6月29日放送

 私にとってこの6月の第二週は、実にいろいろなことが起こった試練のときだった。苫小牧での宮沢賢治朗読会の日曜日、賢治の故郷の花巻弁も織り交ぜながら「雨ニモマケズ」や「永訣の朝」などを読んだちょうどその日を選んだかのように、札幌で療養していた花巻生まれの母が天寿を全うして旅立った。そして、梅雨のように途切れぬ雨の中家族のみでの葬儀一切を終えた夜、通夜から体調を崩した16歳の愛犬が旅立った・・まるで何かが突如やってきたかのような豪雨とともに。
 あまりにもいろいろな符合、天の配剤としか思えないような出来事が続き、心痛を飛び超え、いったいこれらは何を意味しているのだろうという敬虔な気持ちの方が強かった。一緒に手を携えて逝ったのだという納得、どちらも凛とした穏やかな最期に安堵と感謝の思い、そして役割を果たせたという思い・・。
 しかし、死に向き合い受け入れるということはなんと心の奥底のエネルギーをたくさん使うのだろう。二日続けてかけがえのない存在のお骨を拾うという非日常・・いろいろなことの整理がつかず、頭が変に興奮状態のままだ。ふと、道ゆく人も、すれ違う人も、こんな痛み悲しみを抱えている人かもしれないと、今更ながら人への視点がひとつ深くなる。
 そして、こんな時、友人知人たちの支えやさりげない励ましが心底有難いと思ったし、前に進む原動力になった。そして有無を言わさず自分の軸を取り戻す“仕事という強制スイッチ”。チームで一丸となって取り組む「元気びと」の収録や、前向きな人達に会える各地の講座、深い思いを込めて読む報道の特集のナレーション・・それらに携わる人たちに救われ、それによって引き出される役割感に救われた。

端聡さん 「ほっかいどう元気びと」で出演者を迎え入れ、その人のお話を聴くということも、引き出しているようで実はエネルギーを引き出されていることを再確認。
 心の痛みを庇うように背中が丸くなっていくかのような日々に、今回のゲスト、美術家・端聡さんの持つ芸術家のパッションから“ガソリン”を沢山頂いた。
 端さんは、札幌で活動する美術家でアートディレクター。現代美術の独自の作風を追求し続ける一方で、多くの地元の若い才能を引き出そうと、「CAI現代芸術研究所」などのギャラリーを設立・運営し、札幌大通地下ギャラリー500m美術館といったプロデュースなどにも尽力されている。
 そして、今回、7月19日から72日間に渡って札幌で開催される国際的なアートフェスティバル「札幌国際芸術祭2014」の地域ディレクターも務めているとのこと。どんな思いで取り組んでいるのか、お話を伺った。
 端さんは、現代アートの造形に関してのアイディアを日夜考えている芸術家だが、言葉での表現もとても豊か。端さん自身が20年以上前から開催を提言していたこの催しが何を目指しているのか、イベントと街作りとをどう繋げていきたいのか、頭の中に絵が描けるように語ってくれる。
 ゲストディレクターが坂本龍一さんということ、テーマが「都市と自然」ということはポスターなどでも目にはしていたが、どんな芸術祭なのか少し分かりにくい印象の「札幌国際芸術祭2014」。端さんの熱意溢れる説明を聴きながら、これまで「ほっかいどう元気びと」で取り上げてきたひとつひとつの理念や意識と根底で繋がっているのだという強い印象が私の中に残った。
端聡さん 東日本大震災以降、これからの私達の住む街は、そしてこの国は、どういう方向を向いて進んで行ったらいいか、ひとりひとりが考えなければならない時期に来ている。環境問題、エネルギー問題、自然との共生。
 これまでの日本の近代化は何が良くて、何が行きすぎたのか、まずかったのか・・来た道を振り返り、今新たな「都市と自然」の意識を掘り起こさなくてはならない。その意識の掘り起こしを「アート」という分野から見つめ、見る人にも「あなたはどうする?」という将来の街作りへの参加意識を持ってもらう。その提言とも言うべき発信を北海道からというのは、日本の近代化の経済の屋台骨を作ってきたのが炭鉱というエネルギー産業、それを支えたのがこの地だから。足元を歴史と共に見つめ直さなければならない今、北海道は、「気づき」の感度の高い場所なのかもしれないと腑に落ちる。
 「これまで私たちはどう暮らしてきたのか」を一旦振り返り、「意識を持ってこの先の未来をひとりひとりが創っていこう」という触発をアートで・・という取り組み。自然との共生はアイヌの人達に学べるものが大きいだろうし、端さんの言う「社会を彫刻する」という発想は、旧いものにとらわれずに思い描くためのこれからの知恵のひとつだろう。
 芸術は、創る人が一方的に創り、それをわかる人だけどうぞ受けとって・・という時代から、ともに意識を共有し、ともに社会をより良く創っていくという時代がすでに始まっているのだということに気づかされるような端さんの語りだった。

 このインタビュー後記でここのところテーマにしている「視点」。まさに、視点の掘り起こしと、それを深めるために、芸術・美術という「装置」も大いに役に立つのだろう。
 端さんは、現代アートへの向き合い方として、「わからない」で済ませるのではなく、何度も見て体感してみてと言う。そのうちに何らかの「凄さ」を感じさせる作品に出会えるから、と。その「凄さ」は創り手の思い。凄まじいまでの思いで作品に取り組んでいるそのエネルギーが伝わるはず。それを感じて欲しい、と。

 いろいろなことがある人の世。心の中にぽっかりと穴が空いたり、痛みを抱えたり、茫然自失とすることがあったり・・人が抱える思いは楽しい事ばかりとは限らない。
 そんな時、人の思いや、気や、魂のこもった作品に、頭を空っぽにして向き合おう。
 人のエネルギーは、人が持つエネルギーから触発されるものがきっとあるはずだから。

(インタビュー後記 村井裕子)

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