5月31日放送

 朝の連続テレビ小説。この3月までの「マッサン」の主題歌は、中島みゆきさんの「麦の唄」。ごく易しい言葉なのに物語の真髄が浮かび上がってくるような素晴らしい歌だった。
 確か年明けの回だったと思う。歌い出しを聴いて「あれ?変わった?」と思った。心をグイッと鷲掴みにされたような衝撃があり、あれよあれよという間に涙が止まらなくなった。
 なぜ?と思って録画を聴き直してみると、聴き慣れていた一番が二番に変わっており、その歌い方が一番の時とは格段に違っていたのだ。思いを込めているとか、深みがあるとか、簡単には表現できない中島みゆきさん特有の「凄み」といったらいいか。「朗読」表現で言えば、ここぞという言葉を発する時の「息づかい」の妙味に溢れていて、それからの毎朝、「大好きな」とか「愛する」という言葉に差し掛かると決まって涙を誘われ、メイクしたての時などはほんとうに困ったものだった。
 中島みゆきさんの真骨頂を再確認した主題歌だったが、歌であれ何であれ「テクニック」で人は泣かない。たぶんすごく簡単に言ってしまうと、「魂」の歌い手だからなのだろう。

前田重和さん 魂の込められた歌、嘘偽りのない歌、ほんものの歌・・・それは、人の人生をも揺さぶり、力強く前に踏み出す勇気を与えてくれる。今回の「ほっかいどう元気びと」は、そんな「ほんものの歌」を歌う人を世に送り出したくてミュージシャンの卵達を応援し続けてきた人。
 札幌の東区で40年間「コーヒーハウス ミルク」のマスターとしてコーヒーを淹れながら、音楽プロデューサーとしても活動してきた前田重和さん 68歳。喫茶店の開店から5年後の1979年には、バンドの練習が出来るようにと「STUDIO MIKL」も手掛け、格安でミュージシャン達の技を磨く場を提供してきたという音楽一筋の人だ。
 前田さん自身も若い頃から音楽に情熱を傾け、バンド活動やシンガーソングライターとしてメジャーを目指した時期もあったというが、応援する側に回ったのは、中島みゆきさんに会ってしまったからだという。70年代、音楽の世界も新しいものを生み出そうとするエネルギーが渦巻いていた時代、前田さんと中島みゆきさんは「北大フォーク研究会」で知り合い、初めて中島さんの歌を聴いて衝撃を受けた前田さんは、「自分はこういう人を世に送り出す手助けをしなくては」との思いで、卒業後にライブハウスも兼ねた喫茶店「ミルク」を手作りで完成させたのだという。
 中島さんの「ミルク32」という歌に出てくるマスターはやっぱり前田さん?と訊くと、満更でもなさそう。ただ、「中島(みゆきさん)に会ってしまったおかげで、中島を超えるようなミュージシャンを世に出したいと、とてつもなく高い目標になってしまった」と、その達成に向けてまだまだやりたいことは山ほどあるとの志を力を込めて語ってくれた。

 共感したのは、スタジオに練習に通うミュージシャンの卵達との距離の取り方。決して近くなりすぎないように、でも、なんとか伸びてほしいので、喫茶店から少し離れたスタジオに掃除に行ったついでに、漏れてくる音を聴く。その音がそれまでよりもより良く変化していたら、タイミングを逃さずに伝える。誉める。なぜならば、本人達は「変わった」ことに案外気づかないから。どこが、とんなふうに、どうより良く変化しているかを誰かが捉えて指摘してあげることでそこからまたグンと伸びる。それは経験でわかると、前田さんは言う。
 そして、音楽で成功する人の秘訣は、なんと言っても練習にあり。人並み外れた練習の出来る者だけが自分で自分の力を引き出すことが出来る。だからこそ、場を提供し、そっと寄り添い、ここぞという時に誉めて、気づかせ、誰かに繋ぐ仲立ちをする。音楽という、底知れぬ魅力の吸引力があり、同時に生半可な覚悟では弾かれてしまうような厳しい世界を目指す人への愛情がずっと継続しているのだということが伝わってきた。
 そして、「“ほんもの”だからヒットに恵まれるとも限らない。それは売れる売れないのビジネスと相容れないところもあって、そこが大きな悩みどころ」とジレンマも語る前田さん。とはいえ、そういう答えが出ない難問や課題も、80歳、90歳に到達した段階で解ける知恵が授かるかもしれない。自分は人間の遺伝子が可能とされる120歳まで生きると目標を置いて、答えを見つけるのを楽しみに歳を重ねていきたいと、意識付けこそが命を伸ばすという超前向き独自理論を語ってくれた。

前田重和さん そんな前田さんの「宝もの」は?
 「モノにはこだわらないから・・・無いなあ。でも、大事なものなら・・・やっぱりカミさん」
 苦労を共にしてきた大切な存在。前田さんは、「人間として尊敬している」と、きっぱりと言う。伴侶のことを、特に男が妻のことを「尊敬している」と言えるというのはなんと素晴らしいことだろう。前田さんは、若い頃にフォークを始めた時点でもう見栄も評価して貰いたいという気持ちもないし、夫婦の間でも嘘がない・・・と話されていたが、人と人との間で「尊敬」ほど輝く宝はないと私は思う。
 「尊敬」=「respect」は、「re(もう一度、遠く)+spect (見る)」という意味。「距離をとって見つめる」ということだと何かで読んだことがある。近くに見えすぎて感情的になる間柄を少し離して再び見てみるというのは、夫婦の間柄でこそ欠かせない視点だ。

 音楽を目指して集まる若者達にも前田さんはそんな眼差しで接しているのだろう。一般的な「誉める」という上からの評価ではなく「尊敬」の視点で良さを見つけ、言われた人に勇気が湧くような水平の言葉掛け。40年にも渡って多くの人達が前田さんの元に集ってきた理由は、そのあたりにもあるのではと感じた。
 これから高齢者人口の圧倒的割合を占めるのは、前田さんのような団塊の世代の人達。その年代の人達の生きる姿勢と発する言葉が世の中の空気を左右する時代が必ずやってくる。
 話を聴き終えて思った。女性も男性もなく、年が上だの下だのも関係なく、人のいいところを「いい」と言える尊敬のまなざしを持てる人があちらこちらに溢れてほしいな、と。そして、やはり、「ほんものを求める心」「何が大事か」を貫き続ける気概を見せ続けて欲しい。
 そんな「フォーク」な、或いは「ロック」な魂で生きるニュー高齢者が益々増えたら、この世の中、この北海道、何かがきっと変わるに違いない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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