3月3日放送

 人はエネルギーを出し合い、影響しあって生きている。
 よこしまで不快なものを出せば、相手が保っているバランスも崩れて似たような不快なものが出てくるだろうし、明るく真っ直ぐなエネルギーは、人の中からまだ見ぬプラスの可能性も引き出すだろう。
 自分の中から心地よいエネルギーが出ているか。そのプラスのエネルギーは触れ合う誰かの力になれているか。巡り巡って自分も誰かのポジティブさに支えられる循環があるとしたら、たえずその起点のところにいられる自分でありたいと思っている。

小宮山瞳さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、家畜人工授精師として別海町で活躍する小宮山瞳さん。神奈川県出身で酪農の仕事に憧れ帯広畜産大学に学び、牧場で出会った女性家畜人工授精師の仕事ぶりに惚れてこの道を目指したという30歳の若き女性だ。
 各農家を回って人工授精で牛を妊娠させるというこの仕事は圧倒的に男性が多い。20歳そこそこでこの業界に飛び込んだ当時、周りとしては「なんとも可愛らしいお嬢さん」がやってきて、扱いに戸惑ったり遠慮をしたりということもあっただろう。当の小宮山さんは「女の子だから」と言われないように、あえていろんなことに平気を装い、力仕事も率先して取り組むなど、最初はかなり肩肘張って頑張っていたそう。
 「何か出来たことを『女性なのにすごいね』と言われるのも嫌だったし、出来なければ『やっぱり女だから』と言われるのも嫌で、はじめは結構力が入っていた」とか。どの仕事でも同じだなとかつてパンパンに張っていた自分の肩肘をさすりながら話を聞いていく。
 ただ、経験を重ねるうちに「女性男性にかかわらず、自分にしか出来ないことが必ずあるはず」と気づき、「任せるものは任せ、自分はこれだけは絶対に他の人には負けないというものを見つけていけばいい」と気持ちはずいぶん楽になってきたと話してくれた。
 気づいた役割は、専門職としての技術を磨くのは勿論、毎日大変な思いをしている酪農家の人たち、特にお母さんたちや奥さんたちのサポートをしていくこと、と。

小宮山瞳さん 「あなたの宝ものはなんですか?」で紐解いたエピソードに小宮山さんの素直さが表れていた。この仕事に就くきっかけを作ってくれた恩師との絆だ。
 帯広畜産大学に教えに来ていた牛の人工授精の技術者であり獣医の先生に、ある日わからなかったところを質問しに行くと、その先生は「そんなふうに思ってくれる学生さんは僕たちの宝です」と言葉を掛けてくれ、何かあったら連絡をくださいと名刺を渡してくれたという。小宮山さんにとってその言葉と名刺が宝ものになり、その後家畜人工授精師になる決意を固めて名刺の連絡先に電話。別海の農協との縁を繋げてくれたのだそうだ。

 一期一会の出会いを意味のあるものとして引き寄せ、掛けられた言葉を成長の糧にしていける人はどんどん伸びていく。現場で指導をしてくれた獣医さんから掛けられた印象深い言葉も教えてくれた。
 小宮山さんから聞き取った言葉なので言い回しは少し違っているかもしれないが、その先生曰く「仕事には4つの分かれ道がある。最初は、下手だけどその仕事が好き。そして、好きだから上達する。時間が経ってマンネリになってやる気を無くしていくと、嫌々取り組みながらも腕はいい。でも、そんな気持ちのまま向上心も無くなると、仕事は嫌い、腕も落ちていく。あなたは2番目の『好きで上達していく』のままでいなさい」と。

 人はエネルギーを出し合い、影響しあって生きている。
 小宮山さんは、きっとそんな出会った先生や職場の人たちから沢山エネルギーを貰い、それが原動力になって前に進めたのだろう。でも、きっと、「その思いが僕たちの宝だ」と言って名刺を渡してくれた先生も、「この仕事が好きの気持のまま、向上していって欲しい」と言ってくれた先生も、逆に彼女から前向きのエネルギーを貰ったのだろうと思う。
 エネルギーは循環する。だから面白い。

 インタビューが終わって、帰りがけに小宮山さんに訊いてみた。「今回こうやってインタビューを受けてみて、どうでしたか?」と。
 小宮山さんは顔を桜色に上気させてこんな感想を話してくれた。
 「ここのところほんとうに忙しくて、人が少ない中でこなさなくてはいけない仕事に追われていて毎日ピリピリ。インタビューでも文句を言っちゃうんじゃないかと思って来ましたが、いろいろ問いかけられて話をしてみたら、私はやっぱりこの仕事が好きなのだと気づきました!」
 エネルギーチャージしたかのように表情がキラキラしている。
 そうして、「日々の中で忘れていたけれどこんなに沢山の人に支えられていたのだということを思い出せて、明日からまた新鮮な気持ちで取り組めます」と小さな体にパワーを漲らせてエレベーターを降りて行った。

 目の前のことに一生懸命に取り組んでいると、何処を走っているのかわからなくなることもある。でも、誰かの一言で、誰かの問いかけで、手の中にすでにある宝ものや力に改めて気づくことがある。
 私の中にエネルギーがフツフツと湧いてくるのはこんな時だ。目の前の人が元気になり、頬を桜色にして「また明日頑張ろう」と思って貰えるその瞬間。自分がこの世に生きて、誰かに少しでもいい影響を与えたのだと思える役割感は何ものにも変え難い。
 共に「働く女性」として、これもやはり目には見えないエネルギーであるエールを送って見送った。 

(インタビュー後記 村井裕子)

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