9月29日放送

 自分の飼い犬が、気持ち良さそうに原っぱを走っている風景。それは、なんて幸せな情景なのだろう。何故だかわからないが、尻尾を上げて風を切っているその姿を見るだけで、胸の奥から嬉しさがこぼれてくる。

 今、我が家にいる「尻尾の生えた天使」は、不幸な経験をしたのち、何かの縁で我が家にやってきた。
 6歳になる年齢だったからすべてを把握していただろう。信じていた家族に裏切られてひとりぼっちにされ、悲しみの中それでも生き抜いた。救助と保護の手を介して我が家で引き取った時にはもう駄目かと思うような惨憺たる状態。30キロ以上はある大型犬にもかかわらず、お腹が壊れてやせ細り20キロにも満たない。私の手でお腹周りを囲むとその輪っかで足りてしまうほど。内蔵が痩せると肋骨なども閉じてしまうことに驚く。まるで歩く骨格標本だ。足の関節は棒のように固まってうまく歩けないし、最も可哀想だったのは人と離れるとパニックになる「分離不安症」が酷かったことだ。
 すがりつくような目に「ここにいていいよ」と言い続け、月日は巡って元気回復。ピョンピョン飛び回って走れる足も取り戻して、今年堂々15歳の秋。今の流行り言葉を使わせて貰えば、不幸な時期を乗り越えた年月の「倍返し」!
 未だ衰えぬ食欲と脅威の生命力に、犬好き家人は「生まれ変わって、生き直したんだね」と目を細める。
 願いは、老化とともに再び弱ってきた足腰の衰弱を食い止めて、散歩を楽しみ、風の匂いを緑のそよぎを一時でも長く感じて欲しいということ。
 きっと、多くの飼い主も、目の前の愛しい対象の足の衰えや体調の変化を切ない思いで、でも温かい思いで見つめているだろう。

竹田勇さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、そんな飼い主の喜ぶ顔を見るのが嬉しいという、札幌の「合同会社もえれ製作所」代表社員の竹田勇さん。犬を愛する3人が集まって、犬の車椅子を作る会社をスタートさせた人だ。
 きっかけは、竹田さんの愛犬が高齢で歩けなくなり、自分で手製の車椅子を作ったことから。竹田さんの自己流では全くものにならず、知人の川島将さんを介してやはり同じような思いを持っていた高木浩行さんと出会い、高木さんの手による車椅子のクオリティの高さに感激して、「犬用車椅子」を欲している人に提供していこうと会社を設立したとのこと。
 聞けば、高木さんの本業は精密機械やオートバイなどのパーツ製作。犬の身体に合わせた車椅子の設計・製作も元々の強みを発揮したというわけだ。仲を取り持った川島さんは、IT関連の仕事を活かしてWEB制作や経営事務一般。竹田さんは楽器店や音響メーカーにいた頃に経験した企画とマーケティングという、それぞれの得意なことを持ち寄ってのスタートだったそうだ。

竹田勇さん 高齢で足が立たなくなったり事故で足を失くしたりした犬を歩けるようにしたいとの依頼が、全国から月に40台から50台。犬の喜ぶ様子も勿論犬好きとしては嬉しいが、飼い主さんの表情が180度変わって安心した表情になるのが本当に嬉しいと話す。
 合同会社をスタートさせたのは2年ほど前だが、実は今が過渡期なのだと竹田さんは言う。犬好きの周りの誰かの為に車椅子が役立ってほしいという思いで始めたが、思いがけず注文が殺到し、会社としての新たな体制作りが求められている、と。パーツを外注するなどの仕組み作りの途中段階なのでまだ話せないことがあり、今がまさにターニングポイントなのだと思っていると、やや歯切れの悪いところもあった。
 「好き」を仕事にする。それは、実はとても大変なことなのだ。

 竹田さんに犬の車椅子を作らせるきかっけとなった愛犬・ゴールデンレトリバーの「ロボ」。
 「ロボから何かを学んだことはありますか?」と最後に訊いてみると、「犬はどんなときでも前向き。やっぱりそこかな」と、言葉少なの中にも同じ犬好きとして共感出来る表現が出てきた。
 そう、犬はいつでも「前向き」。歩けなくなっても病気になっても、絶対人生(犬生?)に絶望しない。いつも「今」を生きる姿を我々に見せてくれる。
 私はいつも思っていることだが、縁のある犬は、何か私たちに伝えたりきっかけを与えたり、ターニングポイントを乗り越えさせたりという「使命」を負ってやってくるような気がしてならない。
 その人その人の何かを「埋める」ような役割と言えばいいか。
 そして、愛してくれる飼い主ひとりひとりに「前を向いて歩けば大丈夫」と一生懸命エールを、言葉ではない何か「気」のようなもので送ってくれているような気がしている。
 生きて共に過ごす時は勿論のこと、この世からいなくなっても、だ。

 犬が嬉しそうに歩き、風を切って走っている姿を見て幸せな気持ちになるのはなぜだろう。
 それを支える竹田さんたちのような仕事も、きっと縁のあった犬たちから託された「ミッション(使命)」なのかもしれないと感じた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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