11月17日放送

佐藤大輔さん 「あなたの宝ものは何ですか?」は、インタビューとインタビューの合間にコメントで紹介している「ほっかいどう元気びと」恒例のコーナー。
 収録後のほっとしたところで、「ところで、皆さんに訊いているのですが・・」と質問し、ぽろり一言こぼれ落ちたキーワードからその人オリジナルの心の風景を引き出していく。
 「宝もの」のキーワードそのものが重要なのではない。「出会い」に「子ども」、はたまたその人を成り立たせている「道具」・・それらは、言葉としてはだいたい万人に共通していて想像がつくものだ。その言葉以上に知りたいのは、その「宝もの」として成り立っている背景。「何故?」と紐解いていくと俄然その言葉に付随しているものが浮き彫りになり、立体的にその人が浮かび上がってくる。私の役目は、喩えて言うなら「芋掘りをする人」。問いかけという“シャベル”を手に根っこを辿っていくと、必ずきらりと光る“お芋”がいくつも連なっていて、それらがするすると繋がって出てくる。本人すらまだ見ぬ“お芋”だったりすると、私もほんとうに嬉しい。
 そして、百人以上に同じ質問をしていて気づくのは、その反応自体がまさに“その人らしい”ということだ。真っ直ぐな人は真っ直ぐな反応だし、人を楽しませるのが好きな人はユニークな言葉を探し、思いを言葉にするのが苦手な人は困った様子がそのまま現れる。

佐藤大輔さん 今回のゲストは、衣類などの染み抜きを専門に扱うために起業して8年という、札幌の「染み抜き化学研究所」代表の佐藤大輔さん。恒例の収録後の「宝もの」の問いかけに、これまでの誰もしたことがないような反応でこんな風に答えられた。
 「そんなもんないわ(笑)」
 佐藤さんの話し方は、直球、建前が嫌い、綺麗ごとも嫌い。インタビューしていても体は私の方ではなく横を向いている。それでいて話しにくいかと思いきや、顔はしっかりとこちらを向いて真摯に答えてくれる。“開(ひら)いていなさそう”で、“開いている”人。
 「そんなもんないわ」というボールを返したすぐ後に続けた言葉はこうだった。
 「全部が宝もの。ありすぎてひとつに決められない。回答不可!」
 その思いを紐解いていくと、子供も奥さんも仲間も大切で、何かを比べるのは素直になれないというのが「宝ものがない」という理由だと言う。そして、「オレって、変わり者でしょ?」というにこやかな言葉とともに人柄が溢れ出す。

 佐藤さんは、ターニングポイントの前と後で自分自身を大きく変化させていった人だ。独立して今の仕事を始める前は、大手クリーニング会社で持てる力を最大限に発揮しながらバリバリ仕事をしていたという。ご本人の表現を借りると、60人の部下の先頭に立って会社の生産性を上げるために奔走し、日々業界の人たちの「佐藤さんはすごいですね」という称賛の言葉に囲まれた日々。アルマーニのスーツで身を固め、自分は「スーパー天才だ」と絶対の自信があった、と言う。
 そんな中、お客さんが困っている“染み抜き”の部門を社内に充実させようとするも、“生産性に合わない”という会社の方針に直面し、それなら“時代の風雲児”と言われた自分が「やってやる」と意気揚々と起業。ところが、思いに反してお客の来ない現実に心はまるで遊園地の“フリーホール”状態。高い所から一気に落下したままどん底の日々を過ごし、うつを疑い病院にまで行ったという“挫折”を経験。ところが、医者の「あなたはうつ病ではない。2日間ゆっくり寝なさい」とのアドバイスがきっかけとなり、その後は違う考え方もやり方も取り入れられるようになっていったというデリケートな転換点を率直に語ってくれた。
 曰く、「儲かると思って始めた起業だったが、その視点を捨てることで“喜んで貰えると儲かる”という考え方に変わっていった。人に喜んで貰えれば生きていけるのだと思った」と。

 そんなインタビューの後で問いかけた「宝ものは何ですか?」の答えが、「そんなもんないわ」。全部が宝ものだから、比べることなんて出来ないから、ありすぎてひとつに決められないから・・背景を知ることでその言葉の意味がしみじみ伝わってくる。
 とはいえ、コメント紹介をする私としては、「佐藤さんの『宝もの』はないそうです」で終わるわけにはいかない。もっと根っこの部分に“光るお芋”はないか?・・ピカッと頭の中で質問が閃いた。
 「もし、そのサラリーマンとして“スーパー天才”だった頃に『あなたの宝ものは何ですか?』と同じ質問をされたら、その時の佐藤さんは何を挙げていたと思いますか?」
 斜めに向いているが真っ直ぐな佐藤さんの目が一瞬光って言葉が溢れた。
 「それはもう、“我が社が宝です”などと、得意そうに言っていたと思うね。社是などをとうとうとさ。あの頃は、“こう言ったらいい人と思われる”と計算して言っていた」
 そして、さらにつぶやく。
 「あの頃はいい人と思われていたと思うけど、面白くない。今は、面倒くさい人だけど、面白いよ」と。
 何を捨て、何を守ったのか、佐藤さんの人生の“取捨選択”が言葉の背景に立ち上がる。インタビューの楽しさを実感するのはこんなキャッチボールが出来た時だ。

 “ほんとうの自分”を生きようとすると、他の人から見て“面倒くさい人”になる・・・確かに、確かに。私も相当“面倒くさい”人だと自分で思う。
 でも、“面白くない”ほうと“面白い”ほう、どっちがいいかと問われたら、断然、面白いほうを取りたい。“面倒くさい人だけど、断然、自分の心が面白い”ほう。
 では、“ほんとうの自分”を生きているかどうかは、どうやって判断すればいいだろう。佐藤さんが「オレって変わり者でしょ?」と言った後につぶやいたこんな表現が、心に残っている。そう、それが、たぶんひとつの答えだ。
 「・・・そんな、今の自分を、案外好きなんだよね」

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP