2月10日放送

松原仁さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、公立はこだて未来大学システム情報学部教授 松原仁さん。幼稚園の頃に観た「鉄腕アトム」に触発されて以来、「アトムを作りたい!」という夢を膨らませ、「ゆりかごから墓場まで、ひとりの人間に一台のロボットが一生付き合う未来」を目指して奮闘を続けている、人工知能研究の第一人者だ。

 これまでも、将棋棋士の羽生善治さんの協力による名人に勝つ為のコンピューターの研究や、自立型ロボットにサッカーをさせ、2050年には人間のサッカーワールドカップ優勝チームに勝つことを目標に改良を重ねる「ロボカップ」の運営を手がけるなど、自らの状況を判断して動く人工知能を「育てて」きた、平成の「お茶の水博士」だ。
さらに、それら人間の「理性」をロボットに学ばせる時代から、今度は人間の「感情や感性」までも担うことを目指して、星新一氏のショートショートを分析して創作させる試みもスタートさせているという。

松原仁さん 「理性と感情を備えたアトムのようなロボットを誕生させる研究は、今、山に例えると何合目まで来ていますか?」と訊いてみると、「二合目ぐらいまでやっと来たかな」という答え。はじめは異端の研究と言われ、ゲームなど何の意味があるのかと揶揄もされ、ロボットにサッカーなんて遊び半分ではと言われつつも、我々は真面目に考えているとわかってもらうためには何と言われても実績を出さなければと、ひとつひとつ「あまのじゃく力」を発揮しての歩みだったそうだ。
原動力は、「日本人は真似は得意だが、新しいものを生み出す創造性に欠けている」と、研究者の集まりで耳にした言葉。「いいや、創造性のある日本人は何人もいる。それを示すために何か目に見える形で実際に示さなくてはと思った」と。

 「人工知能」に関して、日々考えている人は私も含めてあまり多くないだろう。でも、こうやって「山を一歩一歩登るような取り組みをしている人たちがいるのだ」ということを知ることはとても大切だ。その「山」の征服である人工知能の開発・発達は、人が担う生産を助けたり、その研究によって可能にした技術を他に応用出来たりという、あらゆるものの裾野が広がることは勿論だが、惹きつけられたのは「人工知能を研究することは、人間の心を解明していくこと」ということだった。
人間の感情はどういう仕組み?ひらめきはどこから来る?創造の源はどうなっている?
ロボットの研究は、そんな人の持つ深淵な力をも解き明かしていくことが出来るかもしれないということに、私の中の「なるほどメーター」がぐんと上がった。
例えば、小説の創作をロボットに担わせることが出来るかどうかの研究がまさにそれ。
星新一氏が生み出した1000もの作品から、使われている単語や文章の長さ、プロットの構造、共通する特徴などを解析し人工知能に新たに創作させるという全く未知数の研究らしいが、人間の「感情や感性」、さらに「ひらめき」の解明への糸口を期待しているという。「人工知能の研究そのものはほとんどがうまくいかないことばかり。それでも試行錯誤をしながら何らかの仕組みが発見出来れば」と、本当に楽しそうに松原さんは話す。

 想像してみた。人工知能が暮らしをサポートしてくれる未来を。
20XX年のある日、私の傍らには一台の「執事ロボット」。
その人工知能には、私の生い立ちから、性格、学び、読んだ本、観た映画、訪れた場所、価値観、周りの人たちの影響などがすべてインプットされ、思考もすっかり解析済みだ。
そうして、「彼女」は、『村井裕子のインタビュー後記』をさくさくと書いている。「元気びと」のゲストのプロフィールや話した内容、特徴的なキーワードはすでに打ち込まれていて、執事ロボットはものの数十秒で原稿を書き上げるのだ。ものの数十秒で。
人間の私が、寝ても覚めてもああだのこうだのと内容を練り、パソコンに向かっても尚ウンウン唸りながら文章をひねり出しているこの原稿を、ものの数十秒で・・・!
 きっと、私の意識や頭脳を集約した人工知能なわけだから、それ以上でもそれ以下でもないだろう。そこがオリジナルである良さだ。きっと、私が好んで使う「気概を持つ」だとか「背筋がきりりと伸びた」とか「凛として」などというワードもちょいちょい散りばめ、私らしい原稿を書いてくれるだろう。最も心を配る「大切なこと」の抽出も瞬時にやってくれる、忠実な私のロボット。その間、私はお茶でも飲んで優雅な一時を満喫しよう。

 だけど・・・う~ん。言葉にするのは難しいが、「その領域だけは渡せない」という何かもやっとしたものが残る。例えば、頭の中で突然ライトが点くような「ひらめき」や、様々な繋がりから引き寄せられる「気づき」。それを言葉にする面倒な手順。
 それらは、そう、「外部発注」して手渡しては駄目だ。自分の頭をギリギリと締め上げて思いや言葉を絞り出さなければ伝わるものも伝わらない。生身の私の奥深くで「考える」という作業によって初めて出てくる何か。それらを自力で生み出さなくては、と。

 幸か不幸か、同世代である松原さんは言っていた。
 「私たちが生きている間のアトム誕生は難しいでしょう。その後の人たちの成果へ繋いでいくそのための研究です」と。

 何ごとにも、その「時」はある。人工知能が人に寄り添う夢もまた。
 ロボットに負けないように、その時が来るまでに、「人間もほんとうの知性や心の可能性を伸ばしなさい」・・・目に見えない何かもっと大きな「知性」が、そう言っているような気がしてならない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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