4月5日放送

 「どんな逆境でも、人生の困難に噛みつく力のある人がいる。レジリエンスのある人と言う」・・・
 HBC「テレフォン人生相談」、パーソナリティーの加藤諦三さんのそんな締め言葉で知った「レジリエンス」について、2月1日のインタビュー後記で書いた。
 精神的回復力、復元力などと訳される心理学用語で、もともとは不利な生活環境にある児童に焦点をあてて研究されてきたという“人の中の力”。過酷な状況下でも真っ直ぐに成長し持てる力を発揮出来る子供がいる。それは何故だろうというところから、大人も含めて人の中に備わる“自発的治癒力”が注目されているという。
 何が起こるかわからないこの時代、益々、ひとりひとりが困難を乗り越える力を鍛えなければならない。レジリエンスはそんな時代を生き抜くためのまさに今に欠かせないキーワードなのだろう。

袋敬太朗さん 「ほっかいどう元気びと」は、人の中の力にクロースアップしてインタビューをお届けしているが、今回はまさに、そういった“試練を乗り越える”力を蓄えてきたであろう人。経験から思いを話す中からいくつかのキーワードが心に響いた。
 今年もプロ野球シーズンが開幕し、北海道は日本ハムファイターズの話題で賑やかだが、その裏方としてグラウンドの整備の仕事に励む「札幌ドーム」のグラウンドキーパー 袋(ふくろ)敬太朗さん20歳。高校を卒業してこの仕事に就いているので3年目の春となる。
 子供の頃から野球が好きで、中学の頃にはレギュラーを取るために厳しい練習を頑張り、エースとしても活躍したという。夢はプロ野球選手になることだったが、「グラウンドを整備する今のこの仕事も好きな野球に繋がっている。プロ選手と同じ目線で仕事をすることが出来、諦めないで思い続けているとやっぱり夢の場所に近づけるのだと思う」と胸を張る。
 グラウンド整備という仕事は、選手のミスに繋がりかねないだけに責任も大きく、試合前、中盤、試合後と、それぞれが自分で使いやすく“改造”した整備用の道具“トンボ”を持って素早く且つ丁寧にグラウンドをならしたり、マウンドの調整をしたりするのだそうだ。
 大事なことは、プロの使うグランドは箇所によって整備の仕方が違うので、それを徹底して覚えること。そして、心掛けているのは「全力疾走」。これは、去年選手を引退した稲葉篤紀さんから学んだこと。その真摯な一挙手一投足はお馴染みだが、守備に付く時は勿論練習でもその凄さが伝わってきて、自分も全力で仕事に向かおうと見習っているのだと言う。
 「しかも、裏方の自分にも“ありがとう”と言葉を掛けてくれる。人として一流選手から学ぶことも多いです」と袋さん。

 20歳の袋さんからは、野球に憧れ、野球から学び、野球に育まれた真っ直ぐな軸が感じられたが、その野球に打ち込むきっかけとなるファイターズとの出会いは、ゲームを初観戦した小学校5年生の頃だったそうだ。袋さんは、その前年、母ひとり子ひとりで共に支え合って生きてきた母親を病気で亡くしている。市内の児童養護施設への入所を余儀なくされ、18歳まで集団生活を経験したという。
 突然激変した生活に慣れず、戸惑う日々。そんな中で施設に寄贈されたファイターズ戦の招待。生で見たプロ野球は感動的だったそう。それが大きな触発になり、中学に上がると野球部に入部。レギュラーに選ばれるために一生懸命の日々を送って、野球に関わる今の仕事に繋がっていく。

袋敬太朗さん 10歳やそこらのまだまだ甘えたい盛りの男の子が、母親から死という運命で引き裂かれる辛さはどれほどの痛手だったろうと思う。どうやってその試練を乗り越えてきたのか、想像すると切なかったが、袋さんは淡々とその体験を話してくれた。
 独りぼっちになって、辛いとか悲しい、寂しいは勿論だが、やはり不安が大きかったという。この先、自分はどうなっていくのだろうという不安。
 「だけど、施設の先生達のおかげでより良く変われた」と袋さん。
 「それまでの自分は“ジコチュー”だった。先生達がその都度、叱ったり、励ましたり、支えてくれた。自分のことばかりではなく、相手のことを考えられる気持ちになれたし、何より我慢することを覚えられたことが、社会に出て仕事をしている今とても役に立っている」
 収録後の「宝ものは何ですか?」の問いかけでは、さらに優しさが言葉になって出てきた。「宝もの」は「おばあちゃんとおばさん」。ずっと心配して声を掛け続けてくれたふたり。電話の「頑張って」の一言だけでも見守られているという実感があり、嬉しかったと。施設に入ることを心配してくれたけど、その選択で良かったのだとふたりには思って貰いたいのでこれからも頑張って働いている姿を見せていきたいと、感謝の気持ちを語ってくれた。

 人生の困難に噛みつく力。レジリエンスのある人。
 精神的回復力や復元力と訳される「レジリエンス」についての本を何冊か読んだが、お話を聞いていて、袋さんの中に元々あったであろう力に加えてどんなふうにしてその内的な“マッスル”が鍛えられてきたのかが浮き彫りになるような気がした。
 本によると、レジリエンス力の高い人は自己効力感が高いのだという。
 そのために必要なのは、自分自身の実体験の大切さ。「やれば出来る」という信念をもつために、小さな成功体験を持つということ。
 そして、「お手本」を見つけるということ。誰かがうまくやっている姿を間近で観察して「私にも出来るかもしれない」と信じ込む代理体験。
 さらには、周囲の人から口頭による「励まし」を受けること。「あなたなら出来ると思うよ」と背中を押すような励ましが自信に繋がるとのこと。
 (※「実践版『レジリエンス・トレーニング』 なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?」久世浩司著 SB Creative発行)

 自分の強みを最大限生かして野球に挑戦し、叱咤激励してくれる先生達に出会い、見守ってくれる身内に支えられてきた。そして、「そんな人達に感謝です」と言えるポジティブな心。そんな袋さんのひとつひとつの道程が自身の中の力を育んだに違いない。
 何より、感動を与えてくれるスポーツが地元に存在しているということや、人としてお手本になる一流の選手が全力投球する姿を見せてくれるということも、子供の未来のために大きな役割を果たしているのだなと思う。袋さんを見ていて、ファイターズ始めスポーツが出来ることは沢山あるのだと思った。
 生きていく中で、困難や試練は付きもの。逃げるわけにはいかない。
 だとしたら、「何に出会うか」「誰に出会うか」、それを引き寄せるのもまた人として欠かせない力なのかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP