9月22日放送

 ここ4ヶ月ほど集中して、20代から30代の可能性豊かな若い人たちに関わり、コーチングによりそれぞれの持てる力を引き出しながら、私自身が培ってきた技術を教えるという日々を過ごしてきた。
 積み重ねてきたものを次の世代に受け渡し、それによって人を活かせるという関わり。
 携わったひとりひとりがより良く変化していくその過程で感じる高揚感には、「自分をどう輝かせるか」に必死だった年代で味わったのとはまた別の種類の幸せが混じる。
 私の「人を育てる」イメージはこうだ。
 ひとりひとりには、自分の登るべき山がある。どういう山、どういうルート、どんな装備、どんな方法で登るかのヒントはいくらでも提示することは出来るが、最終的にその人の山を登るのは「その人自身」。自分で考えて、自分の足で登る。
 足のその踏み出しをサポートするのが、関わる指導者。背中は支えるが無理に引っ張ることはしないし、おぶうこともしない。あくまでも前に進むために足を上げるのは、本人。 そうしないと自力で歩けなくなってしまうからだ。人は、自分の腑に落ちなければ動力にはならない。何より、関わる人は一生その人と歩くわけではない。親であっても兄弟であっても、だ。
 「親が、先生が、周りの人が、会社が、社会が、世の中が」と、知らず知らずに自分の外に理由を探す癖がついて身動きがとれないようだったら、「今、自分が出来ることは何か、何に責任を持つことが出来るか」と考える「いい癖付け」を続けていく。
 大事なことは、道の先が険しい時や嵐で前が見えない時、困難な時にこそどう進んでいくか、先へ進む方法をたえず「自分で考える」習慣をつけること。斜度の厳しい坂であえて喜びを見つけられる心の持ち方を、自分が辛い時にこそ周りに目を向け手を差し伸べられる役割の持ち方を癖にする。
 そうして、自分の山を登ることで達成感や幸福感を感じられる人をひとりまたひとりと増やしていき、そんなふうに登り始めた人がまた次の人を育てて行く・・良き循環をイメージした関わり方だ。

田北百樹子さん 今回育成に携わった彼女たちが自分で沢山のことに気づこうとし、「足腰」を鍛えることそのものを喜びながらそれぞれの山を前向きに登り始めているのを見て、私自身も多くの確信を得ていたそんな折、田北社会保険労務士事務所 所長の田北百樹子さんにインタビューした。「働くこと」すべてに関するエキスパートであり、6年前にブームになった『シュガー社員が会社を溶かす』の著者である。
 シュガー社員とは、田北さんのネーミングで「過保護に育てられ、自立心に乏しい」若手社員のこと。自分に甘いので「シュガー」。本の中の数々のエピソードには、自分本位で社会性が無く、周りの状況を読むことが出来ないのに悪びれず、自信過剰・・と、こんな人本当にいるの?と驚いてしまう若者が登場するが、社会保険労務士として企業から沢山の相談を受けているうちにそんな傾向の社員が「増殖」していることを知り、これは問題意識を共有して対策を講じていかなくては会社自体がダメになってしまうと、危機感から書き上げたのだそうだ。

田北百樹子さん 6年経って、その「シュガー社員」達はどうなったかを田北さんに訊いてみると、そのまま変わらずトラブルを続ける人もいるし、どこかの時点で何らかの意識変革があって力を発揮し始めた人もいる。しかし、その後の新入社員がまたまた「シュガー社員」だったり、もっと怖いのは、そのままリーダーや管理職になっていく人も。田北さんは、若いうちに気づいて幸せな仕事の仕方をして欲しい、そうでないと30代後半でしまったと思っても手遅れになってしまうと警告する。
 そして、会社はシュガー社員に「溶かされないよう」に適切に指導をするなどの対策をとっていかなくてはならない。「今の若者は・・」と傍観者のように嘆いているのではなく、上司や管理職の人達も意識を変えていかなくてはならないと、田北さんの指摘は鋭い。
 例えば、出社しても挨拶しない新入社員に上司が注意したところ、「部長だって挨拶しなかったじゃないですか」ととんでもない反応が。「若手から挨拶するのが礼儀だろう」と言うと「上が手本を示すべき」と常識では考えられない反論に遭う。朝から血圧があがってしまうという上司に田北さんは、『問題社員の取り扱い説明書』(PHPビジネス新書)の中でこう説いている。
 「シュガー社員」にどれほど部下の心構えを諭しても聞く耳持たぬ。正しい取り扱いは「上司から挨拶をすべし」と。それは決して問題社員に対して自分から折れてください、ということではない。上からねじ伏せる方法は問題社員相手には遺恨となる。まずは、上司自らお手本を示さなければ第一歩は踏み出せない、と。
 実は、若い人達は他人のことはよく見ている。「あの上司、言っていることとやっていることが全然違うじゃん」。だから、「上」も変わらなくてはならない。
 若手とベテラン、どちらにとっても大事なことは「相手をリスペクトする気持ち」と、田北さんは答える。一方は若い人の中にある力を信じ、一方は経験を積んだ人のやり方を尊ぶ、「相互尊重」の関わり合いだ。

 「今の若者は社会性がなっていない」と言っている働き盛り世代が、実は問題社員達の親世代に当たるという事実。家庭で「この子、大事大事」で社会性欠如の育て方をしてしまったのなら、関わるひとりひとりが「社会で働く心構え」に導き、成長を実感させていかなければならない、そんな時代なのだと田北さんの話を聞いていて感じた。
 そのためのヒントとも言うべくキーワードを、前述の田北さんの著書の中に見つけたので、最後に引用させていただく。
-上司が仕事の与え方を工夫し、適切な関わりで人格をサポートするための3つの要素-
1.「有意味感」・・意味を見出す力。部下に仕事を任せる時は、出来るだけその仕事の意味づけを話し、「将来的に何かの役に立つかもしれない」と考えさせる。
2.「全体把握感」・・時系列で全体状況を見る力。先にわずかでも光が見えていれば、人間はがんばろうというエネルギーがわいてくる。上司は、多忙な時ほど、部下に対して、全体の中で今はどの位置なのかを示す必要がある。
3.「経験的処理可能感」・・自らの成功体験に基づいて、この新しい仕事も、今までこな してきた仕事のことを思えば、きっとうまくできるはずだと自分で確信する力(=自己効力感)。上司は、自己効力感の低い、不安でいっぱいの社員に新しい仕事を任せる時は、事前に「完全を求めない」と伝えることが大切。取り組む過程を見守り、常にしっかりと具体的に「ほめる」こと。その積み重ねが「経験的処理可能感」を育む。
(引用は『ストレスマネジメントブック』松崎一葉著 ダイヤモンド社より・・との記述あり)

 社会保険労務士・田北さんの仕事の根本には、「皆が幸せに仕事をしてほしい」という思いがあり、役割感がある。
 私もそれはほんとうに同感だ。
 働くことに幸せを感じられるということは、人生そのものに幸せを感じられるということと同義語だと思うから。

(インタビュー後記 村井裕子)

*参考資料
『シュガー社員が会社を溶かす』(田北百樹子著 ブックマン社)
『問題社員の取り扱い説明書』(田北百樹子著 PHPビジネス新書)

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