1月11日放送

 人の記憶の保管場所というのははどんな感じなのだろう。
 整理戸棚のようにきちっとあるべき場所に時系列で配置されているものだろうか。いやそうではなく、乱雑に押し入れに押し込まれたかのようにあれもこれも不規則に積み重なっているのかもしれない。ひょんな時に、親しい人から「あの時こうだったよね」と言われ、その“ひと掘り”のおかげで自分のことなのにすっかり忘れていた大事な記憶がするすると紐解かれたりすることもある。
 人と会話をする得難い効用だ。
 インタビューもきっと、「そこの抽斗(ひきだし)は、今まで整理していなかった。思いがけず引き出されて新たに自分を知った」という思考の大掃除に繋がるところがあるのではないかと常々興味深く思っている。

松村秀明さん 1月第二週の「ほっかいどう元気びと」ゲストは、「北海道ボリビア友好協会」の事務局長 松村秀明さん 39歳。札幌の小学校で教員をしながら、北海道と南米のボリビア共和国との架け橋になりたいと友好協会を立ち上げ、去年はボリビアの子供達にサッカーシューズを贈る活動に取り組んだ。
 松村さんは、大学の頃に一年間ボリビアに留学したことをきっかけに、卒業後にボリビアに渡り、NGO職員や通訳などをして12年間暮らした経験を持つ。永住も考えていたそうだが、北海道に戻ろうと思ったいくつかの理由のひとつに、東日本大震災で東北の人達が一丸となって故郷のために力を尽くす姿に触れて触発されたというのがあったとのこと。自分は北海道が故郷。自分が出来ることはまずその生まれ育った地域のために何かをしようと思ったのだと。
 いろいろなことを学ばせて貰ったボリビアのためにも何かをしたい。自分が架け橋となって双方のためにできることもあるのではないかと思い立ったのが北海道ボリビア友好協会の立ち上げであり、貧しくてサッカーシューズを持たない子供達にプレゼントしようというその活動であったと言う。
 ただ単に物資を送るのではない、その後に繋がっていくような活動を時間をかけて進めていきたいというのが、松村さんの志。誰かに支えられているという実感があれば人は強く明るく生きていける。それがきっかけで、プロに進める子供がいるかもしれないし、この先、北海道の子供達とサッカーを楽しむ機会も生まれるかもしれない。シューズはモノだけれど、そこから思いを繋ぐ交流を目指していきたいと素直な口調で続ける。
 「その取り組みで小学校の子供達には何を伝えたいですか?」という問いかけに、
 「“地球はひとつ”ということを伝えたいのは勿論だけど、先生という仕事は自分自身が何かに取り組む姿を子供達に見せるのが大事だと思っている」と語る。

松村秀明さん その強い思いはどこから来るのか。教員の仕事以外にも遠く離れた地球の裏側の人達にも思いを馳せて活動するその力はどんな思いから涌き出てくるのだろう。…私はそれがさらに知りたくなって、収録後の「あなたの宝ものは?」の聞き取りの中で問いかけてみた。
 「そんなふうに、人が支え合うことや助け合うことを意気に感じる背景には何がありますか?」
 松村さんは、そういうことを訊かれるんだ…という興味深げな表情をしながら、収録からの緊張から解放されたこともあり、ひとつひとつの記憶を引っ張り出すようにして、「それは、自分がこれまでにいろんな人に支えられたから」という思い出を話し始めた。
 幼い頃、妹さんが心臓病で輸血が必要になった時に近所の人達が申し出てくれたこと。大学に入ったばかりの頃、東京に出た嬉しさで遊び回っていた時に先輩や友人達が戒めてくれ、しぶとく連れ戻してくれたこと。帰国後に、家族がやはり力になってくれたこと。
 いくつかの“ありがたかった”エピソードを紐解き、それらがどれだけ嬉しかったか、そして、自分もそういうふうに人を信じ、人のために動ける人になろうと思ったという行動の原点を言葉にしてくれた。
 「宝ものは、家族や友達です」と言う“背景”にある思いはとても熱いものなのだということが伝わってきた。
 そして、終了後に嬉しそうに一言。
 「自分の取り組みを整理する機会はこれまでなかった。言葉にするといろんな発見がありました」
 「どんなところが?」と、また私も嬉しくて問いかけると、
 「自分はこれまでいろんな人に支えられたんだということ。そして、その人達への感謝の思いがより深くなりました」と、ほんとうに嬉しそうに何度も「感謝」という言葉を口にして帰られた。

 インタビューは、記憶の抽斗を開けることが出来る“魔法の杖”だ。
 話しているうちに、不規則に積み重なっている思い出の中から、「宝もの」が出現したりする。何より嬉しいのは、少し奥に入っていて忘れかけていた「ありがとう」を共に見つけられること…そんなことを、今回松村さんの気づきを伺って改めて私自身気づかせて貰った。
 「感謝の気持ち」「人の優しさ」「支えにしていた言葉」「気づいていなかった自分自身の力」…そういうものが人との会話で掘り起こされれば、その人の原動力は確実にバージョンアップされる。
 自分の中の思いを力に変えるために必要なのは、自分が発する“言葉の力”であり、それはその人自身の中にある。
 この番組が、出てくださるひとりひとりの心の奥底にある尊いものを再確認する場でありますように…と、2015年の始まりにそんな思いを新たにした。

(インタビュー後記 村井裕子)

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