7月27日放送

 仕事を始めてかれこれ35年ほどが経つが、その日々は圧倒的にひとつひとつの“準備”の時間の積み重ねだったなあ・・と思う。ラジオの番組と番組の間の20秒間を埋めるというアナウンサー新人時代の仕事から始まって、フリーの今も、「ほっかいどう元気びと」の貴重な放送時間30分にしろ、1時間半の講座・講演・朗読会にしろ、その都度その“何かの目標のため”に、人生の圧倒的な時間を準備にあてている。イメージの中の完成形に向かって頭の中から搾り取り、新しいものを掻き集め、そして選択し捨てる作業。
 来る日も来る日も繰り返されるその取り組みは、時として“しんどい”けれど、“苦”ではない。“孤”の作業ではあるが、淋しくはない。その時間の分だけ自分の中には何かが確実に積み重なり、その思いの分だけ誰かに喜ばれ、求める誰かの役に立ち、ほんの数ミリでも世の中をより良い方へ向かわせる微力ながらの貢献をしていきたいと思う気持ちがそうさせる。
 人の幸せは様々あるが、自分の目の先に何らかの目標が確実にあって、それに向かって準備を重ねていく仕事に出会えることは、やはり幸せな生き方だと個人的には思っている。

越前大介さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、札幌の花火師の越前大介さん。花火の製造やそれを打ち上げる花火師の仕事に触れる機会は滅多にないが、お話を聞いていて、やはりどの仕事でもそれを完遂させるために圧倒的な時間が準備にあてられているのだということがよくわかる。
 北海道の花火製造の老舗である「ヤマニ小原煙火株式会社」の煙火製造所の工場長である越前さん 39歳。その日々は、発注に応じて花火を製造し、打ち上げるという、花火一辺倒の毎日だそうだが、もともとはそれほど夜空の花火には関心もなかったとのこと。
 今の会社の前身である「小原商店」には、当時スポーツ用品を扱う外商事業部と花火を扱う煙火事業部とがあり、入社した時に配属されたのは外商事業部のほう。自分の会社が打ち上げ花火の老舗だとは知らずに入ったそうだが、花火大会の度に若手が駆り出され、越前さんも新人時代に手伝いに行かされて花火と関わるようになったのだと言う。
 その最初に駆り出された時、ベテランの花火師に促されて1発打ち上げた瞬間の感動が忘れられずに花火師を志したという越前さんだが、「その“打ち上げる”という華やかな仕事は、全体の仕事の1割位のものです」と、そこに向かって費やす時間の多さと、作業の地道さを何度も口にしていた。
 花火製造の仕事は、すべてが細かい手作業。設計に沿って火薬を詰めていくわけだが、危険物を扱う安全意識に配慮するのは勿論のこと、火薬の1センチのズレが上空では1メートルになってしまうという神経の使う仕事だそうで、花火師志願の若者もその製造の日々に耐えられずに今までも何人も辞めていったと言う。火薬で手も真っ黒になる中、あぐらをかいてひとり黙々と作っていくが、火気厳禁なので冬は暖房なしの厳寒に耐え、夏は汗だくだくの暑さとの闘い。何よりも忍耐力が欠かせない、と越前さん。そして、打ち上げのために全道各地へ車で移動し、荷物を運び、炎天下で仕込みをする。そのためには体力が欠かせないと、外からは見えない花火師の裏側を淡々と話す。
越前大介さん それでも続けてこられた原動力は、「花火を上げた瞬間、それを見守る大勢の人達の喜びが伝わってくるから」。花火師自体は、打ち上がった花火をいちいち見てはいられないそうだが、「オーッ!」とか「ワーッ!」と上がるお客さん達の歓声が、思い通りのものが打ち上げられたかどうかの答えになるのだそう。そして、そのイベントのために尽力した人達、関わった人達の思いが花火とともに打ち上がり、その場の人達全員と感動を共有出来るのが何とも言えずたまらないと越前さんは話す。その一瞬一瞬を味わいたいがために、日々の暑い、寒い、ひたすら地道な作業も続けられるのだと思う、と。
 そして、どうやら、花火師の頭の中は、いつもいつも花火のことを考えているらしい。
 「道内の綺麗な景色の場所をドライブすると、ここにはどんな花火が合うかと考えている自分がいるんですよ」。
 「プロは24時間、仕事のことを考えている人」・・・と何かで読んだことがあるが、“意識して取り組む準備”と、“無意識で取り組んでいる準備”、そのふたつが兼ね備わった人をその道のプロと呼ぶのだろう。
 その“準備”が身体の一部としてすっかり機能しているというのは、仕事人として幸せなことに違いないと、花火師・越前さんの話を聞いていて改めて思った。

 “準備”を辞書で引いてみると、「あることをうまく行うために、前もって仕度すること」とある。
 「あること」=今、最も気掛かりな「平和」と置き換えてみる。
 果たして、「平和」のために、“準備”しておくこととは何だろう。
 次の時代を担う子供達が正しい判断が出来るような教育、相手の立場に立って対話が出来る人間力、命の重さを実感出来るあらゆる知恵に、憤りに駆られる気持ちを諌めるための文化の力。そして、より良い明日を祈る心・・・。
 真の平和のために、意識して取り組む準備。そして、無意識で取り組む準備。
 準備の仕方によって未来は大きく変わる。
 何をどう備えればいいのか、そして、何を備えてはいけないのか。
 それらを考えることを止めてはいけない・・・そんな時代に今、私達は生きているのだとふと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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