12月9日放送

 私の仕事部屋の暦は、ここ数年「歳時記カレンダー」だ。
 遠くに離れた友が私の日々を気遣い、健やかでいられるようにと毎年送ってくれている。
 旧暦は勿論、二十四節気や七十二候、月の満ち欠けや潮の満ち引きなども一目で分かるので、自然のリズムに沿って体調を自己管理する大切な道しるべとなっている。
 何より、いろんなことを「すっ飛ばし」ながら日々の仕事を自転車を漕ぐようにこなしている身にとって、暦が教えてくれる「閉塞成冬(へいそくふゆとなる)」という季節感や、そろそろ迎える「冬至」は「一陽来復」という明るい意味もあるのだなと確認することは、「季節とともに豊かに暮らす」という心の砦をけっして忘れてはいませんよという最後の細い糸なのかもしれないと、日々焦り気味の頭で思っている。

 最後の砦。日本人としてのDNAがそうさせるのか、季節と共に生きることの尊さや古くから伝わる伝統行事が作ってきた精神性、そういったものを無くしてしまうと、全てものがバランスを崩してしまう・・・そんな危機感が埋め込まれているのかもしれない。

川渕幸江さん 「ほっかいどう元気びと」の今回のゲストは、北海道で唯一の水引の流派である「錦水流水引」の三代目宗家、川渕幸江さん。
 伊達市錦町で祖父が興し、母が繋いだ水引細工の伝統を受け継ぎ、新たな現代風のアレンジも加えながら継承している札幌の女性である。
 川渕さんが最も大事にしているのも、この「季節と日本人の関わり」。水引を結んでいく技術も勿論大事だけれど、水引を通して日本に昔から伝わる季節ごとの行事をもっと知ってほしいという熱い思いをお持ちだ。

川渕幸江さん 古いもの、伝統のもの。
 勿論、全てが良しというわけではないだろうが、それを「知らない」より「知っている」ほうが、人としての「引き出し」が増えて素敵だなと改めて思う。目に見えないものの豊かさが自分を一杯にするという快さか。
 例えば、水引の起源は飛鳥時代の遣隋使の頃、隋からの荷に紅白の麻紐が掛けられていたのが始まり。以来、宮中への献上品には紅白で結ぶ習慣となったとか。船旅の無事を祈って結んだ中国の心遣いに日本人が惹かれ、日本人の感性と技術で水引という文化が発展してきたという。
 この紐を紫や黄色に染めて、歌集の綴じ紐として使っていたのが平安時代。その美しさが鴨川を百花が水に引かれて流れていくようだったことから「水引」と呼ばれるようになったとのこと。
 起源である麻紐を、和紙や絹といった素材に変え、色を増やし、単に「結ぶ」のみならず鶴や亀などの細工にまで技巧を凝らしてきた日本人の「ものづくり」の粋には改めて驚かされる。

 そして、これは収録後に教えていただいたのだが、水引は古代中国の「陰陽説」とも関わりが深いという。どんどん面白くなって調べてみると、水引結びには「陰」と「陽」があって、向かって左側を「陽」として白や銀色などの淡い色を、右側を「陰」として赤、黒、黄、金色などの濃い色を配するとか。
 万物には全て「陰と陽」があり、それも知ると知らないではバランスを崩してしまう。その万物のバランスをも水引が表しているというのである。なんて深い世界。

 そういえば、「陰と陽」は現代社会のバランスにも大いに影響を与えている・・・という説を聞いたことがある。
 「経済発展や物質文明は『陽』。今はそれがあまりに強すぎてバランスを崩している。精神文化としての『陰』が現代は蔑ろにされてきて世の中が不安定になっている」と。
 「季節感を取り戻す」とか「古来の伝統から大事なことに気づく」とか、「命を育む意識を取り戻す」といったような、「陰」の「結び」をもっと繋いでいかなくてはという気づきが今やはり大切なのかもしれない。

 錦水流水引三代目が作る工芸細工は、すぐにでも生活に取り入れたくなる「おしゃれ」なセンスが光る。しかしその奥に、今だからこその大事なメッセージが込められているのだと合点がいった。

 一筋の水引にもあまたの意味合い。
 さらに、その縒られた根本まで手繰っていきたいと感じさせていただいた、たおやかな時間だった。

(インタビュー後記 村井裕子)

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