10月6日放送

矢野直美さん よく「人生」は「旅」に喩えられる。
 北へ行くのか南へ行くのか、誰と行くのか、何処まで行くのか、各駅停車なのか超特急なのか。自分の過去現在未来への一本道と列車の旅などのイメージが叙情豊かに重ね合わせられるからに違いない。そして、どちらも自分の五感をフルに使って体験してみなければ深い気づきは得られないということもよく似ている。
 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、フォトライターの矢野直美さん。鉄道にまつわるエッセイや写真集を発信し続けている、元祖「鉄子」さんだ。
 「鉄道好き」の種類でも「撮り鉄」「乗り鉄 」といろいろな好みがある中で「私は『旅鉄』です」と言う矢野さん。全国を旅する中での印象的な出会いは?と訊くと、数々ある思い出の引き出しの中からこんなエピソードを紐解いてくれた。
 日本海側の五能線という海沿いのローカル線でのこと。お天気次第ですぐに止まってしまう小さな路線は、やはりその時も荒天で運休になりバスの代替輸送に。旅人たちの中に「せっかく来たのにバスなんて・・」というため息まじりの空気が漂った時、地元のおばあちゃんのこんな一言が皆を和ませたそうだ。
 「旅はな、出来るだけで楽しいじゃないか。だから何でも面白がれ」
 その言葉が今でも心に残って私の原点になっている、と矢野さん。
矢野直美さん そして、 その後に敢えて訊ねた「『人生は旅』とも言われるが、旅から学んだ人生観は?」との問いへの矢野さんの反応がとってもビビッド。何かを発見した時のような素直で朗らかな口調でこんな答えが返ってきた。
 「ああ~、そういうことなんですよね。そのおばあちゃんの言葉がそのまま私の人生観になっていました・・・何が起きてもその時々で面白がるというところ。ベストを尽くしてダメだったら諦めようということ!」
 人生観など、日頃、皆はっきりと明確な言葉にしているわけではない。漠然と何かを大事にしていたり、漠然と何かしらを感性で選び取っていたりしている毎日だ。人はひとりひとり、そんな漠然を心の支えにして踏ん張って生きている。
 その漠然が輪郭を持つ瞬間。感性と論理性が言葉で繋がったその瞬間、訊き手として共に宝もの発掘に立ち会ったような気持ちになる。

 そして、「人生観のフォルダ」をさらにひとつひとつ開けて見せてくれるように、矢野さんは「旅」を通して培った「大切にしてきた思い」を言葉にしてくれる。
 「旅に出る時は、『まあ、いっか』という言葉が相棒。列車に乗り遅れたりしても、乗り遅れたからこその発見や出会いもあるから」
 「チャンスの女神様は前髪しか無いからパッと掴まないとダメと言われるが、私は『チャンスの女神様は百人姉妹』と思っている。シャッターチャンスを逃しても、またチャンスはやってくる」

 列車の窓から息を飲むような風景に出くわしても「あ~、撮れずに過ぎてしまった」・・・というように、掴もうと思ったのに掴めないということだらけなのが実は私たちの日々の現実だろう。でも、「どこかに向かっている、そのこと自体が楽しみ」と思えると、人生という旅のワクワク度も増してくる。目を凝らしてみると、チャンスの女神が姉妹でワンサカ飛び交っているなんて、想像すると明日が楽しくなる。

 矢野さんは言う。鉄道はいろんな側面を持っている。旅のみならず日常の通勤通学の足でもあり、それ自体が大事な産業。そこに働く大勢の人のひとりひとりの思いにもフォーカスしたいし、側面を知れば知るうちに、あれもこれも知って欲しいという気持ちになる。
 それらを書きたい、撮りたい、そうしてみんなに伝えたい。まさに、鉄道にまつわるすべてに恋をしている感覚です、と。
 この仕事に取り組み始めた10年前は、そんなふうに「鉄道に恋する」女性はまれで、矢野さん曰く「珍獣扱い」だったそうだが、同じように鉄道に関わる女性たちや鉄道会社で働く「鉄おとめ」達と、女性が珍しいと言われなくなるまで頑張ろうと確認しあったという。時代は確かに変わりつつあるが、まだまだ過渡期。私鉄のある本州などではすでに活躍している女性運転士や女性車掌などがもっと北海道でも増えて、地元で働ける人達が道内各地で増えていくことを応援したいと、矢野さんはさらなる役割を語ってくれた。

 ここのところ、北海道は鉄道のトラブル続き。安全に関しての再点検や社員教育の徹底などがその都度その都度叫ばれている。
 耳を疑うような不祥事などもあり、どこへ行ってもJRに対しての苦情や不満が渦巻いてしまっているが、大きな組織の中で一生懸命に仕事に向き合っている個人個人はきっと大勢いるに違いない。何度も何度も頭を下げながら、めげずに走り回っている人たちも確実にいるに違いない。だけど何かが完全にずれてしまった大きな歯車の中、思いばかりが空回りしてしまうその焦燥感は切ないものだろう。
 鉄道に対して愛を持って関わっている人たちが消耗しないよう、気概を持って鉄路を守っている人たちの心が萎んでしまわないよう、硬直してガタガタになった巨大歯車が正常に再生していくことを今は願うばかりだ。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP