6月14日放送

 人の中にはどんな可能性があり、それはどんな時に発揮されるのだろう?・・・
 そんな思いを大切に、人の中の力にクローズアップしてインタビューしている「ほっかいどう元気びと」。200人を超える人達にお話を伺って気づくのは、それぞれ何かにスペシャリストとして取り組み続ける一方で、案外複数の活動や仕事をこなしている人も少なくないということだ。
 例えば、医師とピアニストを両立させている人や、パン屋さんをしながら海外の野球支援のリーダーとして奔走する人、農業に取り組みながらオーケストラ団員という人、スポーツ界でもチームの代表兼現役選手という超人もいる。時間の使い方がハードとはいえ、そういう人は皆、こともなげにそれらをこなし、そして何より楽しそう。自分の軸が何本もある分、生命力が強いという印象だ。そのバイタリティーは、「好き」を超えて、やはり、何か自分の中から「突き上げてくる」ものに動かされているのだろう。

クリストファー・ブラウンさん 今回のゲストも、礼文在住のそんな〝マルチ〟な人。アメリカはミシガン州出身のクリストファー・ブラウンさん 37歳。英語指導助手として礼文町教育委員会職員を本職としながら、趣味で撮りためた島の絶景写真が観光PRにも一役買うようになったという、気がつけば〝町の広報マン〟となって力を発揮している人だ。
 デトロイトの隣町で生まれ育ったというブラウンさんは、子供の頃、未来が怖いと感じていたという。大人になったらどうしよう。大人は楽しそうじゃない、と。国の外へ出たら何か見つかるかもしれないと日本へやって来て、いろいろな偶然に引っ張られながら北海道の北の先、礼文島へ。現在、保健師として活躍する奥さまとふたりで暮らし、英語教師という定職がある上に島の写真を自在に撮り続けている日々は、まるで子供の頃の楽しさの中に戻ったようだと語る。

 何か一心に取り組むものを見つけた人のその「道」は〝意味のある偶然〟に彩られている。
 ブラウンさんと北海道の縁も、高校生の頃に広島市に留学しホームステイした家族から夏の北海道の素晴らしさを聞いて印象に残り、英語科教員の募集で来日する時に「場所は北海道で」と希望を出したのが始まりだったという。
 偶然と言っても〝棚からぼた餅〟ではない。行動が伴って、初めて「道」は出来ていく。
 道内数ヵ所で小中学生に英語を教えていたブラウンさんが礼文島に渡ることになったのは、奥さまが保健師の資格を取って先に礼文町に赴任していたから。追いかけるように移住はしたもののまだ英語指導助手の空きがなく、一年半ほど無職も体験。心境は「とっても不安」で、仕事が見つらなければ礼文を離れなければならないし、日本にいることもどうなのだろうと焦りもあったという。
 運良く教育委員会職員として採用されて今があるのだが、面白いもので、その1年半という空白の時間があったからこそ、今のブラウンさんが作られていくことになる。
  そこは北海道有数の風光明媚な離島。家の窓からは雄大な利尻山。毎日が日曜日という身分を最大限利用して礼文をくまなく歩き、写真を撮り続けたのだ。
 冬は冬でスノーシュー(それは「かんじき」のことですと、上手な日本語で発音されていた)を履いて礼文岳に分け入り、ほとんど知られていないその厳寒の景色をフィルムに収め、自費出版で写真集「Rebun Winter 礼文の冬」を出す。
 観光ガイドではない、礼文という最果ての地のパワーに溢れた風景を多くの人に見せたい、島にはまだまだこんな場所があるのだということをとにかく知って貰いたいというのが撮影者ブラウンさんの願い。その思いに呼応するように写真が少しずつ知られ、また町主催のフォトコンテストでグランプリに輝いた作品が礼文町の観光ポスターにもなり、ブラウンさんは、さらに他の季節も撮り続けて第二弾、第三弾の写真集を作って是非見て貰いたいと、とても表情豊かにこれからの離島での夢を語る。ここにいられるかどうかもわからないと不安一杯だったという人が今は島を広く報せる役割をも果たしているというその「道」を振り返ってみれば、まさにワクワクな〝Wonderful life〟そのもの。
 「宝ものは、私の人生」と言い切っていたが、不遇の時期やうまく前に進まない時期こそ、実は大切な〝準備の時間〟なのだ。その時その場でやれることをやっていればちゃんと道は繋がっていく・・・そんなことを改めて気づかせて貰えたインタビューだった。

クリストファー・ブラウンさん 日々は英語教師のブラウンさんだが、全く違う格好で山へ写真を撮りに行く時に生徒達とすれ違えば、「あなたはいったい誰ですか?」と思われることもあると笑う。ふたつの顔を満喫するというのは、人生を2倍濃厚に生きることなのかもしれない。
 最近読んだ本、「人は、誰もが『多重人格』 誰も語らなかった『才能開花の技法』」(田坂広志著)が、まさにそんな多彩な生き方のススメ。
 田坂さんは、「人は、誰もが、心の中に『幾つもの人格』を持った『多重人格』です。それらに光を当て、意識的に育て、状況や場面に応じて適切な人格で処することを覚えるならば、自然に『幾つもの才能』が開花していきます」と説く。
 「才能」の本質は「人格」であるから、自分の中に「様々な人格」を育て、それを切り替えながら仕事に取り組むことで、自分の中のまだ見ぬ「多彩な才能」が発揮されるのだ、と。
 例えば、英語教師として誰からも尊敬される人格を磨き、同時に、カメラマンとしてフィールドで動じないバイタリティ溢れる人格を高める。そうすることで、幾つもの才能を自分で高めることが出来る人になっていくということ。
 それを可能にするのは、〝私の仕事は〇〇だから、△△の力はありません〟などという「自己限定」をしないことだそうだ。
 自分は何がしたいのか・・・心の内側から聞こえてくる声に耳を澄まし、日々使う言葉を厳選して、自分の中の力を信じてみよう。

(インタビュー後記 村井裕子)

※資料 「人は、誰もが『多重人格』 誰も語らなかった『才能開花の技法』」田坂広志著 光文社新書

HBC TOPRadio TOP▲UP