9月14日放送

 「ほっかいどう元気びと」は、いろいろな分野の方に出ていただいているが、ここのところ農業に携わる方々の持ち味がみんな違ってそれぞれに奥深く、スタッフとそんな話をしたり、講座で話題にしたり、このインタビュー後記にも書いたりしていたら、農業者の支援を専門とされる方々の研修の場で、一時間半の講演をさせていただくことになった。
 最近、熱く思っていると、その関連のこととシンクロすることがぐんと増えて、面白い。自分の中から出る思いや熱が、何かの化学変化で届くのだろうか。
 講演では、「元気びと」出演の農業者のエピソードを紐解いて分析した魅力や原動力を話し、これからの農業者の必然的な目標のひとつに「農家の取り組みや思いを伝えること」があるとしたら、関わる関係者はどうその思いや力を引き出していくかという、「コーチング」からのヒントを用いたコミュニケーションのコツをお話した。
 日々の人との関わりで、人は話を聴いて貰えて、話をすることで気づくことがある。その新鮮な発見で新たな力を発揮することがある。あらゆる人間関係の中のひとりひとりが人を育てる「コーチ」のような気持ちで互いの力を引き出し合えれば、日々の営みはもっといい循環になっていく・・・そんなことを分かち合いたいと思いお伝えした。

山本宏さん そんな準備の日々の中インタビューした「元気びと」のゲストは、江別の稲作農家「やまもと農園」代表の山本宏さん57歳。
 祖父の代からの田んぼを受け継ぐお米一筋の農業者だ。7年前からは地元産米で美味しい日本酒も名産にしようと、酒米「彗星」の栽培も始め、道産米の可能性を仲間達と広げている。
 山本さんと話していると、農業というのはけっしてひとりで成立するものではないということが改めて感じられる。農業試験場や関係者の方々のおかげ・・・という感謝の言葉が何度も何度も溢れ出す。山本さんが家の農業を継いだ1982年当時は、「北海道米は不味い」と言われた時代。「猫またぎなんて言われてね」とその時代の屈辱を笑い話で表現していたが、北海道米はそこからの大躍進。今では本州の有名米にも負けないくらいの食味や食感を誇るまでになったが、ここに至るまでには農業従事者、関係者の並々ならぬ努力があったということが、改めて伝わってきた。
 そして、山本さんも「農業者の取り組みや思いを伝えること」の意識をこの30余年深めてきたのだということが活動を通して伝わってくる。小学校への「農業出前授業」などの食育活動。そして、自らの農園で「米づくり体験ふれあいファーム」という農業体験を受け入れる取り組み。
 接する子供達の話をする時が最もいい顔をされていたが、山本さんがそういった「伝える活動」を通して感じて貰いたいと思っていることは、「農業っていいものだ」ということ。
 田植えや稲刈り体験をして貰う時に、山本さんは「田植えや稲刈りは辛いものだと思って帰ってほしくない」という思いを込めているそうで、普通の人にとって田んぼの体験は一生に一度あるかないかという希少な体験。子供達がトンボを追いかけるもよし、泥んこになって遊びに夢中になるもよし。「農家ってこんなに面白いんだ。楽しいんだ。こんなに美味しいものが食べられるんだ」という「喜びの体験」になって貰いたいのだと、「外へ伝える」活動の思いを話してくれた。
 その「一生でたった一度」がいい思い出になると、北海道米への愛着は勿論、お米への興味がのちのちいい繋がり方をしていくはず。そんなより良い未来を信じているというお米作り一筋の信念も、体験にやってきた人の心を震わせるのだろう。
 お米を作るということがどういうことなのか、それを次の世代に繋いでいくことがどんなに大事なことなのか。それらが食卓で話題になることがとても大切なことなのだとしみじみ感じ、お茶碗の中の日々のごはんがこういう人達によって支えられているのだということを改めて思いながら、無性に塩結びが食べたくなったインタビューだった。

山本宏さん いろいろな活動は明るくなければ人に届かないし、楽しくなければ伝わらない。
 山本さんのお米を通じた取り組みにもそれを感じたが、「宝ものはなんですか?」の聞き取りで、笑いながらだが「畦道で涙したこともあったけどさ」とも語っていた。
 「宝ものは、人との出会い」。あの人に出会っていなければ今の自分は無かったと、感謝の思いを口にする山本さんだが、「頼まれたら断らない。お世話になった人に恩返しをしたいから」といった日々の中では、人で辛い思いをしたり悩まされたりしたこともあったと言う。
 「でも、嫌な思いをしたからこそ、自分も変われたんだと思う。人って、嫌な思いも大切ですよね」
 いろんなことを任され少し天狗になりかけていた時、人に悩まされたことがきっかけで初心に戻り、人としての自分を立ち止まってみる目が養われた、と山本さん。
 畦道で涙することも大事なことだなと-私も昔はよく局の誰もいなくなったスタジオで泣いていたっけ-同年代のお米農家のベテランの言葉を噛みしめていると、「そんなとき、いっつも支えてくれたのが、家族。宝ものは“おかあさん(奥さん)”だね。でも、自分で言うとみんなにからかわれるから、コメントでさらっと言ってくださいね」と笑い、スタジオの空気がぐんと温かくなった。

 やっぱり、そんな明るさの山本さんの作るお米は美味しそうだ。
 全道の農家の皆さん、この秋の収獲、沢山の努力が豊作で報われますように。

(インタビュー後記 村井裕子)

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