8月3日放送

滝沢信夫さん 『ほっかいどう元気びと』8月最初のゲストは、三笠の3ヘクタールの畑で約8000本のブドウを育て、去年からは醸造も手がける「TAKIZAWA WINERY」代表取締役 滝沢信夫さん 68歳。1970年代に札幌で自家焙煎のコーヒーを定着させた「可否茶館」の創業者として知られているが、57歳の時に店の権利を譲渡して全く新しいワイン作りの道に踏み出したと言う。世間的に言えば、「なぜ、社長の座を手離して、ブドウ畑作りを・・?」と驚かれそうな一大決心だが、滝沢さんの中では、ごくごく自然のことだったと、作業の膨大さも醸造の大変さもこともなげに話す。
 55歳位から、「もう都会の生活スタイルはやめよう。もう少し自然に近い場所へ行きたい」と考えていたという滝沢さん、はじめにワイン作りの夢ありきではなく、「自分の立ち位置を自然と向き合える場所に置くため」に何が育てられるだろうと考え、それまで焙煎・販売していたコーヒー豆の栽培を一旦は模索したそうだが、日本の風土では不可能に近く、ワインの原料のブドウなら北海道に適している・・・それならばブドウの苗を植えようと、そういう発想の順番だったそうだ。
 最初の開墾は、たったひとりで土の中の石を割って行く作業から始まったそうだが、それが楽しくて楽しくて・・・と朗らかに話す。畑作業をしていると一日誰とも話さないこともある。それまでの都会での経営者の椅子に座る生活から比べると、それは滝沢さんにとってとても快適、愉快なことだったそう。自然の中での作業ひとつひとつが自分にとってほんとうに自然だった、と。
 「醸造の難しさは?」と訊くと、実は難しいことなど何もないのだ、と滝沢さん。農薬や化学肥料を使わずに品質のいいブドウを作り、消毒の薬なども使わなければ生きた酵母菌が上手に醸造してくれる。そのための栽培には手間がかかるけれども、そこさえ惜しまなければ酵母菌のおかげでいい製品が出来ますと断言する。

滝沢信夫さん 実は、私は、滝沢さんに90年代半ばに何度かお会いしている。
 今振り返っても、あれは面白いムーブメントだったなあと懐かしく思い出すのだが、龍村仁監督の映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)第一番」を自主上映する“世話人同志”として出会ったのが最初。一言ではとても難しいが、この映画のテーマとする「地球は一つの生命体である」「心に描いたことは必ず実現する」「多様なものが多様なままに共に生きる」といった概念に、バブル経済崩壊後の生き方を個々に求めていた人達が引き寄せられるように緩やかなネットワークが出来ていった。
 「大切な人に観せたい」との熱意で準備を手伝う“世話人”は一時150人を超え、上映会後に監督と共に「意識をどう目覚めさせていくか」や「これからの地球と人の可能性」について熱く語り合うその時間がお互いの気づきをさらに深いものにした。
 ユニークなのはその顔ぶれ。何らかの偶然で引き寄せられてきた人達は仕事も年齢も様々で、いわゆる異業種の集まりなのだが、それぞれが持つ“看板”は二の次。年齢も性別も超えて“人として”同じ気づきの共有で繋がり、学歴や肩書や経済的成長へ血道を上げるそれまでの時代の生き方と一線を画しながら、「目に見えないものの大切さ」を分かち合って皆が皆大いに喋るという、まさに可能性を秘めたエネルギッシュな“札幌の元気びと達”だった。私も含めて、あの邂逅がきっかけで新しいことへ踏み出す勇気を持てたり、何かを志したりした人も多かったと思う。
 時代として、90年代は経済低迷があり「失われた10年」などという呼ばれ方をされたりするが、私の実感としては「精神性を深めたかけがえのない10年」だと思っている。
 そんな仲間のひとりだった滝沢さんは、当時札幌で焙煎コーヒーの人気店の経営者だったにもかかわらず、印象は“社長”ではなく、沢山の気づきを持っている“ガイアの人”そのもの。何度かお会いした折に、「この先は、新しいことを考えているんだ」と話されていたのを覚えている。その時目の先に何が映っていたのかは分からないが、着実に“自然と共存”の方へと舵をきって進んでこられたのだということに、“ガイアの仲間”として、そのブレの無さに拍手を送りたい気持ちになる。しかも、今回、『ほっかいどう元気びと』でその思いを聴かせていただけるとは、なんという巡り合わせだろう。

 映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」の存在意義は、観て大切な気づきを得たり、意識を深めたり、人は無限の可能性を秘めていると感動したりするのは勿論だが、そこから、「では、あなたはどう生きますか?」と問われるところではないかと思っている。
 上映会の世話人として集まる人は、常ならぬの自然と一緒で離れていったり再び関わったり。アメーバのようにその時々によって人も変わる。そこがガイアらしさ。しかし、一旦気づきを得たことで問われ続けるのだ。「さて、あなたはどう生きる?」そして、「さあ、持てる力を使ってどう行動する?」
 そんなふうに未来をより良くイメージし行動する人達がある一定の人数に達したなら、世の中は・・・地球はもっとより良く変わるのではないかと、私は今でもそう思っている。

 「宝ものは何ですか?」という『元気びと』恒例の問いかけへの滝沢さんの答えは「命」。最近、ご両親や弟さんを亡くされたことで、いっそう「寿命」ということを考えるようになったと言う。「命を大事にして、日々を自分らしく生きること。あまり一生懸命でなくていいので、自分らしく」と。
 「自分らしく」の紐解きはこうだ。
 「人間って球体だと思う。自分の見えているところが真正面。でも、自分の良さって自分ではわからない。裏側に何かもっと素晴らしい可能性があるかもしれない。まだ知らない自分をもっと試してみてもいいんじゃないか」
 滝沢さんは、その見えない裏側にある新しい自分に出会いたくてブドウの栽培を始めたのかもしれないと、60代こそが最も自分を知る年代なのだという意味を語る。そして、60代以降こそが、本当に夢を叶える年代なのではないか、と。
 滝沢さんの夢は、北海道という場所で、ブドウの栽培、そしてそうやって丹精込めて作った力のある果実で本来の良さを生かしたワインを発信していくということ。それは、紛れもなく食の文化を支えることに繋がるのだと、この大地への自身の役割を語ってくれた。

 「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」をライフワークとして作り続けている龍村仁監督は、もともとはギリシャ神話に出てくる地球の女神「ガイア」の概念をこう表現している。
 「地球はそれ自体一つの生命体であり、私達人類をはじめ、草も木も動物たちも、全ての生命が互いに支え合い、調和して生きています。そして、私達人類は、ガイアの心、すなわち想像力を担っている存在です。その私達が今何に気付くか、どんな夢や未来を心に描くか、そしてどのように今日を生きるかによって、地球の未来も決まってきます」

 自分の中の無限の可能性を使っていくために、どんな未来を心に描きますか・・・?
 ブドウと共に北海道の未来を思い描いた滝沢さんの取り組みを聴かせていただいて、改めてそんな問いかけを噛みしめてみたくなった。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP