8月10日放送

 この夏も、様々な音楽イベントがあちこちで行われているが、私が7月に堪能したのは、大好きな小田和正さんの札幌のライブ「本日、小田日和」。
 オフコースの結成からほぼ45年の歳月を経ての現役。こんなに長く素敵な曲を発表し続け、ツアーを続けてくれることは奇跡に近い。有難くて、嬉しくて、感謝の気持ちが溢れてくる。66歳という年齢の3時間にも及ぶライブは圧巻の一言だ。変わらぬ歌声に加えて、今回は特に、未知の年齢に挑戦し続ける渾身満力が凄まじいエネルギーとなって伝わってきた。自分も頑張ろうというスイッチが入ったのはきっと私だけではない。その場にいた全員が感じただろう。
 小田さんのコンサートは、行ったことのない人には意外かもしれないが、“みんなで声を合わせて歌う“という楽しみがある。じっくり聴くところと、全員で楽しさ全開で歌うところのメリハリが実にいいのだ。「 今日もどこかで 」しかり、懐かしい「YES YES YES」しかり。歌いながら、楽器の音が薄くなり、小田さんもマイクの声をひそめた時の、あの会場全員の合唱が響き渡る瞬間の醍醐味!ああ、生きていてよかった・・・と、しみじみ感動してしまう。
 声を合わせて歌うというのは、子供だけのものではない。大人はもちろん、老いても尚楽しい・・・そんなふうに幸せを引き出してくれる魔法なのだ。

石澤佳子さん そんな、頭の中で歌が巡っている余韻が残る中での「ほっかいどう元気びと」の収録、ゲストは札幌の「うたごえ便よりみち」代表の石澤佳子さん 42歳。1950年代から60年代に流行した「歌声喫茶」を出前で届けて、青春の歌をみんなで歌って楽しんで貰おうという活動を続けている。ご自身は「歌声喫茶」を知らない年代だが、その当時親しまれた「カチューシャ」や「リンゴの唄」、そして「カモメの水兵さん」などの唱歌も併せてレパートリーは330曲とか。アコーディオンを背負って町内会のイベントや高齢者施設、呼ばれれば喫茶店などにも足を運んで、みんなで声を合わせて歌う“移動型歌声喫茶”を演出している。
 最近、「歌声喫茶」は復活の兆しで、団塊の世代や高齢者に親しまれているそうだが、石澤さんの取り組みは身体ひとつで出掛けて行くオリジナル。事務所費用を節約するためと出前形式にした理由を話すが、その身軽さが功を奏して口コミで人気を呼んでいるとのことだ。
 活動のそもそものきっかけは、NPO法人で働いていた時。スタッフのほとんどが高齢者で、お年寄りのための様々なサポートについてよく話していたそうだが、「ピアノが出来るならレクリエーションで何か出来るよ」という言葉を掛けられ、それも面白そうだと考え始めたとのこと。踏み出す第一歩は、北海道総合研究調査会が行う「北海道社会的企業・起業プランコンペ」に応募し採用されたこと。早速アコーディオンを習い、中古を手に入れ、町内会の行事からスタート。最初は出だしのお喋りがうまくいかずに四苦八苦したそうだが、そこは歌の力。みんなが歌ってくれることで場が成り立ち、それを続けることで自分でも掴みどころがわかってきたのだそう。
石澤佳子さん お話の中で興味深かったのは、参加者達が、その“みんなで歌う”という経験によって変わっていくということだ。歌いながら明るくなり、隣の人とも話が弾むというのはよくある光景だが、次回の「出前歌声喫茶」のために、バスの時間を調べてまた出かけてきてくれたり、そこで知り合った人達と親睦を深める流れになっていったり、“よっちゃん”の出前歌声喫茶の良さをまた違う人に伝えたり手伝ってくれたり・・という行動が生まれているとのこと。
 「団塊の世代、高齢者の行動力と口コミ力はすごいですよ」と石澤さん。「歌声喫茶」効果は、歌って楽しいというだけではなく、自分で動くという力を引き出すということもあるのだとすると、“みんなで歌う”というのは、これからの高齢化社会のひとつの核になっていくのかもしれない。
 高齢者のサポートに関しては、住宅の住みやすさとか、食事のサービスとか、いろいろと分野があるが、レクリエーションといった楽しみなどの精神の栄養も欠かせない。石澤さんが音楽で発想したように、それぞれ得意なことを持ち寄ってメンタルをサポートするという取り組みは、今後益々求められていくだろうと感じたインタビューだった。

 ある日、カフェで耳に入ってきた50代位の女性2人の会話。
 「うちの母が、口を開けばマイナスなことばっかりで参ってしまう。あっちが痛い、こっちが辛い、お迎えも近い・・・もう、聞いている方が滅入ってしまう」
 「うちの父もそう。あれが出来ないこれが出来ないって嘆くから、出来ることを喜ぼうよって言ったら、年寄りの気持ちは若い者にはわからん・・・って」
 「年寄りをプラス思考にさせるって難しいことよね」
 87歳になる父がいる私も、思わず相槌を打ちそうになったほど共感してしまった。
 老いていくことは確かに厳しいものがあるのだろうとは思うが、辛い大変といった言葉ばかりでは、唇も淋しいだろう。その唇に歌があれば、まずは「今日はいい日だ」になる。その「いい日」を一日一日続けていければ、今週も、今月も、積み重なって今年も「いい年だった」になる。小田さんのツアー名を借りれば「今日もいい日、自分日和」。

 石澤さんの「歌声喫茶」に参加した人たちは、次が楽しみになるのだそうだ。きっと、みんなで歌うというのは、そういう“歌の回路”が脳の中に出来るのだろう。「あの楽しみよ、今度はいつ?」というように、その日のために指折り数える日々というのも、きっと「いい日和」に違いない。
 “みんなで歌おう”は魔法だ。私もコンサート以来、みんなで歌いたい熱が高いままだ。
 長く生きていればいろいろと辛いことも出てくるが、そんな歌の力でみんなが笑顔になればいいな・・・そう思いながら、仕事に向かう地下鉄に乗っていたら、斜め向かいの席に大きなアコーディオンを背負った石澤さんが座っていた(!)
 黒いワンピースにトレードマークのシニヨン。みんなに歌で元気の魔法をかけては次へと向う素敵な魔女さんに見えた。
 偶然の出会いを喜びながら、小さくエールを送って別れ、心の中で呟いた。
 「今日も誰かがあなたの笑顔を待っていますね!」

(インタビュー後記 村井裕子)

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