5月5日放送

 「あなたの宝ものは何ですか?」
 「ほっかいどう元気びと」恒例の問いかけ。「宝もの」はその人の価値観を知ることの出来るスペシャルワードだ。
 私だったら何だろう?たくさんあってひとつに絞るのは難しいが、自分で自分に問いかけてみると「共感しあえること」というキーワードが浮かんできた。
 生きていて「共に感じる」ことが出来る人に出会っていくことは、この上ない幸せだ。
 「これって大事ですよね」「人としてやっぱりそれは素敵だよね」という、生きる上での自分の軸を支える、他者の心と手を結べたような実感。時が熟してそのような人と出会えたり、感受性を射貫かれるような文章表現に遭遇したりすると、心が震え、目に見えない「琴線メーター」がぐんぐん上昇する。
 これは私の頭の中のイメージだが、人の人生は果てしない螺鈿階段を登って行くようなものだと思っている。ひとつひとつを学び、気づくことでようやく上がって行けるが、油断をしているとズルズルと降りていってしまう。学び、よく見、人の話を聴き、困難を乗り越える知恵を得、気づき、そうして上がっていった心の階段に応じて見える景色があり、出会える人があるのでは、と。
 登るから見える。登るから会える。そうやって登った心の高さの受容器で深い共感も引き寄せることが出来る。だから登り続けることが大事。だけど、油断していると・・ズルズルと下がる。
 人の成長には、そこを踏みとどまって尚前に進む一生懸命さが欠かせないのではないか。

田中宏明さん 「ほっかいどう元気びと」、今回のゲストは、漫画「義男の空」を北海道からの心意気で発信し続けている田中宏明さん。
 実在の小児脳神経外科医である高橋義男医師を主人公に難病の子供を持つ家族との繋がりを描いて共感の輪を広げ、この春7巻目が出されたばかりだ。  私はこの物語の核となっている高橋義男医師にも、困難を乗り越えようとする家族にも、そして、実際にお会いして話した作者の田中さんにも、その一歩一歩踏みしめる螺旋階段が見えるような気がした。
 田中さんは、漫画家を目指していたが幾つかの挫折を経験し、お子さんの脳の難病を通して高橋義男医師と出会ったことで、「この人を描きたい、皆に知らせたい」という強い思いに動かされて漫画を創り出す会社を立ち上げたという。地方から漫画を出版するというのは大変なこと。個人の漫画家ではなくチームでその心を伝える形を作って行こうと、気概を持ってドキュメンタリーともいうべき物語を世に送り出してきた。
田中宏明さん その根底にあるのは、田中さんが数々の経験を通して感じてきた「こういう世の中であって欲しい」という願いだそうだ。
 私自身がこの本から受け取った感動を、「子どもの未来を何よりも大切にし、可能性を信じる力、諦めない力、人が繋がることで湧いてくる力を大切にする心を感じた」と伝えると、まさにそういうことを伝えたいのだと大きく頷く。テーブルを挟んで向き合うその間の空気が、一瞬、同じ波長でブルッと震えた気がした。互いの受容器が反応するような、心の中の見えない手で握手がかわされたような、宝ものを貰ったような瞬間。

 「たいせつなこと」、皆がそれを求めて「螺旋階段」を登って行く。
 中には、共感を伝えるために自分が発信者になっていく人もいる。田中さんは、高橋医師の進める障がい者と健常者を繋ぐ活動を手伝うことで彼を支えようとしていたそうだが、自分には漫画を描くという手段があると気づき、広く伝えていきたいとの思いで発信者の側に回った。この「義男の空」を読んで、高橋先生のような医師を目指す子供たちが現れてほしいと話す。命の可能性を信じ、心はいつもポジティブに、決して諦めず、病と闘う子供たちや家族に寄り添うような医師が、共感した子供たちからどんどん出てきてほしいと。だから、巻を重ねるごとに大変にはなるが、この先も頑張って続けていきたい、と。

 発信する仕事とはそういう使命を帯びている。
 絵が描ける人は漫画で、音符が体の中にある人は音楽で、私も微力ながら声と言葉で放送という媒体を使って。
 その心の底にあるものは「共感」の種を巻き、ひとりひとりもっと「繋がっていきたい」という思いだ。繋がったその先にあるものは、心の手が繋がれているという安心感と、今日より明日は素晴らしいという希望あふれる未来。
 「義男先生」がいつも口癖のように言っている「これから生きていく子供たちの未来」。

 私は今回のインタビューをきっかけに「義男の空」を7巻まで一気に読ませていただいたが、自分の「螺旋階段」を登って行くたくさんのヒントをもらったような気がしている。
 特に、一巻の最後に掲載されていた高橋義男医師と田中さんの対談のこんな表現。
 高橋医師「同じように生きている人間、同じ価値観を持っている人間がそれぞればらばらでいる必要はないんじゃないか、そういう人間たちがクロスオーバーしていくことが大事なんだなって思ってます・・(中略)・・同じ受容器を持っているのに気づかないで待っている人がたくさんいるから、その人たちにつないでいくこと、連結させていくことが大事だと思うな」

 同じだ。私がこの番組「ほっかいどう元気びと」で込めていた想いと。
 「共感しあえること」という宝ものに出会っていく幸せ。目には見えない握手を心で出来る人と出会っていく幸せ。
 この番組からもそんなクロスオーバーを届けていきたいと、改めて思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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