6月28日放送

 今の世の中。身の回りは安全だし、食べるものも豊富にある。例えば70年前などに比べると圧倒的に暮らしは豊かだ。だが、しかし、いつのまにかあれやこれやがかなりあやうい岐路に差し掛かっている。我々が歩いているこのロープの先はどこへ繋がっているのか、どこへ繋ごうとされているのか、望まぬ先になだれ込みはしないのか・・・気づくとかなりのタイトロープ。どうする?ここから先の往く道。次世代に渡す道。どうやって、「このままだと大事なものを失うのでは」という怖れと不安を、そう思っている人達と分かち合ったらいいのか?
 今はまさに皆がロープの真ん中に立たされて身動きが取れなくなっている感覚なのではと思う。平和の問題に関してもエネルギー問題にしても、だ。
 ひとりの力は小さくて何も変えられないと思いがちだが、少なくとも準備しておけるのは、「私はその方向は嫌です」や、「こうなら納得出来ます」といった自分の意思と意見。そのために正しく知るということ。
 そして、もうひとつは、日々の暮らし方や仕事・取り組みを通して意思を表明し続ける方法。ひとりひとりが思いを込めたライフスタイルを発信することで必ず共感者は繋がり、この国に暮らす人びとはこんな生き方をしたいのだという生活者からのメッセージが波紋のようにじわじわ広がっていく。「ほんとうに大切な暮らし方とは何か?」と問いかけ続ける、智恵と実行が伴ったボトムアップ方式だ。特に地方から発信する意義は大きい。
 今回の「ほっかいどう元気びと」でインタビューをし終えてそんなことを思った。

大澤俊信さん お迎えしたのは、北海道では初めてという、自然にも人にも優しい環境配慮型のエコアパート「かたくりの里とうべつ」を運営する大澤俊信さん 59歳。大澤産業株式会社の代表取締役として、次の世代の子供達のための環境づくりや地域作りに取り組んでいる。
 大澤さんは、30年以上東京の企業で社員教育を主に担当し、ご両親の介護のために故郷である北海道の当別町にUターン。父親が手掛けるアパート経営を引き継ぎ、以前から理想としていたエコアパートに方針転換をしたという。
 森林の町・当別の強みを生かして建材を道産材に。化学物質を使わないことで人に優しく、ストーブは木質ペレットにすることでエネルギーへも配慮。メゾネットタイプには菜園スペースも確保することでごく自然にお隣との交流も楽しめるという工夫も。そんな人と人とのふれあいも大切にした仕組み作りは、大家でもある大澤さんの大事なこだわりだ。
 エコやロハスという言葉が定着しつつあり、一軒家では環境配慮型の住宅も少しずつ増えてきたが、賃貸アパートは効率を考えるために環境を考えることはどうしても二の次になるのが現状。それを何とか理想の形にしようと尽力されたとのこと。
 最大のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災。未曾有の災害や原発事故を境に、暮らしを根底から考え直さなければという思いを強くしてきたのだという。
 あの時、日本中がこの悲惨な経験を忘れてはいけないと深く胸に刻んだ思い。生き方を根本から見つめ直そうと奮い立たせた決心。年月が経ってもその思いを薄れさせないようにという気概が暮らし方の提案に込められているということが伝わってきた。

大澤俊信さん 大澤さんの「宝もの」は、「人との出会い」。
 影響を与えたり与えられたりして沢山のことが繋がって来たと話し、人と人が出会い、向き合い、話をするその効用をこう続ける。
  人は人と話すことによって、AやBだったものがCにもなる。全く違うものが出てきて可能性が広がり、アイディアが溢れだし、行動に繋がっていく。そのために必要なのは、自由に思いを話せる場を作ることであり、異論・反論も受け入れるということ。そして、最も大事なのは、「あなたは、人間としてどう思うのか?」という本質的な意見を交わすこと。そういう「創発セッション」が様々な活動でも地域作りでももっと必要になっていくと、今後、益々注目されるというキーワードを使って話してくれた。
 人がそれぞれ取り組んでいることも、「話す」ことで初めてその人が目指すゴールが想像出来る。大澤さんは、「今の取り組みは次々世代のため」と断言する。住まいの環境、地域の環境を本質から考え実践していくことは、そこで育つ子供達の未来をより良くすることなのだと。
 「もし、今、自分の子供が産まれたとしたら、この当別でいい子育てが出来ると思うか?」という問いを自分にも周りにも投げかけ、一度町を出てもここに帰って来たいと思えるような地域作りに繋げていきたいのだと、大澤さんの取り組みの軸になっている本質の思いが紐解かれていった。
 「ほんとうに大切な暮らし方とは何か?」を、智恵と実行で見せていくボトムアップ方式。地方である北海道の隅々から発信するひとつひとつが、全体を大きく変えていく力になっていくのかもしれないと、沢山の触発をいただいたインタビューだった。

 次よりも更に次に来る子供達のために、タイトロープ上の私達は、今、何が出来るだろう。
 「なぜ2010年代の人達は流されてしまったのだろう。無関心だったのだろう。私達の生きる環境をこんなに台無しにしてしまって・・・」と恨まれないために、自分にも相手にも問いかけ続けなければならない。
 「それは、人間としてどう思うのか?」と。
 今まさに分かれ道の、エネルギーも、自然環境も、そして、平和についても、すべてはひとつに繋がっている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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