5月25日放送

 5月4日放送の札幌幌馬車二代目御者の渡部一美さんの回のインタビュー後記に、「馬が都会の中で車と共存し、それを見て街の人も笑顔になる・・それは平和の象徴のような光景。何気無いことが毎年当たり前のように繰り返されることこそが幸せなこと」と書いたところ、ある方からこんな感想を寄せていただいた。
 「風景そのものは、変わらない“事実”として万人の目に等しく映りますが、その意味する“真実”はとなると、見る側の経験値や視点、なによりその人の心の高低浅深によって変わります」
 馬車を見て、平和を感じるというのは心の豊かさの現れです・・と、背筋が伸びるような嬉しいメッセージ。
 先の戦争で馬も出兵させられ兵器備品扱いをされた後、一頭も帰ってこなかったという事実をある時知って、そういう時代を決して忘れてはならないという私の中の思いが、のどかな観光幌馬車を見た時に「平和の大切さ」というキーワードに結びついたのだろう。見ている「事実」は変わらないのに、経験や視点によって見えない深淵が幾層にも重なり合って見えてくるということが実に面白い。

鈴木・ウリセスさん それは、日常の細々した生活にも言えるのではないか。
 相手の一面だけを捉えて単純に好きとか嫌いではなく、背景を見るとかその人の隠れたいいところを見るようにするとか、一見困難な出来事も感情で「辛い」と捉えるよりも、それにより自分が成長出来る姿を思い浮かべるとか。「元気びと」達にお話を伺っていると、前に進もうとしている人は、方法は違えどもその視点の柔軟さ、つまり「真実」の捉え方がとても柔軟だということに気づく。
 今回のゲストは、サッカーJ2コンサドーレ札幌でブラジル人選手やスタッフの通訳を務める鈴木ウリセスさん 32歳。ブラジルサンパウロ生まれで、ブラジル人の父とブラジル生まれの日本人である母を持ち、10歳で日本へ。サッカー選手を目指すが叶わず、高校卒業と同時にコンサドーレ札幌から通訳にと声がかかり、途中「アルビレックス新潟」での通訳も経験し、スタートから14年目を迎える。
 コンサドーレとどんな関わり方をし、内面はどんな変遷をしてきたのかを伺った。
 人は何か機会を与えられ、期待をされることにより確実に変わっていくものだ。自分が今立っている細いロープ、そのか弱くて細い綱を自分で少しずつ縒(よ)って太くしていく。冷や汗あぶら汗を流しつつ、がむしゃらにそこから落ちないようにしながら。
 鈴木さんがブラジル人の通訳を任された時、ポルトガル語は10歳までしか話していなかったため、「仕事」としての通訳のノウハウを一から体験を通して身につけ、さらに心情までをも伝えられるように取り組んで来たのだと言う。「みんなに迷惑をかけっぱなしで・・」と、高校卒業ですぐに飛び込んだ新しい環境は難しさも満載だったそうだ。

鈴木・ウリセスさん だが、鈴木さんから出てくる言葉は、困ったことや失敗した話題にもかかわらず、前向きエネルギーに溢れている。「みんなのおかげで」とか「感謝の気持ちで」など、自分が今ここにいられることに対する有難さを言葉にすることを惜しまないのだ。
 そして、鈴木さんが出会った人が皆素敵に見えてくるのは、その人のいいところをぎゅっと“濃縮還元”して話すから、後味がいい。コンサドーレ札幌に入ったばかりの頃監督を務めていた岡田武史さんから学んだ沢山のこと、現社長の野々村芳和さんは通訳の仕事に対して厳しいがちゃんと見てくれているのが伝わって嬉しい・・などなど。
 そして、選手達がピッチで全力を出せるようにサポートをしたいという話をした収録が終わった直後、思わずこぼしたのがこんな言葉。
 「あ・・自分が支えている話を沢山したけど、日常では結構選手達に支えてもらっていることも言えば良かった!」
 何かで悩んでいたりすると、選手達の方が「ウリ、どうした?」と声を掛け、話を聞いてくれるのだそうだ。

 前向きな人というのは、何もその人の周りが楽しく嬉しい事実ばかりではない。どこを見るか、どこに価値を見いだすかで、人生は光に満ちているか闇ばかりかの分かれ道になる。今いる環境を受け入れ、自分がここでどういう役割が出来るか、貢献が出来るかを考えることで高くて深い真実が見えてくる。
 ここのところ注目されているアドラー心理学の本を何冊か読んだが、「嫌われる勇気」(岸見一郎・古賀史健著 ダイアモンド社)という新刊にはそんなヒントが満載だった。中でも、「私は悲観的な性格だから」「ネガティブな気質だから」と、何かをしないことの言い訳によく「性格」が持ち出されるが、アドラーは考え方、捉え方によってそれは変えられるものなのだと言う。「性格」と表現してしまうと絶対変えられないと思い込み、自分を前に進ませない言い訳にしてしまうが、「性格」ではなく「ライフスタイル」あるいは「世界観」と言葉を変えると、自分で自分をより良く変えていくことが出来ると説く。「私は悲観的なライフスタイルを持っている」なら「私は楽観的なライフスタイルを持っている」に。「ライフスタイル」「世界観」は、自分で選び取ったものだから、自分で選び直せるのだという。
 ブラジル人の血が流れる鈴木さんなどは、きっと「だから陽気で明るいんでしょ」と言われてきたのではと思うが、「後天的」に自分を変えていく努力もしてきたのに違いない。通訳になったばかりで失敗続きの頃は、自室の出窓に体育座りをしてうじうじと悩んでいたとも笑っていた。
 日本人であれ、ブラジル人であれ、一人の人間の中には「ポジ」も「ネガ」も併せ持つ。要は、そのどちらを前面に出して生きていくかだ。“どちらのほうが人生開けるか”の問いかけをし続け、意志の力で自分を「更新」し続けていくことが大切なのだ。

 鈴木さんの人柄で、コンサドーレ札幌は素敵な人たちのチームであることが改めてラジオからも伝わったに違いない。今季は苦しい戦いが続いているが、魅力ある人たちが笑顔になれるように、頑張って欲しい。
 “辛い状況だからこそ、突き抜けた先に価値を見いだせる”と信じて。

(インタビュー後記 村井裕子)

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