4月6日放送

 「ほっかいどう元気びと」でインタビューをしていて、ほろりとさせられることが度々ある。辛い試練を乗り越えてさらに真摯に前に進む姿勢に触れた時も涙腺はゆるくなるが、誰かが誰かを思う温かい気持ちに触れた時、人間っていいなあと、じわっと瞼の奥の方から熱いものが込み上げてくる。
神哲治さん 今回、積丹町美国で漁業を営む神哲治さんと話していた時も、鼻の付け根がツンとなった。神さんは、「美国美しい海づくり協議会」の会長として、海の環境を守るためには漁業者が率先して手をかけなければと、レジャーダイバー達と連携してウニの過密で海藻が食べ尽くされてしまう「磯焼け」対策に力を入れている。もともとは地元の漁師達はダイバー達を「ウニやアワビを獲っていってしまうんじゃないのか」と胡散臭く見、ダイバー達はそんな漁師達を煙たく見ていたそうだが、積丹の海を愛する者同士一緒に守っていこうとコミュニケーションをとり、手を携えてシーズンオフの秋冬にウニを移動させる活動を続けているという。
 その取り組みが評価され、去年は「第32回全国豊かな海づくり大会」の漁場・環境保全部門で最高賞を受賞、後継者不足は深刻だが若い人達や子供達にも海の仕事はやりがいがあると思って貰えるようにさらに頑張って行きたいと意欲を語ってくれた。

神哲治さん その神さん、若い時は冒険好きだったそうで、学校を出ると故郷を後にして遠洋漁業に従事、その後は道内各地を回っての漁を続けていたそうだが、慢性腎不全のために実家のある美国のウニ漁に転向したのだと言う。動脈硬化にもなり、もう身体は限界ですと宣告されたとのことだが、腎臓移植が成功し、奇跡的に健康を取り戻したと話す。適合したのが奥さんの腎臓。その時、奥さんは愚痴も不安も言わずに「いいよ」と快く手術を受けてくれたと言う。収録後の「宝ものは何ですか?」の聞き取りで話してくれたことだが、「あの時、カミさんがどんな気持ちでいいって言ってくれたのか、もう10年が経つけど、その気持ちを思うと今でも涙が出るんだよね」とぽつり。話を聴く私もほろり。親兄弟ではなく、奥さんが「いいよ」と言った時のその心境を想像したのと、それを思うと未だに泣けると素直に言える神さんの思いに共鳴して胸が熱くなってしまったのだ。
 神さんは主治医に言われたそうだ。「腎臓を貰ったのではなく、命を貰ったんだよ」と。夫婦で腎臓を分け合うということは、どういう気持ちだろう。どういう以心伝心が深まるのだろう。その絆の強さに思いを馳せる。
 神さんは言う。「夫婦ってやっぱり不思議だよね」と。そう、不思議。血もつながっていないのに、ふたりで力を合わせて乗り切ろうと真剣に向き合い、本気でスクラムを組んだ時に、凄い連結パワーがもたらされる。シンクロが沢山起こる。たまたまの縁があって出会った、元はと言えば他人同士なのに。

 この収録のつい前日のこと。ちょうど、私自身、「夫婦って不思議」と思う出来事があったばかりだ。その日、私は老人保健施設にいる母のところにいた。もう会話も出来ず反応も薄いが、耳元で鼻歌を歌うと目がキラッと光って声を出そうとする。記憶を共有するメロディの断片が意思疎通の細い糸。宮沢賢治の「星めぐりのうた」や唱歌の「ふるさと」、はたまたいろんな系統の歌をでたらめに耳元で歌っていたが、この日、なぜかバッハ&グノーの「アベマリア」が自然と口から出てきた。ロシアのカウンターテナー・スラヴァの「アベマリア」集を夫とある時期よく聴いたっけ・・・母とは共有したことはないけれど、気持ち良さそうに聴いているしまあいいかと思いながら歌っていると、優しい旋律に私の方が癒されていく。会話の出来ない母とこんな新しい付き合い方が出来るんだな・・・壊れたレコードのようにメロディを繰り返すうちに、心地よい時空が広がっていく。
 「アベマリア」は不思議な力があると再確認し、またCDをゆっくり聴こうと頭の中を旋律でいっぱいにしながら家に帰ってきたら、その日出かけていた夫が一言。
 「今日、なんだかわからないけど急にアベマリアが聴きたくなって、久しぶりに車の中でスラヴァを聴いたよ」と。(ザワッ!・・鳥肌)
 この類のシンクロは実は日頃から結構多くて「奇譚集」が作れるほどなのだが、それでも驚いた。なんで?どうして?「思い」は、私の心から外へ出て、受け渡しが出来るものなの?どんな力が働いているの?・・・全くもって面白過ぎる。
 「以心伝心」。その“心”を受け取る共有チューナーのようなものを磨き合うことが出来得る最も身近な存在が、夫婦なのかもしれない。磨くコツは、お互いを繋ぐ目に見えない管の中を嘘やごまかしや邪心といった“汚れもの”で詰まらないように暮らし、通りを良くしておくことか。夫婦という最も身近で大切にすべき間柄でそのコツを掴めば、真摯な気持ちで向き合う他人とも沢山の以心伝心が生まれるかもしれない。

 「子供がいないので、やっぱり“宝もの”は命を貰ったカミさん」と話す神さん、「自分の運がいいのではなく、周りの人の運がいいんだよね」と続ける。最近は、「美しい海づくり協議会」に取り組んで出会った仲間達がいい運を運んできてくれているという。
 人と人の繋がりには、まだまだ目に見えない大切な不思議が沢山ありそうで、興味は尽きない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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