7月14日放送

田澤由利さん この人は、働きたくても「働けなかった」時期を経験したことで、どこにいても「働ける」新しい仕組みづくりに取り組んだ。そして、今沢山の「働きたい」人たちを巻き込んで生き生きと自分の仕事を全うしている。
 北見で「ワイズスタッフ」と「テレワークマネジメント」を設立し、ITという道具の活用で「在宅勤務」の拡大を目指す田澤由利さん。3人の娘を持つ50歳のワーキング・ウーマンだ。
 最近よく耳にするようになった「テレワーク」とは、情報通信技術を使った時間や場所に縛られない働き方。2011年の東日本大震災の折にも非常時の事業継続の観点から注目され、これからの定着が課題になっている未来型の仕事スタイルだ。
 田澤さんは、北見を拠点に、現在全国の契約スタッフ160人を社員12人でサポートし、IT関連業務にチームで取り組む「テレワーク」の実践に尽力するとともに、企業の社員も会社を辞めずに働き続ける仕組みづくりを支援する「テレワーク」普及にも力を注いでいる。
 そのシステムが定着することのメリットは、子育てや介護などをしていても仕事を失わずに済むという働く個人の仕事のしやすさは勿論、設備投資や光熱費などを減らせる企業側の利点、そして、「いい仕事は都会へ」という従来の常識が変化して、地方に居ながら意中の仕事ができるという北海道などにとっては大変魅力的な要素に溢れている。

田澤由利さん 田澤さん、20代の頃に出産や夫の転勤で会社を辞めざるを得なかった経験が、その活動のスイッチを入れたのだそうだ。もし、会社が当時遠隔地や在宅で勤務ができる体制であったら私は会社を辞めていなかった、と。時代はそこまで熟していなかったということだろう。夫の仕事で北見に転勤してきたことが田沢さん独自の働き方を模索させ、全国のテレワーカー達に大きな影響力を与える仕組み作りに繋がったというのだから、人はどこでどういう展開になっていくのか、わからない。だからからこそ面白い。
 3人の子育てもしながら、エネルギッシュに自分の道を進んでいく田澤さんに、「目の前に壁が立ちはだかった時に、どういう発想で乗り越えたのか」を訊いてみると、こんなふうにイキイキと話してくれた。
 「『壁』が目の前にあったら、それを嘆くのではなく、どこか通れる穴は無いかとか、例えばどこかのレンガを外してそこから少しずつ広げていく方法は無いかを探します」
 その時に重要なのは「道具探し」。田澤さんにとっての強みであったパソコンやインターネットというITという道具をフルに活用して、その「壁」の向こうに出ることが出来たという。コツといえば、少し距離をおいて「壁」や自分を見てみるということ。客観視が出来れば、方法が見つかりやすいのだろう。
 「その壁自体をも楽しむという発想もありますよね」と問いかけると、楽しそうに「いいですね!困難と思える『壁』にペインティングしたりして楽しんじゃうという気持ちも大事」と話す。

 「涙と共にパンを食べたものでなければ、人生の味はわからない」とゲーテは言ったそうだが、こと「仕事」に関しては少なからず皆そのような辛い涙を流しながら生きているに違いない。悔しさだったり、理不尽さだったり、憤りだったり、切なさだったり。
 私も社員からフリーランスへと舵を切ろうと決めた40歳直前、自分の足で立つゼロからの仕事をどう構築していこうか、「壁」を目の前に悶々とした日々があった。
 今回、田澤さんと話していて「私はその時にどんな道具を手にしたのか」を振り返ってみたのだが、何かに突き動かされるように想いを文章に書き、本を読み、本を書き、気づき、また心の底にあるものを突き止めるために書くという、「表現力」を研ぎ澄ますことに躍起になっていたことを思い出した。
 その「書く」という作業の末に、一枚一枚薄紙を剥がすように浮き彫りになったのは、表現者として「私は何を伝えたいか」ということ。
 「言葉で発信し続けたい、声で表現する仕事を全うしたい」という思いを下支えするように、それらが熱を持ってその後の仕事、人生の後半の役割を担っていく強い原動力になった。
 「何か乗り越えなければならない立ちはだかるもの」の前で右往左往することで、それに挑む前とは比べものにならない位、自分の中の「核」のようなものが明確になるのかもしれない。

 「『壁』を乗り越えようとして、必死で叩いたりしているうちにゲンコツに血がにじんだり、痛みでヒリヒリすることもありましたよねえ」と、お互いに少ない言葉でもその切ない思いまでもが共感出来、「働きたい」という強い想いを持ち続けた同志、無言のエール交換をしたような思いで田澤さんを見送った。

 人は今以上に何かを成し遂げるためには、今いる場所から、どこか違う場所へ向かわなくてはならない。立ちはだかる「壁」は、そのお試し。何とかその先へ行こうと知恵を絞って自身の道具を磨くことは、自分のためであり、ひいては誰かのためにもなっていく。

(インタビュー後記 村井裕子)

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