10月14日放送

 「ほっかいどう元気びと」で毎週インタビューをしていて、ふと、自分の中の面白い感覚に気がついた。
 いろいろな分野で活動している人の中には道外出身者が案外多いのだが、「どんな決心で北海道へ?」とか、「遠い北海道へ、よく思い切りましたね」と訊いている私自身の意識がすっかり「道民サイド」になっている。
 「誰も知らない人の所へたった1人でよくやって来ましたね」と感心して相槌を打っている時は紛れもなく「こっちサイド」の道産子100%の気分なのだが、一瞬我に返って気づき、自分に茶茶を入れる。「そんな私も、はるばる本州からやって来たんだった」と。
 何だろう、この感覚。
 ジャイアンツファンが、札幌ドームのファイターズファンに混じって野球観戦しているうちにすっかり同化し、連帯し、その魅力の虜になり、いつの間にか「我らがファイターズは」なんて言っているのと似ているのかもしれない。
 そう、北海道という大地は、誰でもふんわり包み込み、どんどん虜にし、身体ごと「我らが北海道」のエッセンスで満たしてくれる。
 だから、私自身-全国の放送局の中で一番先に合格した北海道放送に入社するため来道した-もそうだが、とてつもない決心をして「しょっぱい川」を渡ってきたというよりも、何か吸引力に引っ張られるようにあれよあれよと渡ってきて、すっかり水に馴染んだというのが皆似た感覚なのではないかと、私は思っている。 

荒井亜紀さん 今回のゲストは、大阪から獣医師になるため北海道の人となった荒井亜紀さん。現在、馬産地である日高の新冠町で、20年のキャリアの馬専門の獣医師として活躍する一方、日高の馬産業の活性化や、乗馬や観光という分野で馬と一般の人たちを繋げる活動を続けている。
 荒井さんの吸引力は、まさに馬だった。
 小さな頃から父親の影響で競争馬に興味があった荒井さん、幼いうちから乗馬も始め、一時は騎手も目指したというが、女性という性別の壁に阻まれ断念。高校3年で、「馬が好きなら獣医師という道もある」という友人の言葉に反応し、酪農学園大学獣医学科の二次募集を受験して合格。以来、北海道で愛する馬達に囲まれて「好きなこと」と仕事を一致させている。
 馬という動物は民話などにも数多く登場するように、その昔は人の生活のごくごく近くにいた。開拓当時から大切な家畜として、運搬用として。車社会になる前は物資を運ぶ重要な足だったこともあり、札幌でも昭和の風物詩として「馬糞風」なんていう春先の現象もあったくらいだ。私の郷里である岩手では、南部曲がり家という人と馬が共に暮らす風習もあったし、遠野市では馬をかたどった神体を祀る「おしらさま」信仰もあるほど大切にされてきた、ある種特別な生きものだ。

荒井亜紀さん 現在、乗馬を楽しんだり、競馬場やばんえい競馬に足を運んだりする習慣のない人達にとっては、「馬」という存在は遠いものとなってしまったが、荒井さんは、獣医師という仕事の傍ら、この馬の良さをもっと一般の人達に伝えたいと、人と馬の距離を縮める取り組みに尽力している。
 馬の美しさに惚れ込み、その芸術品のような馬の存在感を是非感じて欲しいという思いと、そんな崇高な生きものに触れることで現代人も心にゆとりという隙間を作って欲しいという思い。それがひとつひとつ形になって、獣医師荒井さんの新天地北海道での大きな役割になっているのだ。

 そんな観光企画のひとつである「北海道五十三次 馬で行く五泊四日 日高縦走湯めぐり回廊」は、日高の開拓当時の道である古道を馬で辿るというところが醍醐味だという。
 「その道は、(明治の初期に新冠を馬の生産、飼育の本拠地としてスタートさせた開拓史顧問の)エドゥイン・ダンも馬で通ったかもしれないんです」と話す荒井さんの声にぐんと力が入っていた。
 荒井さんには、開拓の跡地に廃墟として残っていた農家に新冠の新規就農者第1号として移り住み三度冬を過ごすという、道産子顔負けの経験もある。
 仮に、人の中の「北海道」度というものが測れるとしたら、ずば抜けて高いだろう。

 「札幌で見ているものが北海道のすべてではない」
 初めて来道した私が放送という仕事を始めた時に、何よりそれを忘れてはいけないと心に決めたことだ。マイクを通して何かを話す時、全道各地で聴いてくれている人たちは今何をしているか、畑ではどんな収穫時期なのか、海では何が捕れている真っ最中なのか、大平原で、島で、どんな生活が営まれているのか、それをいつも感じていようというささやかな「初心」。実際にあちこちに足を運んだ経験が、そのイメージを膨らませてくれた。
 今回の「優駿の里」新冠の話を聞いて思った。まだまだ北海道は広くて、奥深い。
 馬の背に乗って日高の古道を辿ることで、何が見えてくるのだろうか。どんな北海道を感じることが出来るだろうか。その懐に入ってみたら、大好きな「北海道」度がぐんと上がるような気がした。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP