11月3日放送

 「ほっかいどう元気びと」のインタビューはこれまでに130人を超え、「夢の叶え方」や「人生観」、そして、「幸せの価値観」など沢山の気づきに触れることが出来る・・と前回この後記で書いた。特に、それぞれの「幸せ」の考え方に触れているうちに、ある共通の法則が浮かび上がってくるのが面白い、と。
 30分の番組のちょうど中頃には、ゲストの「宝もの」をナレーションで紹介するコーナーがある。インタビュー収録後に、「あなたの宝ものは何ですか?」と問いかけて、出てきた答えをさらに質問で紐解き、なぜそう思うのかの理由やその人のバックボーンとなっているものを文章にしていく。
 私にとってこの聴き取って原稿にするひとときは、様々な発想に触れることで大いに触発される時間。「宝もの」はイコール「大切なもの」、つまりその人その人の「価値観」であるわけで、「人は大事なものをどうその手に掴んでいるのか」という十人十色のサンプルはとても貴重なものだと思うからだ。

武良千里南さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、釧路湿原野生生物保護センター内「猛禽類医学研究所」で野生動物専門の看護師として、また研究員として活動する武良千里南さん24歳。この武良さんの「宝もの」がとても素敵で、その思いの奥の情景がにじみ出てくるような言葉の選び方が印象的だった。
 武良さんの「宝もの」は「記憶」。
 「小さい時に見たもの。美しいと感じたもの。好きな人から聞いた言葉。好きだと思った匂い。あらゆるものが今の私を作っている。それらを出来るだけ多く覚えておきたい」
 武良さんの「宝箱」の記憶のかけら達。それが埋れてしまわないよう、潰れたり消えたりしないように、最善の手の掛け方で大事に仕舞われているというイメージが浮かぶ。
 武良さんは続けてこう言葉を繋げる。
 「それは、素直に人が持っている感覚だけど、大人になると失いがちになるもの」と。
 野生動物と向き合う時に、そういうものを失くしてしまうと画一的な考え方になってしまう。だから、「何とかして自分の中に封じ込めておきたいもの」なのだそうだ。

武良千里南さん 武良さんが取り組んでいる「野生動物と向き合う」仕事。
 なぜ取り組むのか、どこへ向かって行きたいのかは明快だ。生きものの一個体そのもののケアをするということももちろん大事な仕事だが、今出来る役割を通してその後ろにいる沢山の個体群が生きるための全体のバランスを保つ研究や活動をしていきたい、と。
 子供の頃に留萌の自然で育ち、獣医師の父親と「なんでもやってみなさい」という母親の関わりの中で、「環境の中で生きものは生かされるが、その関わりがバランスを崩しているために様々な問題が起こっている」ということに気づいたのだそうだ。
 その一番の原因が自分たち人間であるという現実の中、「それを何とかするにはどうしたらいいのか?そもそも何が起きているのか」を強く知りたいと思ったのが、この仕事へのスタートだったと話す。

 武良さんの言葉の中に繰り返されるのが「知りたい」というキーワード。
 「自分たちが生活しているその裏でどういうことが起こっているのかを私は知りたい」
 そして、「知らないままで何かが失われていく、壊れていくのを気づくことをせず、あるいは気づいても見過ごして生きていくのはやっぱり嫌だ」ときっぱり言う。
 知ってしまったら何とかしたいという思いが、さらにもっと知りたい、もっと高めたいという思いに繋がっていくのだと、静かな口調で温度の高い思いを教えてくれた。

 24歳。心の中に大切に積み重ねてきた「宝もの」である「記憶」。そのひとつひとつに息を吹き込んだ北海道の自然のあらゆる恵みの存在も伝わってくるようだ。
 私は訊いてみた。
 「武良さんの心の中の引き出しに沢山の“記憶”の宝ものが消えないで残っているとしたら、それを一つでも多くとっておくために何をしていますか?」
 その答えは「書くという作業」。
 まとまった文章ではないけれど、記憶の断片を書き留めることで大切な感覚を忘れないようにしているのだと話す。
 見たこと、聞いたこと、触れたこと・・といった、目には見えない「五感」。一瞬で通り過ぎてしまうものだけに、とどめておく意識や努力がその人の感受性をますます輝かせていくに違いない。
 五感の中で最も想像力の世界の「匂いの記憶」で好きなものは?と訊いてみる。
 「宝箱」から出してくれたのは「本格的に雪が降る前の匂い」。ちょうど今の時期、冬になる前のピンと張った空気が醸し出す雪の予感の匂い。道産子なら「ああ・・」と頷けるだろう。それこそ、北海道の「宝もの」の匂い。

 「感性」は、日々「感じる心」をクセにしないとどんどん摩耗してしまうと聞いたことがある。空が高いな・・とか、夕焼けがいつになく綺麗だ・・とか、誰かの言葉が心にしみた・・とか。感じたその感覚を忘れないように書き留めて、そして、それを時々読み直し思い出すことで「感性」は磨かれる、と。

 インターネットにスマホ・・現代人の目線はあまりにも近くを見ていることにふと気づく。五感をシャットアウトして情報を追い続ける日々。感受性の記憶に繋がる大事なものを見逃さないよう、時々は武良さんの日常のように、遠くを見つめてみよう。
 秋から冬になる前の、雪が降る直前の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら。

(インタビュー後記 村井裕子)

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