12月14日放送

 11月16日のこの欄で、声が全く出なくなる風邪に見舞われた体験を書いた。
 収録の朝に辛うじて復活した安堵を綴ったところ、友人知人達から、「そういう時には是非これを!」という“秘伝”が寄せられた。ある人は、「喉風邪の秘薬は“梅肉エキス”!」と、市販のものに蜂蜜を加えお湯で溶いて飲むアドバイスを。ある人は、「リカー漬けの“枇杷の葉酒”が飲んでもうがいでも症状が和らぎます」と、わざわざ手作りの一瓶を。またある人は、「カリンを蜂蜜に種も全部漬けたエキスが声にいい」と、庭で実ったという丸々見事な果実のお裾分けを!免疫力が落ちていた心身には涙が出るほど嬉しくて、その温かさで支えられたその後の日々だった。
 ふと気づけば、梅肉エキスも枇杷の葉もカリンエキスも、まだ西洋の薬が入ってくる前に手作りされ重宝されていた日本の古き善き民間薬だ。教えてくれたのは私より少し年上のしなやかで素敵な女性達だが、彼女達がこういった知恵を取り入れ丁寧に身体を、暮らしを整えていたことに改めて尊敬の念を抱いた。

吉川誠さん 古来の製法のものが身体に優しいといえば、塩もそう。
 戦後に製法が確立された精製加工のものと違い、海水を煮詰めて自然乾燥させて作ったものはミネラルなどの海の成分が残り、味わいもまろやかで優しくなると言われている。
 今回の『ほっかいどう元気びと』は、七飯町の合同会社「オーガニックケルプ」代表の吉川誠さん 39歳。道南は恵山沖の太平洋の海水を窯で煮詰める「窯焚き海水塩」を手がけ、道産の海藻やきのこの乾燥粉末、ハーブなどと混ぜたシーズニングソルトなどの商品開発に取り組んでいる。そもそもは海藻の奥深さに惹かれ、その海の豊富な恵みを使って美味しく身体にいいものを作りたいという「海藻ありき」の発想からだったそう。
 建築を学んだ吉川さんは、札幌の建設コンサルタント会社に勤めた後、函館に移住して海洋土木の会社で働く中で海藻の調査に関わるようになり、北大水産学部の安井肇教授に出会う。この「ほっかいどう元気びと」にも以前出ていただき「がごめ昆布」の可能性を話していただいた北海道の「海藻博士」、海の恵みの第一人者だ。吉川さんは、この安井教授のフィールドワークに出かけて、一気に心をわしづかみにされたのだそう。
 「海藻って、なんて面白いんだろう!」
 その後、この魅力ある恵みの数々を、「食材としての海藻」として何か生み出せないかと商品開発に取り組み、それらを生かすために塩作りも自分で始めてみたのだと言う。道南の海藻を最大限生かすためには、その海の塩が欠かせないという発想で、この2つを要に北海道の素材同志を組み合わせ、しかも余計なものを添加せずに体にいい食品を…という思いで2009年に立ち上げたのが合同会社「オーガニックケルプ」。
 すでに発売されている商品は、窯炊き海水塩に粉砕した昆布と青ジソを加えたシーズニングソルトや、海水塩に鮭節、海藻、ブラウンマッシュルームがブレンドされたふりかけ…などなど、胡椒を除いてほぼオール北海道の素材とのことだが、海から山から畑からのその組み合わせは、そのまま沢山の「人との関わり」の産物なのだということが伝わってくる。
 地元の人達が繋がって、それぞれが丹精を込めているものを組み合わせれば、北海道全体の新たなオリジナリティ溢れる“強み”になる。「オーガニックケルプ」は「有機の海藻」という意味ではなく、「有機的な繋がり」という説明にその意図が感じられた。

 今後は、シーズニングソルトだけではなく、海藻やハーブに酢を組み合わせたドレッシングの種類も増やし、サラダにかけるジュレなども開発していきたいと話すが、「有機的な繋がり」として大切にしたいのは、「大ヒット商品などの一過性のものではなく、長く安心して食べて貰えるものをここ北海道で将来に繋げていきたい」との思い。そして、「薪で窯炊き海水塩を作るということはエネルギーについて考えることにも繋がるんです」という言葉には、今の私達の暮らしをちょっと立ち止まって考え、環境にも優しい持続可能なモノ作りを地方からという気概が込められていた。

吉川誠さん 吉川さんの説明はとてもわかりやすい。そして静かな説得力がある。それは、ひとつひとつのことに「意味を見いだす人」だからだ。自分がやっていることの意味、手がける商品の意味、そして、地域にとっての意味。
 自分の取り組んでいることが、人に、地域に、社会にどういう影響を与えるかを考えることは、どんな仕事であれこれから益々求められていくだろう。
 それはそのまま、「自分はどこを目指して仕事をしているのか」を考えることに繋がっていく。ひとりひとりの力はささやかなものだし、大それたことは出来ない。でも、例えば私であれば、この『ほっかいどう元気びと』で「人が生きる上でほんとうに大切なことは何なのか」を丁寧に掘り起こし伝えることに意味を見いだすことで、それを聴いた人の心に灯が点り、なんらかの行動に繋がって、社会の中でよりよい“化学変化”が起こっていくかもしれない。そして、それらをこうして“残る言葉”で書きとめることに意味を見いだすことで、遠くの誰かともまたその「たいせつなこと」を共有することが出来るかもしれない。
 “意味を込めた思い”は必ず届くと信じれば、波紋の広がりのように何かが少しずつ確実に変わっていく。

 そうして、ほんとうに混沌とした世の中だからこそ、それらを“問い続ける意味”は益々大きくなっていくと感じている。

 さて…
 あなたにとって、ほんとうに大切なものはなんですか?
 それを守るためにあなたはどんな行動を起こしますか?

(インタビュー後記 村井裕子)

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