4月13日放送

 表現をなりわいとする人の、その手段は様々だ。
 美術に音楽に文学、お芝居。身体表現もあれば声の表現もある。映像表現もスチールやムービーと幅広く、いずれにしても人の心に何かしらの感動を呼び起こす。その表現を通して発信する側もたえず何らかを「伝えたい」というパッションで追い求めてきたという人が少なくないだろう。

深津修一さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、映像で北海道を元気にしようと、学生の頃からの映像への情熱を都市づくり街づくりに注いでいる、株式会社「プリズム」の代表取締役 深津修一さん59歳。
 2013年、そして今年と「さっぽろ雪まつり」の雪像に映像を投影する「プロジェクションマッピング」を手がけた人と言えば、札幌の人はもちろん、それを観るために久々に雪まつりへ足を運んだという道内各地の人もピンとくるだろう。
 深津さんはこれまでフィルムレンタルや映像機器のレンタル、イベントなどの映像制作に、道内が舞台の映画のプロデュース、そして最近注目のプロジェクションマッピングまで、時代の映像の変遷に沿うようにご自身の仕事も変化してきたが、変わらないのは「映像によって、ワクワクしたり感動したりする心を共有したい」という思い。何か新しいことを始めると決まって失敗を繰り返してきたと話すが、「そんな時は、とにかく誠意を尽くして謝る。そして、本気で何かに向かっていると、必ずそれは伝わり、出逢うべく人に出逢っていく」と、困難をも通り抜けて気づいた人生観を言葉にする。
 プロジェクションマッピングの技法を独自のものにしていくようになったきっかけは、世界的スターであるシンディー・ローパーのジャパンツアーで舞台映像の担当を任されたことから。歌って踊るシンディーのボディに映像を投影するという、聞いただけで緊張してしまいそうな任務を持ち前の誠意と本気の向き合い方で成功させ、スクリーンだけではない映像のパフォーマンスのヒントを大いに吸収したと言う。そして、「プリズム」と名付けた会社を本格的に始動させ、さっぽろ雪まつりの雪像への投影を何年も前から市にプレゼンテーションし続けて、ようやく2013年、あの大勢の見物客をワクワクさせた豊平館の雪像に映し出す“ホッキョクグマの親子の物語”をお目見えさせる。

深津修一さん 深津さんの夢は、もっともっと札幌に、そして北海道に人を呼びたいということ。プロジェクションマッピングにしても地元を舞台の映画にしても魅力あるコンテンツが札幌でしか、北海道のここでしか観られないというものが出来れば、観光の可能性はどんどん広がっていくと思うと話す。人気を集めた雪像へのプロジェクションマッピングも、さらに大通公園の両サイドのビルにも映像を投影させれば、さらにダイナミックな映像世界を皆で楽しむことが出来ると、壮大なスケールの夢を生き生きと語ってくれた。
 そういう新しい試みが地域に根ざしていけば、必ず若い人を惹きつけ、次世代のクリエーターを育てていくことにもなると考えている深津さん。映像から何かを生み出すことで、その効果が四方八方に、まるで「プリズム」のようにいろいろな分野に影響していく・・そんなイメージが浮かんでくる。

 そして、収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の対話から、「映像」をなりわいとする深津さんを支える意外な価値観が見えてきた。
 「宝ものは、人の繋がりかな」というのが最初の答えだったが、「宝もの」イコール「その人がこれまで大切にしてきたものや、大切にしてきたこと」と質問をする意図をお話しすると、思いの中のスイッチがポンッと入ったみたいに「自分は映像の人間なんだけど、大切にしているのは“言葉”なんだよね」と、あるエピソードを教えてくれる。
 深津さん曰く、言葉って凄いものなのだと意識を深めるきっかけになったのが、アイヌ文化の研究者で、アイヌ民族初の参議院議員を務めた故・萱野茂さんの講演会。その時、萱野さんは、「言葉は民族のアイデンティティー。文化も生活もすべて言葉に集約され、言葉がなくなった時に民族は滅びる。それほど大切なものなのだ」といった内容を語られたそうで、今でもそれが心に残っていると言う。
 「すべてが言葉に集約される」という言葉への畏怖といった感覚と言ったらいいだろうか。それ以来、映像で何かを発信する自分も、そこを忘れてはいけないと思うようになったのだそうだ。
 そして、言葉と概念が密接に繋がっているとしたら、言葉で世界もより良く変わっていくのではないだろうかなどと話を掘り下げていくと、深津さんは楽しそうにひとつのユニークな提案をする。
 「今、日本の“カワイイ”が世界語になっているでしょ?日本独特の可愛いファッションや文化が輸出されているのに伴って。あれを世界中に浸透させたら、世界中から戦争はきっと無くなるよね」
 “カワイイ”概念が隅々まで行き渡ると、“争う”気持ちが起こらなくなる。そういう輸出を日本の役割としてどんどんしていったらいいのに、と。

 言葉は世界を変える。より良く変えることが出来る。
 そう、それは紛れもない真理だ。命を脅かすことに繋がるものを海外へばら撒くよりも、平和で優しい心になる概念を桜の花びらのように世界に舞わせたら、どんなにいいだろう。
 プロジェクションマッピングで人の心をワクワクさせる深津さんの取り組み。その、映像の発信の根底には、人の優しさや明るさ、平和の心を引き出したいという思いがあるのだと、共感した。

(インタビュー後記 村井裕子)

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