5月3日放送

 朝の連続ドラマが、見慣れた北海道の余市から舞台は変わったが、その後も主人公まれちゃんの一生懸命さと道産子・大泉洋お父さんの怪演を楽しみに見続けている。
 サイドストーリーではあるが、大きく儲ける夢ばかりを追いかける癖(へき)がある不甲斐ない父親から目が離せない。お父さんにハラハラしているのか大泉洋に呆れているのか、もうそのへんごっちゃになってしまうのもドラマを見る楽しいところ。
 このドラマでしっかり者の主人公が何度も口にするのが、「地道にコツコツ」という言葉だ。父親への批判から夢を持たないようにしてきた彼女が、この先やりたいことをどう叶えていくのかが楽しみだが、よく考えてみれば、「夢か、地道か」の二者択一はナンセンスな選択ではある。「夢を叶えること」と「地道にコツコツ」は別物ではなく、必ずセットになっているものだからだ。一瞬で何かを成せる仕事などこの世にあるはずもなく、夢を叶えるべく地道にコツコツ進んでいくからこそ必ずどこかへ辿り着けるのだ。
 「ほっかいどう元気びと」で200人以上の方にお話を伺っていると、どんな仕事でも取り組みでも何かを形にしてきた人は「地道にコツコツ」を実践している人、さらにそれを「続けることが出来る人」ということがわかってくる。

石井啓太さん 昔々は「一攫千金」という言葉でも表現された北海道の漁業。時代は変わって、これもまた日々の地道な作業が確実な明日を作る大事な産業として北海道を支えている。
 今回お話を伺ったのは、宗谷の海で漁業を営む稚内市の石井啓太さん 39歳。秋鮭定置網漁に従事しながら、加工品による地域ブランドの普及のための取り組みや、北海道や宗谷の漁業青年部の代表として次の漁業を見据えた活動などもにも力を入れている。
 秋に忙しい秋鮭定置網漁。その他の季節は?と訊くと、本格的な時期のための網の手入れや準備が実は大事なのであり、日々の細々とした作業の積み重ねがあるからこそシーズン中の安全な操業に繋がっていくのだと、今の時代の「漁師」の日々を語る。
 さらには、付加価値を高めるための加工品の研究・開発も不可欠。鮭と聞いて「宗谷」と思い浮かべる人はまだまだ少ないため、地元の特産品としてもっとアピールするにはブランドの確立と普及が欠かせないとばかりに、ここ数年は「宗生(そうき)」というブランド名で活けジメ鮭を売り出すなど、その美味しさの伝え方にも工夫を凝らしているのだそうだ。
 そして、鮭の稚魚の放流といった「育てる漁業」への取り組みも。
 育てると言えば、子供たちにも海の魚のことや漁業のことを知って貰いたいと、学校へ出向いての「出前授業」も継続中など、漁業の地道な作業のひとつひとつを話してくれた。

石井啓太さん 石井さんは、漁業への転職組のひとりだ。宗谷の漁業の中心として尽力していた祖父から誘われて、それまで水産卸の仕事などに従事していた札幌から稚内に移住。自分の人生これからどう生きようと考え始めた25歳での転身だったそう。
 「時代の流れに合わせて漁業も変わっていかなければならないというのが祖父の思いだった」と言う石井さん。その意志を孫の自分が継げて良かったと石井さんは語り、それを、今度は次へ繋げていきたいと未来へ思いを馳せる。
 収録後の「宝ものは何ですか?」の聞き取りで、「ふたりの子供」と答えた石井さんは、今5歳と3歳の男の子のどちらかひとり、出来ればふたりともこの仕事を受け継いで貰いたいと言い、早いうちから仕事場に連れて行っているのだと、お父さんの顔で話してくれた。
 すでに上の5歳の子には鮭漁の船にも乗せてみたそう。
 「船酔いしても涙を溜めながらじっと柱にしがみついていた。皆は仕事だとわかっていたから泣かなかった。そして、その晩にまた行こうねと言ってくれたんです」
 そう嬉しそうに語る。
 陸に上がっての仕事である加工場や稚魚の放流にも連れて行くという話からは、派手なところだけではない地味でコツコツのところもきちんと見せたい、この仕事をしっかり繋ぎたいという意志が伝わってきた。 

 石井さんは、「もし、仮に自分がこの仕事を辞めたとしても何かが大きく変わることはないと思うけれど、自分が割り当てられたところで今出来ることをしっかりと果たすことは、宗谷の、そして、北海道の漁業全体を盛り上げていくことになる」と、静かな口調で語る。
 ああ、「一隅(いちぐう)を照らす」ということなのだなと深く共感し、番組最後のコメントでその言葉を引いた。
 「自分がかかわるほんのひと隅、置かれた場所で精一杯努力して光を放つことで、社会全体も照らされていく」という意味の仏教の言葉「一隅を照らす」。
 この言葉を知った時、なんて創造力が豊かに広がる表現なのだろうと言葉との出会いに感謝し、自分に出来ることを精一杯続けていけばいいんだ・・・と、目の前が拓けるような気持ちになったことを覚えている。

 自分の場所を照らすだけでも決して簡単なことではないから、やはり「地道にコツコツ」を意味したものなのだろう。とはいえ、同じ照らすならひとりひとりの持ち場で楽しい光を放ちたい。そんなやり甲斐や充実感から放たれた光が集まると、社会全体の光もきっと幸せなものになっていくだろう。

(インタビュー後記 村井裕子)

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