5月12日放送

吉田ひでおさん 人には「天性」というものがある。生まれつきの才能、性質。「天資」とも言う。
 今回の「ほっかいどう元気びと」吉田ひでおさんと話し終わって、そんな言葉が頭に浮かんだ。
 吉田さんは、舞台や映画の特殊メイクや、広告などの造形物を手がける札幌のクリエーター。関係者が小道具大道具などで困った時には「吉田さんにまずは相談」と声を掛けるという北海道の美術分野の頼れる存在。しかし本人は、「私は作家でも芸術家でもアーティストでもなく、ただの『造形屋』または『つくりものや』。自分の頭の中に創りたいものは何もない。ただただ、依頼してくれた人が喜んでくれたりあっと驚いてくれたりするのが楽しくて、あっという間に25年が経ってしまいました」と飄々としている。なんでも、早くに亡くなったお兄さんが才能溢れるミュージシャンだったそうで、「アーティスト」というのは兄のような人を表現するもので僕は全然違うとニコニコしながら言葉を続ける。

吉田ひでおさん 吉田さんの仕事は予め決められてある紙の上のデザインを立体的に作り出すこと。私たちも目にしている夕張のキャラクター「メロン熊」やJR北海道の特急旭山動物園号の「ハグハグチェア」、大泉洋さんらチームナックスが活躍してきたドラマや舞台のメイクも吉田さんの手によるものだそうだ。依頼され、作り、喜ばれ、依頼され、作り、驚かれ、そうしてまた依頼されて手を動かす「つくりものや」さんの日々。
 「アーティスト」ではない吉田さんは、過去に作ったのもすぐに忘れるし将来の夢として「こういうものを作りたい」という、いわゆるビジョンも無いと言う。
 「だって僕は芸術家じゃないし、頭の中にそんな構想もないし。この前小学生の時の工作が出てきて、見たら今と何にも変わってないんですよ。これって、恥ずかしいですよね。全然進歩無いんだよなあ」とまたまたにっこり笑う。小学生のような満面の笑顔で。

 「あなたの宝もの」は何ですか?
 収録後、コメント紹介の恒例の問いかけに、吉田さんは「右手かな、多分」と答える。
 「僕は、運動が全く駄目。球技なんか全然駄目。でも、工作が出来るんですよね」
 そして、興味深いキーワードを喩えに出す。
 「パソコン用語で『パラメーター』ってあるでしょ?なんか、あのような感じのような気がするんですよね」
 「えっと、その『パラメーター』って何?どういうイメージですか?」と、グイッと迫って聞くと、「いやいや、僕もよくわからないけど、人それぞれの分配という感じかな。詳しくないのにちょっとカッコつけて適当なこと言っちゃいました」とまたニコリ。
 人それぞれに「分配」されているもの・・ふむふむと思いながら、後で調べてみると、一言での表現は難しそうだが、「ソフトウェアを実行したりプログラム内で関数を呼び出したりするときに、 その動作を指定するために外部から与える設定値」という説明が出てきた。もっとかみ砕いた言い方では「ある動作を制御する為に与える情報」とも。
 人それぞれに分配されている「設定」・・・。だから吉田さんは「つくりものや」で、その道具として「右手」がある。野球のできる「設定」には元々なっていないのだ。

 設定=天性、天資と考えると、人はそれぞれ何らかの役割を課せられて生まれてきている。そのスイッチをONにすることでその人らしい働きが発揮される。
 よく、「自分には何の才能も無い。芸術家でも音楽家でもアスリートでもない。大きな仕事を成し遂げる名士でもない。そういう人たちとは違うし」という言葉を聞くことがある。ひとりひとりが自分の「設定」を意味のあるものとして生きる為にどう考えればいいのだろう。以前にも引用したことがある精神科医ビクトール・フランクルが興味深い言葉を残している。
 一人の青年が、生きる意味を説くフランクルにこう異議を唱えたという。
 「あなたは相談所を創設されたし、人を手助けしたり、立ち直らせたりしている。でも私はといえば・・職業は一介の洋服屋の店員ですよ。私はどうすれば人生を意味のあるものにできるんですか」
 フランクルが答えた言葉はこうだ。
 「なにをして暮らしているか、どんな職業についているかは結局どうでもよいことで、むしろ重要なことは、自分の持ち場、自分の活動範囲においてどれほど最善を尽くしているかだけだということです」
 大切なのは活動範囲の大きさではなく、その活動範囲において最善を尽くしているか、生活がどれだけ「まっとうされて」いるかだけだとフランクルは断言するのだ。
 そうして、ひとりひとりの人間が「かけがえなく代理不可能」で、「各人の人生が与えた仕事」は、その人だけが果たすべきものであり、その人だけに求められていると説く。(「それでも人生にイエスと言う」V・E・フランクル 山田邦男/松田美佳訳 春秋社)
 生活がどれだけ「まっとう」されているか。
 自分の「設定」をどう生かし、どうスイッチを入れていくか。それによって「なんでもない」日々は意味のあるものになっていく。

 右手という道具をフルに使って「つくりものや」をまっとうしている吉田さん。最後にこんなことを言っていた。
 「依頼された期限に間に合わせようと、追い込まれた時の集中力はそれはそれは凄いものがありますよ」
 最善を尽くすその瞬間、右手から何か凄まじいものが出ているのだろう。
 「ギリギリで焦らないようにもっと早めに取りかかれ・・って話なんですけどね」と、ニンマリ笑うところが、吉田さんらしいところ。

(インタビュー後記 村井裕子)

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