9月1日放送

山田航さん ざわめきとして届けわがひとりごと無数の声の渦に紛れよ

 札幌の若き歌人・山田航さんの第一歌集「さよならバグ・チルドレン」の中にあるその一首からは、ツイッターやブログなどからつぶやきが日々量産されている今の時代性がぎゅっと凝縮して伝わってくる。「ほっかいどう元気びと」のゲストでお会いした折に、ツイッターもFacebookもしていない旧人として素直に湧いた疑問点を投げかけてみた。
 「その思い自体は届いて欲しいの?紛れた方がいいの?」と。
 山田さんは言う。
 「どちらととっていただいても構わないが、両方でもある」。
 独り言の内容よりも、独り言をつぶやいているのだと気づいて貰えることが一番大事。ざわめきの中で埋没したくてもどうしても浮いてしまう。せめて独り言を云う自分を見て欲しい。そうしないと自分は誰にも覚えられないまま消えてしまう焦燥感がある、と。
 だから、「ざわめきとして届け」であって「無数の声に紛れよ」なのだと、30代のスタートラインに立ったばかりの、かつて社会に適応出来ないのではないかとの焦りや不安に苛まれたことのある青年の二律背反、微妙な心境が伝わってきた。

山田航さん たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく

 「ペットボトルを補充」とは、コンビニでの労働を暗喩。学生の時に先生から言われた「君たちの時代は親の収入は超せないだろう」という言葉が妙に記憶に残っていると言う。
 まさに私がその「親の世代」。昭和と平成では、何が違っているのだろう。
北海道新聞札幌圏に連載の山田さんのコラム「札幌モノローグ紀行」。豊羽鉱山が2006年閉山後の今もなお排水処理が続けられていると紹介する文章に、こんな短歌が添えられている。

 誰からもパスを回されないままに僕ら昭和のロスタイムを生きる

 熱狂渦巻くゲームはもう実質終わっている。ボールが回ってくることもなく、力を発揮する機会も無いだろう、たぶん。ゲームを実感した世代とそれを知らない名残の世代。
 「昭和のロスタイム」という言葉から、祭りの後のけだるさや諦め、かすかな希望、いろいろなものがないまぜになった空気が立ち上ってくる。

 歌集「さよならバグ・チルドレン」の頁の最初の献辞には、「スタートラインに立てないすべての人たちのために」という言葉。

 走らうとすれば地球が回りだしスタートラインが逃げてゆくんだ

 その切なさを共有する同世代の「僕ら」「僕たち」と連帯していきたいと山田さんは言う。
 タイトルの「バグ・チルドレン」の「バグ」とは、元々は「虫」という意味だが、コンピュータのプログラムにおける「誤り」の箇所のこと。チルドレンを付けたのは山田さんの造語で、「社会に適応できず、傷つきやすく内向的な、大人になりきれない人たち」を表しているそうだ。
 そして、自分自身もまさにその中のひとりだとエピソードを訥々と語り始める。話すのが苦手だった青年期、大学卒業後に文章力を生かそうと新聞社に就職し金融担当記者になったが、記者の仕事には取材が付きものだ。人に会い、質問をして、相手の話したことをわかりやすくまとめるということがとても辛かったそう。
 「取材していても、相手の言った言葉からどんどんイメージが広がってしまい、次にどういう言葉を繋いでいったらいいか、すごい間(ま)ができちゃうんですよね。相手を怒らせたことも少なくない」と。それで、十二指腸潰瘍。
 言葉で「社会への適用」が難しかった山田さんが、今、言葉ですっくと立っている。
 言葉は不思議だ。
 思っていることを瞬発力で話せるタイプの人もいれば、頭の中の概念を時間をかけて練り上げ言葉にしていくのが得意な人もいる。
 人には特性あり。そのそれぞれの強みを見つけ出せれば「バグ」は誤作動ではなく、そのプログラムにとってのスペシャルになっていく。

 山田さんが質問に答える時の話し方は、言葉が出てくるまで不思議な間(ま)=タイムラグが生じる。例えば、頭の中に蝶のように自由に飛びかっている「概念」を、まるで虫取り網で慎重に捕らえているかのような言葉の繋ぎ方。でも、確実に他の人ではちょっと探せないような蝶を見せてくれるに違いないと楽しみに待てるのが、また不思議。
 その言葉の昆虫採集とも言うべく短歌の醍醐味のひとつは「言葉には属性があるということ」と話す。何か比喩的な意味や象徴の含有。例えば「みかん」と言えば、辞書にはない「冬」「こたつ」といったイメージまでもが付随してきて、そのすべての意味をかたまりとして捉える面白さがある、と。言葉から世界を想像させるための組み合わせ。その絶妙を味わう31音の限られた世界。

 「あんなに苦しかった言葉だけど、自分が他人と関わりを持つ手段は言葉しかない。まるで毒が薬になったよう。敵が味方になったようなものです」と言う山田さんは、日本の文化である短歌というフィールドでスタートを切り、どんなに時間を費やしても飽きることがないという「言葉の森」を征く。

 毒の中に薬あり、敵の中に味方あり。
 自分の「強み」を見つけて自分を生きるには、「痛み」を避けて通ることはできないのだろうと改めて思う。
 そこが昭和のフィールドであろうと、平成のフィールドであろうとも、だ。

(インタビュー後記 村井裕子)

※山田航歌集「さよならバグ・チルドレン」(ふらんす堂)

HBC TOPRadio TOP▲UP