2月24日放送

スタッフからのお花 「ほっかいどう元気びと」、おかげさまで今回が百人目のゲスト。
 様々な分野の方にお話を伺って丸2年。百の「人の力」にクローズアップして毎週発信し続けてこられたのは、聞いてくださる方がいて、一回一回気を緩めることなく取り組んできたスタッフがいての積み重ね。本当に感慨深いことだ。
 日曜日の収録だったが、HBCラジオスタッフからのお花も届けられ、いつも以上に華やいだ雰囲気の中でのインタビューだった。

遠藤悦史さん ゲストは、プロ囲碁棋士の遠藤悦史さん。
 プロとしての向上を更に目指しながらも故郷岩見沢に居を移し、囲碁の奥深さを皆に知って貰いたいと教室などで指導する日々を送っている。
 プロ囲碁棋士というのは、常に相手の手を読み、先を読み、相手に表れる表情や動作から心理を読み、自己の平静を保ちながら対局を続けるもの。
 向き合って言葉をやり取りするインタビューも一瞬一瞬の判断によって先行きが大きく変わってくる。囲碁のような勝負ではないが、対峙するという点では似たようなものがあるかもしれないと、収録後にそんな思いを伝えてみた。遠藤さんは興味深そうな表情をして、「言葉のやり取りも真剣勝負ですものね」と頷く。
 私が差し出す「言葉の碁石」に「待った」も「パス」も無く、答えという石を静かに置いていく遠藤さんに、「囲碁の対局のように、インタビュー中も淡々と言葉を繰り出していましたね」と印象を伝えると、こんな答えが返ってきた。
 「どんな質問がくるかはだいたい読んでいましたが、ひとつだけ、囲碁を継続してきたことで培った人生観は?という質問は予想外でした」
 ひたすらひとつのことを極めようと取り組んできたけれど言葉にしたことは無かった、と。そして、「言葉にするって面白いですね」と、ご自身が紐解いた表現を振り返っていた。

 思いを言葉にするのは面白い。けれど、難しい。表面ではいろいろ出てはくるが、ほんとうの言葉を自分の中から出すということは難しい。だから、「インタビュー」は真剣勝負の「対局」ではないかと私は思っている。技術は勿論だが、もっと大事なプラスα。例えば観察眼か。相手はどんな気持ちで話しているのか、もっと話したいのか、気持ちが乗っているのか、心は何処にあるのか、むしろ非言語が発しているものを見通す眼。そして、相手のどこか深いところにある「言葉の蛇口」が開くその瞬間を捉えることが出来るか。そこが、表面だけのインタビューになるのかもっと深いものになるのかの分かれ道。問いかけて、言葉を聴き、思いを察し、判断し、そういう間にも全体像を捉えていなくてはならない。となると、そんなやりとりを続けられる集中力、精神力も言わずもがな。そして最も大事なのは、質問する人の人生観。これ無くして人の人生観は引き出せない。
 私自身、そんな仕事と34年携わってきて、何度も何度も失敗し、次はもっと深いところまで到達できるだろうかと向かい続けて、ようやくほんの小さな灯りが見えて面白くなってきたところだ。

遠藤悦史さん プロ棋士遠藤悦史さんが言葉にした人生観はこうだ。
 「辛抱することが大事。特に、流れが良くない時にあがかないということ。囲碁と同じで、周り全体を見ながら、自分がどういう状況に置かれていて何を考えるべきなのかということを嫌がらずに一手一手読むということだ」と。
 うまくいかないことの方が圧倒的に多いという囲碁の勝負の世界。小学校5年生で上京して内弟子生活をスタートさせ、兄弟子に道徳を教わり、何故今頑張っているのかの目的を絶えず確認させられたという遠藤さん。周りは皆競争相手という緊張状態の中、失敗も乗り越えて18歳でプロとしてのスタートに立った、そういう辛抱の中で「うまくいかないときにこそどう精神力を保つか」ということを身につけたのだそうだ。

 「何が原動力に?」
 収録後も尚も問いと答えの「対局」を続ける中で、遠藤さんは「私は怖がりだから」と言葉を続けた。
 「怖がり?」
 「そう。怖がりだから、次こそ次こそと気持ちを切り替えて、やる気をじっと待ち、力を振り絞り向き合ってきた。その連続なんです」と。
 ふっと、私のなかの深いところで、なんとなく漠然としていた思いが、カチャリとあるべきところに収まった感じがした。
 そうなのだ。「怖がりだから」はその人の欠点ではなく、あるひとつの特性。それを補うために準備し、寝ても覚めても万全の体制を整えるために考え、ものごとに立ち向かう。そうして、「怖がり」の気持ちに負けないように、心を鍛え、困難をあえて選び、精神を強くしてなんとか自分を保つ。そういう日々が知らず知らずにその人を鍛え、いつしかその「弱み」はその人自身の「強み」になっている。
 遠藤さん、「超一流の人は皆、用心深い」ということも周りを見ていて実感したそうだ。自分の中の可能性を引き出し存分に力を発揮している人は、大胆に見えても陰では用心深く準備をしている。そんな超一流を目指したいものだ、と。全く同感。

 囲碁に由来する慣用句は数々ある。「布石を打つ」「先手を打つ」「一目置く」に「大局観」。
 遠藤さんが「奥深い」と評する囲碁の世界。触れてみると、自分を一生支える人生観がその奥に見つかるかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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