8月17日放送

 私が取り組む「話し方講座」のことは何度かこのインタビュー後記で書いているが、10年続けてきて分かったのは、「話し方・伝え方」のノウハウやスキルももちろん大事だが、やはり最も求められるのは“その人”そのものである・・・ということ。
 ビジネストークを表面上でいくら身につけても、最上級の敬語をマニュアルでマスターしても、言葉は人と人とのコミュニケーション。最後は「あなたと話がしたい」とか、「あなたとまた会いたい」と思って貰える、あるいは、互いに思える・・・そこに尽きるのだ。
 “意識を開く、力を引き出す”という「 話し方講座」の取り組みで私自身がしたかったことは「人づくり」。どんな仕事でも、どんな場にいても、身近な家族の間柄でも、「あなたがいて良かった」と誰かが心から思うような“人”をつくっていくこと。今回の「ほっかいどう元気びと」の収録後、そんな思いが改めて湧いてきた。

高橋朋一さん お話させて貰ったのは、「絵本の里けんぶち VIVAマルシェ」代表の高橋朋一さん 37歳。「軽トラマルシェ」と銘打って、生産者が自分たちでトラックに自慢の野菜を積み、町内・道内はもちろん、東京や大阪までも出掛けて行って消費者と触れ合いながら販売する活動の先頭に立って5年目を迎えるという。
 最初、農協青年部の皆にこの企画を持ちかけた時は反対が大多数だったそう。日々の作業で精一杯なのにこれ以上時間が取られると困る、稲作メインだから売る野菜など無い、人と話すのが苦手だから人前に出るなんてとてもとても・・・などなど。だいたい8割は反対だったそうだが、後に副代表になる佐藤大助さんが「ぜひやりたいですね!」と強く賛同してくれたことで同志を得、一軒一軒農家を回って説得をしてスタートに漕ぎ着けたのだと言う。
 作る野菜が無いなら作ろうと野菜作りの機運が盛り上がって、“ものづくり”という意識で勉強をし出したことで皆がライバルになって活性化。稲作の副業として野菜を作っていたのは主に農家の母親達だったことから、「野菜ってどうやって作るんだ?」と若い世代が母親に聞くことで家庭内の親子のコミュニケーションも活発になっていったそう。農家はもともと単独作業が多いので、ひとり黙々と作業する中では、同業他者とも“学び合う”ということや“教え合う”ということが少なかったとも言う。野菜作りのノウハウを交換し合い、そして、その手塩にかけたものを軽トラに載せて各地に売りに行き、実際に消費者と話す、野菜の説明や美味しい食べ方を伝える・・・という経験を重ねていくうちに、“話せなかった”人も笑顔で楽しそうに自分の取り組みを説明出来るまでになったと、その活動のプラスαの成果を教えてくれた。
 無口だった皆が、自分が学んで作った作物の魅力を語ることで新たな力を発揮出来るようになったと高橋さん。そして、「やっぱり、なにをやるにしても“人“なんです。自分も“あなたから買いたい”と言ってもらえた時にほんとうに嬉しくて、農業は“ものづくり”“人づくり”を大事にして、“地域づくり”に繋げていかなくてはと思った」と、作る物への取り組み方、人の成長を後押しする大切さ、そして、そういうひとつひとつが地元を支えるのだという意味を、様々な経験で鍛えられた表現力で語ってくれた。

高橋朋一さん ポジティブな発想力で剣淵町の農業を牽引する高橋さんだが、若い頃は実家の農業が好きになれず、親の敷いたレールを走ることへの抵抗もあって札幌に飛び出したこともあると言う。各所で営業の経験を積み、多くの成績も上げながら、しかし、「家族と一緒にいられる職業は?」と自問自答し、地元剣淵町にUターン。帰ってきた当初も、農業は単なる職業で、日々の仕事はただの“作業”でしかなかったそうだが、幼い息子さんがふと口にした一言「パパ、おいも美味しい」に感激し、“農業人”としてスイッチが入ったとのこと。気持ちがONになれば、営業で培った経験則はある。そこからひたすらにポジティブに、周りをより良く巻き込み、同じような前向きエネルギーを持つ人と手に手をとって、取り組みを進めてきたのだそうだ。
 「その前に進む秘訣は何か?」と訊くと、とにかく“行動すること”という答えが返ってきた。マイナス要素をあれこれ挙げて気持ちを萎えさせるのではなく、まず動くのだと。
 これは「元気びと」共通キーワードだ。動き出すと、必ず答えが見えてくる。発想し、夢を語れる人と話し、プラスのエネルギーをいっぱいにして、まず動く、体を動かす。
 高橋さんの取り組みは、農業にかかわらず、「どう仕事を楽しむか」というヒントに溢れていた。それが伝わるのだろう。剣淵町で農業を学ぶ高校生たちの中に、「軽トラマルシェ」の取り組みを見て、“あんな農業ならぜひやってみたい”と志願する人が増えてきたそうだ。

 あの人みたいに、あんな仕事がしたい。
 同じ買うなら、あの人から買いたい。
 あの人にもう一度会いたい。
 あの人のためなら頑張ろう。・・・
 そんなふうに周りの人により良い影響を与えられる人間力こそ宝だ。その人の周りに逆風が吹いていても、あたかも順風と思わせてしまうような前向き力。そして、それをほんとうに順風にしてしまう楽しげな行動力。
 北海道はそんな人たちが、今日も各地で爽やかな旋風を巻き起こしている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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