4月27日放送

小西泰子さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、岩見沢で25年に渡り農産物の直売所「ふる里ふれあい店」を切り盛りし、農業をもっと魅力的なものにして地域を盛り上げようという活動を続ける北村の農業・小西泰子さん 59歳。農業という産業をただ効率や経済だけで捉えず、土や植物の力は人の生命を育み生きがいも生むとの信念で生産者以外にもその価値を体験して貰う企画にも力を入れ、北海道の「平成25年度 女性・高齢者チャレンジ活動表彰」最優秀賞を受賞されている。
 特に興味深いのは、取り組みの過程で園芸療法の概念も必要と気づき大学の科目実習生として学び、初級園芸福祉士の資格も習得して、障がい者施設の農産加工品を受け入れたり園芸福祉農園を整備したりという新しい試みだ。北海道の第一次産業は難問山積で、後継者問題や高齢化など共通の悩みをどの地域も抱えているが、これまで出ていただいた方々は、漁業にしても農業にしてもとても素朴な魅力に溢れ、大変さを原動力に変えて独自の取り組みをされている。じっくりとお話を伺おうと、私も楽しみにしていた。

小西泰子さん スタジオにやって来た小西さんは、人懐っこい素敵な笑顔。ところが、マイクを挟んで座った途端に「どうしよう・・・」と緊張され、収録前の確認のための園芸福祉などの質問にも答えが詰まって全く出て来ない。「あがっちゃって・・・」と震えながら恐縮する小西さんに、「普段お茶を飲みながら話している感じでいいですからね。日々されていることを話してくださいね」と、思わず手をとってさする。
 農業者の手だ。太くてたくましくて、爪が丸い。働く手が全部知っている。大丈夫、実際に取り組みをしてきた人だ。話すことが無いのではなく、言葉にすることに慣れていないだけ。思いは、経験という“壺”の中に沢山詰まっている。
 小西さんの経験を信じ、 収録という一本橋を手を繋いで渡るような感覚でインタビュースタート。最初にこの季節の北村での農作業の準備の話。そして、25年続いた直売所への思い。第一声を発して意を決したか、ひとつひとつ丁寧に考えて答えてくれる。
 訊けば、小西さん、実家もお米農家、嫁ぎ先も農家で、最初の頃は早朝から夜まで働き詰めの日々に「農業に夢なんか無いと思っていた」と言う。思いが変化してきたのは、直売所を自宅の敷地で始めるようになり、無人を有人に切り替えてから。盗難が相次いだことでの苦肉の策だったそうだが、それが良かったと小西さんは言う。お客さんたちと気さくに話をするうちに思いやニーズがわかり、「消費者は、農作物や植物を育てることによる癒し」も求めているということに気づいたのだそうだ。
 「農業者は収益を上げるだけではなく、もっともっと農の力を知って、広めて、体験してもらうことも大切」、そう感じた小西さんは、園芸療法を学び、初級園芸福祉士の資格もとることになったとのこと。土や植物の力を再確認したのは、認知症のお年寄りに園芸体験をして貰った時だそうだ。作業をしているうちにどんどん表情が変わり、手が動き、やはり農は人の生命力をも増し、生きがいも育てるのだと確信したと言う。

 これからの農業は、生産者だけではなく街の人たちにもその楽しさや風景の癒しを感じてほしいと話す小西さん。植え付けから収穫までを体験して貰う「落花生の体験農場」の話になると、最初の緊張が嘘のようにとても楽しそう。北海道では珍しい落花生、何をどう植えて、どこに実がなり、どう収穫するのかもあまり知られていないこの作物はとても人気が高く、みんな大喜びで実りを味わうのだという。
 「農の持つ素晴らしい力を知り、人の幸せのためにそれを使っていく。そのための取り組みをここまでやって来られたのは、多くの人の繋がりがあったからこそ」
 そう話す口調は、訥々とではあるが、真実の響きでこちらに伝わってきて、無口だからこそのその言葉の重みが感じられるほどだった。
 私は、「話し方講座」を10年続けているが、大事なのはベラベラと流暢に話せることではない。勿論、自分の取り組んでいることや思うことをちゃんと説明することは大事だが、言葉数だけが多くても、そこにその人の真実が無ければ何も届かないと思っている。その人の全人格を傾けて真摯に胸の内を話す・・それこそが心に届く方法だと伝え続けている。

 収録を終えた小西さんの安堵感は言うまでもない。崩れ落ちるように机に突っ伏して笑いと共にため息をついたが、その後、エネルギーを注入されたかのように感動を口にした。
 「今まで、自分の取り組みをこんなふうに言葉にしたことはなかった。落花生やイベントの説明はしたことがあるが、自分の“思い”を質問されて話したことは初めて」
 そうして、「そうか、そうか、私はそういう思いでやってきたのか・・。頑張ってきた。諦めないでやってきた。話していくうちにそれに気づいた!良かった!」と、頬っぺたを紅潮させて思いを吐露する。インタビューをして、ああ良かったなと思うのはこういう時。相手が質問に答えて話しているうちにいろんな気づきに溢れ、自分の中にある力にも気づいて元気で帰られると、それはもう番組担当者冥利に尽きる。
 HPの写真で握手をしているのは、そんな流れからだ。この写真の前には「お疲れさま!」と、ハイタッチもしている(笑)。人が自分の歩む道の途上で、志を持って進み、何かに気づき、何かを変えようと動く。それはとても尊いことだが、がむしゃらの自分はなかなかその価値に気づかずに進んでいるもの。だが、話したこともなかったことを訊かれたことで一生懸命言葉を「壺」の中から取り出して、自分で自分の価値に気づく瞬間がある。その瞬間に立ち会えた喜びのハイタッチ、そして握手だ。

 何か役割を与えて貰った気がすると地域や周りの人達のために出来得ることを続ける農家のおばちゃん、漁業のおじちゃん。その市井の人達が持つ人生哲学、それに触れられることが素晴らしい。まさに「ほっかいどう元気びと」は、そこを伝え続けていきたいのだ。
 石川啄木が明治40年に書いた「林中の譚」とともに、「盛岡中学校校友会雑誌」に発表した文章をふと思い出す。
 「万事を知りて然も一事をも為さざる人は、何事をも知らず、また為さざる人と共に、人生の無用の長物也。知る知らざるに関せず、自ずから為すあるの人は乃ち生甲斐あるの人なり。かるが故に、世には博士といはるる人にして一農夫にも劣る人多き也。」
 ・・・いくら知識があっても何もしない人は、何事も知らずに何もしない人と一緒で人生の無用の長物だ。知識の有る無しに関わらず自ら進んで何かを為す人は生き甲斐のある人。だから、知識を積んだ博士と言われる人でも、一農夫にも劣る人が多いのだよ。・・・

 まず動こう、汗をかこう、はたが楽になるために、地に足を付けて働こう!

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP