。
 ブレイクスルー思考は、最初から身に付いているものではなく、困難な状況にも諦めずに向き合い続けた人にご褒美のように与えられる発想法なのかもしれない。収録後の「宝もの」の聞き取りで順風満帆ばかりではなかった若い頃のお話も伺ってそう感じた。

 実は、『ブレイクスルー思考』の著者である福島大学元教授 飯田史彦さんの講演が札幌の北星学園大学で行われるという記事を新聞でたまたま見つけ、このインタビューの前々日、話を聴いてきたばかりだった。
 テーマは、「科学的スピリチュアル・ケアによる生きがいの創造」。人が生きているこの世は、目に見えるものばかりではなく、目に見えない様々な宇宙の法則によって生かされている。その人智を超えた力を柔軟に受け入れることで、人生のあらゆる事象に意味を見出すことが出来、生きがいを持つことが出来る。つまり、人生は自分を成長させる修行としての「順調な試練」に満ちていて、失敗、挫折、不運は存在しないのだという思考法が講演の骨子。スピリチュアルという誤解されやすいテーマでありながら、神秘的な概念のみに凝り固まるのではなく、その精神性によって日々の暮らしにおける人生観を価値あるものに創造していくことが出来るという考え方は、不安の大きいこの時代に静かに浸透していくのではと興味が尽きなかった。
 あなたの人生には無駄なものはひとつもない。人は皆何らかの意味があってこの世に生まれている。だからあなたの命は大切な命。そういう大事なことを思い出すために、会うべき人には出会えるし、読むべき本にもちゃんと出会えるのだろうか・・・。

 大海さんへのインタビュー後の雑談でのこと。「にっぽんの福祉をかわいくしよう」に賛同してメールをくれた東京の女性とバリアフリーを広げるためのポップな新商品の販売を協力し合うことになったという話が大海さんからふいに出された。よく聞いてみるとそのユニバーサルデザイン・プロジェクトマネージャーという女性は私の知人(!)かつて映画の自主上映のお手伝いを私も東京で関わっていた時に出会ってイベントの仕事などもご一緒した人だということがわかり、繋がりの不思議さにびっくりというおまけがあった。
 この世にはあまたの人がいるが、出会うべき人には出会う。
 何かを気づかせるかのように、様々なところにあらかじめ糸が張りめぐらされているようで・・・この世はやはり面白すぎる・・・!

(インタビュー後記 村井裕子)

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