7月12日放送

 今回、「ほっかいどう元気びと」でインタビューしていてふと浮かんだのが、孔子の言葉。
 子曰く、
 吾十有五にして学に志し (志学 しがく)
 三十にして立つ (而立 じりつ)
 四十にして惑はず (不惑 ふわく)
 五十にして天命を知る (知命 ちめい)・・・
 という、お馴染みのくだりの、その次に来る表現。
 六十にして耳順(したが)う (耳順 じじゅん)
 60歳になって、人の意見を素直に聞けるようになった・・・というところ。
 60歳になって、それが出来るようになる。ということは、逆に言うと、そこまで年齢を重ねないと「人の意見を聞く」というのはたいそう難しいことなのだということだ。

杉原俊明さん 今回のゲストは、札幌市宮の森の住宅街で「フーズバラエティーすぎはら」を経営する代表取締役店長の杉原俊明さん 51歳。元々は父親が営んでいた八百屋を受け継ぎ、三代目として試行錯誤しながら地域密着のオリジナルスーパーマーケットを展開してきたとのこと。大規模店の時代が押し寄せ、閉店の危機に見舞われながらもお店を存続させてきた陰にはどんな取り組みがあったのか、その内なる力はどのようなものなのか、紐解かせていただいた。
 杉原さんは、子供の頃は父親の家業の八百屋を「カッコ悪い」と思っていたという。冷蔵技術が今ほどではなかった頃、その日の内に新鮮なものを売り切るため早朝から夜まで働き通し。店を継げとも言われなかったので、テレビで見て憧れたサラリーマンになろうと東京の大学に入って建築を学び、札幌の住宅メーカーに就職。が、しかし、ドラマとは裏腹に配属された営業の仕事は苛酷で、精神的にも追い詰められ一気に不健康な身体に。
 そんな時、たまたま目にした還暦の父親のイキイキ働く姿に心動かされ、自分の居場所はそこにあるのかもしれないと家業に戻ったのだそう。とはいえ、野菜を扱った経験はゼロ、知識もない。市場で出会う人にノウハウを聞いてスタートさせたものの、まだ八百屋への恥ずかしさを抱え、「やらされている」という受け身の思いでいっぱいだったという。
 その頃は、大量に売る方式が儲かると聞けば、ビニール袋に詰め込み放題の安売りスタイルに転換して地元の長年のお得意さんに敬遠されたり、チェーン店化がこれからの時代だと聞けば、加盟後に画一的な商品構成に変わり地域ならではの魅力を失ってしまったり。不良在庫の山を前に、もう店を畳もうかと思ったこともあったのだという。

杉原俊明さん そうこうするなかで、浮上のきっかけは訪れる。放送では触れなかったが、あきらめようと思っていた矢先、「あなたのお店の生鮮は他にはない価値があり、その素晴らしさを生かすチャレンジをさせてほしい」と、インターネット注文で宅配するシステムを提案する人がふいに現れたのだという。きちんと価値を再確認した上でのテコ入れは功を奏し、今その方式は、沢山のお客さんを満足させる仕組みとなり、いきなり訪れたキーパーソンとも言うべきその人物は現在重要なスタッフになって支えてくれているとのこと。
 人の出会いは面白い。さらに、当時、農学博士として北海道の未来の農業の有り方を提唱していた故・相馬暁(さとる)さんから言われた一言が、その後の重要な転機になったそう。
 「八百屋は素晴らしい仕事だよ。生産者と消費者を繋ぐ。だけど、あなた達流通の人間が一番勉強していない」
 たまたま出会った相馬さんのその言葉に発奮して、野菜ソムリエの勉強を始め、資格を取り、どんどん自分の役割を確認できていったという。
 杉原さんは、「相馬さんの言葉は予言のように、今、多くの人が意志を受け継いで北海道農業をより良く変えようとしている。生産者の人達が北海道のすごい作物を作ろうと頑張っているのだから、それを売る自分達ももっと頑張って、北海道全体を底上げしていかなくては」と、真っ直ぐに語る。
 人は、やはり人で変われる。そのきっかけを逃してはいけないということなのだと思う。
 お話を聞いていて感じたことを投げかけてみた。
 「杉原さんの中には、素直さがあり、人の言葉を聞いて、自分を変えようと行動出来るところが強みですね」と。
 杉原さん、笑いながらこう答える。
 「いやいや、以前は、全く人の言うことなんか聞いていなかった。やっぱり、どん底を経験したことで人の言葉も聞けるようになったのだと思います」

 「耳順う」。人の言うことに耳を傾けるということは、いくつもの経験が必要なのだ。それは、60年もかかるほどの。失敗という経験も、うまくいかなかった経験も、枕を涙で濡らした夜さえも無駄ではなく、すべて土台となってその人を作る。
 杉原さんは、北海道の生産物を底上げして北海道全体をより良くしていくそのひとりでありたいという願いとともに、地域では「町医者のような」ポジションでいたいと、72年もその場所で愛される店の役割としてそう表現する。
 野菜の力は凄いから、季節季節の野菜を厳選して提供することでお客さん達の健康を後押ししていきたいと、「八百屋」という仕事への誇りを存分ににじませていた。

 そういえば、孔子のさらに次のくだりは、
 「七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず(のりをこえず)」(従心 じゅうしん)
 七十になってからは、思うままに生きても人の道から外れるようなことはなくなった・・・という意味。
  大変なことだらけの人生でも、人の中の「素直」という種を育てていければ、必ず誰かが水や栄養を与えるきっかけをくれ、やがて「思うままに」という実を結ぶことが出来るのかもしれない。
 辛いときこそ、腐らずに、枯らさずに、諦めずに。

(インタビュー後記 村井裕子)

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