8月18日放送

 このインタビュー後記で、何度か宮沢賢治のことを書いている。
 伝えていきたいひとつには、「地球とそこに生きるすべての命はつながっている」という賢治が追求した「宇宙観」。水や光や風ぜんたい、そして人もあらゆる生きものもすべてがひとつながりであり、例えばどこかで何かのバランスが崩れてしまうと、あらゆる命が影響を受けてしまう。科学が進歩しても人はけっして驕り高ぶってはいけないという、今の時代にこそ噛みしめたいメッセージに溢れているからだ。
 たとえこの先何十万年が経ったとしても忘れてはいけない「人として大切なこと」は、多くの先人たちの言葉によって残されている。
 賢治と同様に岩手県出身の石川啄木。北海道にもゆかりの深い歌人であるこの啄木にも、自然や環境に対して「人として」忘れてはならないものは何かという気骨に溢れた文章がある。百年余りも前に盛岡中学の校友会雑誌に発表した「林中の譚(りんちゅうのたん)」。私もつい最近知って驚いたのだが、テーマが全く古びていない。
 自然の森に入って行って傍若無人に振舞う人間と、そこを住処とする崇高な猿との対話により、物質社会によって退化してしまった人間の驕りや愚かさが浮き彫りになっていく寓話だ。
 「猿の曰く・・・汝等は常に森林を倒し、山を削り、河を埋めて、汝等の平坦なる道路を作らむとす。然れども其の道は真と美の境-乃ち汝等の所謂天に達するの道にあらずして、地獄の門に至るの道なるを知らざるか。・・」
 地球をこれ以上破壊してどこへ向かおうとしているのかと祖先である猿に説教される人間。百年も前の若き啄木のその先見性に感動するとともに、そんな発想を育んだ岩手という風土についても再認識させられる思いがした。

福井大祐さん そんなことを考えている折に「ほっかいどう元気びと」でインタビューさせていただいたのが、日本野生動物医学会認定専門医の獣医師である福井大祐さん。
 13年間勤務した旭川市旭山動物園を去年退職し、「人と野生動物との共存」を目指して「NPO法人 エンヴィジョン環境保全事務所」にこの春就職。野生動物の保全のための調査研究員としての新たな活動をスタートさせたというその思いを聴かせていただいた。
 人が健康に楽しく生きるための生産活動により環境が壊れ、自然界の生きもののバランスが崩れてしまっている現状に対して、その原因を作った人間には「ちょっとした工夫と配慮をした生き方」が必要になってくると福井さんは言う。そのために、起こっている事実を知るための調査研究が欠かせない。対策のために必要な科学的な根拠を積み重ねるその役割を今後果たしていきたいという熱い思いを語ってくれた。
福井大祐さん 人への警戒が薄れ里に降りてくる熊や、狼の絶滅により増えすぎた鹿とどう共存するか。そもそもかつては野生動物がいたところに人が住まわせてもらっているという過程をどう踏まえ、どう対策をとっていくか。発展と保全が綱引きする簡単ではない問題。目先ではなく、10年後20年後、その先の地球のビジョンをイメージする壮大で地道な取り組みには、私たちの気づきや関心もより欠かせないものになってくるだろう。
 その「共生」への取り組みを聴いていて改めて感じたのが「人間も自然の一部である」ということ。人が今を健康に生きるためにいただく大事な「食」、その日々の食卓に上がる野菜や魚は、全て「自然の恵み」であり、森や海、空気と水、そういった「自然環境の繋がりと、生態系が元気であること」が欠かせない。人が生み出した環境はまた人に戻ってくるという「循環」の大切さを忘れてはいけないという思いが、福井さんの活動の源なのだということが伝わってきた。

 インタビュー収録後にさらに紐解かれたキーワード。福井さんは自分の役割についてこんなふうに語る。
 「旭山動物園時代には、動物を正しく知ってもらうために『伝える』という大切さを重視していた。さらにこれからは、事実を知るための調査や研究を続けていき、それから先、根拠を持って再び伝えていける自分でありたいと思っている」と。
 そして、人は伝え方によって行動が変わる生きものということも気づいてきたので、「人にどんな伝え方をしたら、地球環境のためによりよく行動出来るのか」という、その方法もテーマにしていきたいと言う。
 「ニンゲン」の生態を掴んで、より良く動かしていくのが一番難しいかもしれませんね、とそのユニーク且つ欠かせないテーマに笑い合ったが、実はそこがとても大切なのかもしれない。「○○してくれ」と命令しても行動に繋がりにくい「頑固が特性」の人間には、「根拠」を示し、「納得」を引き出す伝え方が、なるほど必要だ。

 前述の石川啄木の「林中の譚」は、旧仮名遣いの難しい言い回しのために現代の私たちには届きにくい文章なのだが、「サルと人と森」というタイトルの子供にも分かるような現代語訳の絵本になって、近年発行されている。
 サルは言う。
 「世界中の森がおれたちの『我が家』なのだ。人間は断りもなく我が家に入って来ていながら、どうしてごあいさつをしないのだ。それが礼儀正しい人間のすることなのだろうか」
 百年も前に、「人間がいちばん賢いと思い上がっていると、これからの人間には進歩も、幸せもないだろう」とサルに言わせた啄木。百年経った今の日本を見て、何を思うのだろうか。

(インタビュー後記 村井裕子)

※参考資料 「サルと人と森」 著:石川啄木 訳:山本玲子 発行:NPO法人森びとプロジェクト委員会

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