6月30日放送

 私が局アナという職種を離れてフリーランスとなり、「スピーチ力」や「コミュニケーション力」といった人の中の力を開花させるための講座に取り組み、来年で10年になる。
 新たな取り組みに模索を続け、足りないものは学び直しながら講座を組み立てる中で気がついた大きなことがある。
 それは、「思いを伝える力を付ける努力をすることは、人としての土台を作ること」。
 自分と向き合い思いを言語化するということは、人間力を磨くことに繋がるのだという、多くの受講生たちと関わった体験からの確信だ。
 例えば、「あなたが大切にしてきたことは何ですか?」や「あなたの意識や行動が変わった『言葉』は何ですか?」といったスピーチテーマで話をして貰う試みをすると、最初は「自分には話すことは無い」と苦手意識を思っていた人たちですら、丁寧に自分と向き合い、思いをキーワードにし、筋道を立て、わかって貰えるように話す意識で取り組み続けると、ある時点からほんとうに驚くほどオリジナルの表現が溢れ出す。その変化に感動すら覚えるほどだ。
 「話すことが無い」のではなく、「それを考えることをしていなかった」だけ。
 「だとすれば、その方法を的確に身につけるために自分に『問いかける』コツを掴み、そこから『考える』という習慣を自分のものにしていけば、伝えたいことが分かってくる」と、私は何度も伝える。
 「無いのではなく、考えていないから何もない」のであれば、「自分の中にすでにあるものを引き出すコツを掴む」だけなのだと。そうして、私はひとりひとりの中にある力を信じて、働きかけ、質問し、ともにヒントを考えてゆっくり待つ。
 スピーチはただペラペラと言葉が出てくることがゴールではない。意味のない言葉がただ連なるだけだとそれは言葉という記号の垂れ流しだ。
 「自分はどうしたいのか、どうなっていきたいのか」ときちんと向き合って、思いの底から伝えたいことを明確にし、さらに相手の思いも汲みながら受け渡すことが出来ることがゴール。さらに、その少し「面倒な」取り組みの過程を経て「人としての軸が作られていく」ということが真に辿り着きたい到達点だ。

遠藤あんなさん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、「第6回全国高校英語スピーチコンテスト」で堂々の2位入賞を果たした札幌旭丘高校3年の遠藤あんなさん。英語と日本語との違いはあるが、スピーチへの取り組みで自分がどう変わっていったのかを聴かせて貰うのを楽しみに迎えた。
 スピーチの面白さを知ったのは中学3年の時。環境問題活動家のセヴァン・カリス・スズキが1992年に12歳で行った「リオの伝説のスピーチ」を英語暗誦大会で題材にし、全道優勝を果たしたことがきっかけだったという。
 スタジオに入ってきた彼女は体育の授業を終えてきたとのことで桜色のぴちぴちの頬。人懐っこい笑顔で明快に話してくれた答えはこうだった。
 「スピーチに取り組んだことで、日常生活で疑問に思うことや伝えたいことはいつでもどこでも見つかるということがわかった。何も考えずに生きていくのはすごく簡単。スピーチの題材を考えたいと思うと、それまで考えていなかったことがいろいろ思い浮かんだりするのでそれがすごくいい」
遠藤あんなさん スピーチ全国2位になったテーマは「ハーフからダブルへ」。日本人の父親とブラジル人の母親の元に生まれた自身の存在をみつめ、「ハーフ=半分」ではなく「ダブル=2倍」という捉え方をしていきたいという主張を元に、異文化理解には「視点」の多さが大切、それぞれ文化も習慣も違う国の立場を考えていく時に、2つの国を持ちダブルの視点をもつ自分たちが世界の中で役割を果たしていくことが大事だと思っていると、熱のこもった話し方で伝えてくれた。(さらには「デュアル=2つ」という表現の方がふさわしいとも大会を通して学んだそう)  何度も出てくるのは「視点」という言葉だ。ひとつの見方だと思い込みがある。違った視点を取り入れ、自分で考え、判断することが相互理解に繋がるという気づきがスピーチに取り組む中で浮き彫りになったのだということが真っ直ぐに伝わってくる。
 疑問を疑問のまま流してしまわずに自分の頭で「考える」こと。頭の中の「?=はてな」は自分自身を育てる絶好のトレーニングだ。あんなさんと話していて、早いうちからのそういう取り組みこそが視点を増やし、年齢問わず多くの人とブレーンストーミング出来る能力を育てるのかと、私にとってもいろいろな再確認ができる意義深いひとときだった。

 収録後、お見送りの道のりの短い時間にあんなさんからこんな問いかけがあった。
 「『ほっかいどう元気びと』ってどういう意味ですか?」
 疑問を疑問にしてはおけないらしい。私は答える。
 「各地でいろいろな活動をする人たちにその取り組み方を話していただいて、ラジオを聴いている方々に何かのヒントを感じてもらいたい、元気になってもらいたいという意味が込められている」と。
 彼女は目をキラキラさせてこう言う。
 「村井さんはこのお仕事、楽しんでますよね!いろんな人の視点にたくさん触れられるからほんと面白そう!」
 私は彼女のフィードバックを耳にして、とっても嬉しい気持ちになった。大人が若い人に「楽しんで仕事をしている姿を見せてあげられる」ということの意味は、それはそれはとても大きいと思うからだ。
 将来は「発信をする仕事」をしてみたいという17歳のあんなさん。
 発信者としての使命感と醍醐味をぜひその好奇心いっぱいの心で存分に感じてもらいたいと、私も細胞の中の空気が入れ替わったような爽快感でそう思った。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP