5月11日放送

 2014年最初の「ほっかいどう元気びと」は、前年に世界最高齢の80歳でエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さん。前人未到のチャレンジへの思いや、ケガや持病などの困難をもものともしない人生観をたっぷりと聴かせていただき、北海道のこの1年を元気にするような内容に沢山の反響も寄せられた。
 私はいつものように収録準備として資料を読み込んだり、登頂を追ったドキュメンタリーを観たりして予備知識を入れていったが、その中であるひとりの女性に興味が湧いていた。想像を絶する険しい山を共に登って三浦さんの傍で逐一健康チェックの任務を全うしている小柄な女性。下山の時には、自分の足で最後まで降りたいという三浦さんに、「この状態での徒歩では命の保証は出来ません」と体調と天候を鑑みてドクターストップをかけヘリの決断を迫る姿が凛々しく、厳しい。資料を見ると、札幌の病院に勤務するドクターという。是非話を訊いてみたいと思い、今回それが嬉しくも実現した。

大城和恵さん エベレスト三浦隊のチームドクター、札幌の「心臓血管センター 北海道大野病院」に勤務する医師 大城和恵さん 46歳。山という特殊な環境で起こる病気や体調悪化に対して特別な知識と経験則を身に付けた上で関わりたいと、日本で初めて「国際山岳医」の資格を取得。さらに、これも日本では初めての取り組みという「北海道警察山岳遭難救助アドバイザー」としての役割で医療の面から山岳遭難救助にも関わっている。
 意志を持って仕事に向かい、学びを怠らず、前向きに一つ一つ経験を重ね、それでいて地位や名誉に恋々としないしなやかな女性。私はそんな女性が大好きだ。年齢に関係なく尊敬するし応援もしたくなる。エベレストの映像からクールな女性をイメージしながらスタジオで待っていると、現れたのはなんともソフトな雰囲気。使い古された形容詞を使うと“チャーミング”な、今の言葉で加えると“癒し系”の女性。「高い山から降りると、ふわりとした優しい印象ですね」と、思わず感じた魅力を口にすると、「いえいえ、これはフェイクなんです(笑)」といつもは全然違うのだとユーモアで返してくれる。こういう機会を与えていただいて有難いと感謝の言葉に人柄がにじみ、何度も会って話したことがあるかのような楽しい錯覚の中で収録がスタートした。

 訊きたいことは山ほどある。明るく笑いが絶えなかったという登山隊の様子や目の当たりにした三浦さんの凄さ、最高齢登頂成功の要因。医師として最も配慮したことやその経験で得たこと、感じたこと。年齢を重ねる中での人の身体と心の可能性。さらに、長野の出身の大城さんがなぜ北海道で活動しているのか。海外に行ってまで資格を取った国際山岳医としての役割や夢。自身を鍛えるために日々していること。そして、北海道にも多い中高年登山者へのアドバイス・・。知りたいことが数々あり、それについて大城さんも伝えたいことが沢山あり、気づくとふたりとも早口に。思いが溢れ、またその思いへの共感のあまりエンジンが加速度を増す。いけないいけない、訊き手である私がテンポに配慮しなくては・・そう頭に巡らしながらも、ふと、失礼ながら「この人も前のめりな人かも」と、勝手に“同類”に認定(笑)

大城和恵さん なぜ目標に向かって果敢にチャレンジして来られたか?という問いへの答えにそんな取り組み方がにじみ出ていた。
 「行ってみたいやってみたいと思うと行動がうまく結びついていく。これをしたいと思うとそのためにどうすればいいかしか考えなくなり、そうすると出来るための要因が浮かんでくる」。国際山岳医の資格もこれが今の自分に必要と思って挑戦し、その後からそれを役立てることが出来るような活動に一生懸命取り組めることがありがたい、と。
 同じ「前のめり」でも、“のめり”ながら進む“前”が見えているということは大事なことだ。世の中の数歩先を見据えて真っしぐらに進んで行く先見性。頑張って進めば、後から世の中が追いついて来る。中高年登山者が増え山での知識がさらに求められるようになってきた時代の流れと、山岳医として果たせる役割が今まさにリンクするといったように。
 “Active in mountain”が「山岳医」の理念という大城さん、さらに山の経験を積み、持てる知識と人間性とを益々磨いていくことで、「医師」プラスαの役割を今後果たしていかれるのだろうなということが感じられ、前向きな風に吹かれているような爽やかなインタビューだった。

 「ご自身の人生を山に例えると、どんな頂を目指していますか?」
 比喩の問いかけは、その人がどういう考え方を身につけて生きてきたかの“引き出し”がよく見えると私は思っているが、“山登り”の喩えにはまさにそれが表れる。大城さんのその答えは、「自己実現。自分が目指しているものに対して実現していきたいという生き方」。
 その頂はすでに見えているのかをさらに問うと、三浦さんの例を出してこう続ける。
 「きっと頂には届かないのではないか。三浦さんを見ていても、自分の可能性は終わりが無いように見える。いつも高みを目指し、取り組み続ける中で次の目標が見えてくるのではないかと思っている」と。どこがほんとうの頂上かは見えないけれど次また次へと頂を目指していく、そのこと自体が生きるということ・・頭の中で自分の引き出しの中のキーワードと照らし合わせ、深く頷く思いになる。
 「でも、私はひとつのことでひたすら登り続けるということは無いんです」と大城さん。疲れたら休憩し、休憩していると飽きてしまうのでまた次へ。ガンガン行く時もあれば疲れたら休む時もあって割とマイペースです、とも。
 ふと、頭の中にエベレスト登頂ルートに書かれている地図上の重要な“点”が浮かぶ。C2やC3などと設営された高山の登頂には欠かせないベースキャンプだ。人が登って行く道のりも、ガムシャラに登り続けることよりも、その折々に正しく休息してエネルギーを補給し、計画を練り直すポイントを取り入れることでより良い“山登り”が出来るのかもしれない。後で振り返って人生のルートを地図にした時に、あそこの時点は有意義な転換点だったなと納得できるような人生地図に置かれた点、ベースキャンプ。
 収録後の「宝もの」の答えも「ほっとする自分の時間」と、マイペースの大切さがにじむ。犬と過ごす時間や、山登りでも山頂で景色を見て自分がひとり世界を独り占めしているようなかけがえのないひとときが宝もの。忙しい毎日でも、そんな“自分のための時間”を意識することで、自分自身が幸せでいられることに気づいた、と言う。

 長い人生、なりたい自分を目指して登って行く“山登り”には、次の目標に向かうための大事な時間と空間である“ベースキャンプ”は欠かせない。そして、日々の中でも、本来の自分に戻るための小さな“ベースキャンプ”を確保することも必要だ。山登りと人の一生涯という山坂の歩き方はどこまでも共通項があるような気がして面白い。
 中高年登山者へのアドバイスとして語ってくれたキーワードも想像力を膨らませるといろいろな示唆に富んでいた。
 ・・・大事なことは、「常に新しい登山をする」という意識を持つということ。年齢を重ねているのにいつまでも同じペースで挑むのは危険。しっかり休みも取り、無理はしないこと。・・・
 「前のめり」も年齢のステージに合わせて新しいやり方を取り入れていくと、その都度登った頂から心ときめく風景が見えてくるのかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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