8月12放送

 アラスカの野生の動植物や、そこに住む人々の魅力的な写真を発表し続けた、今は亡き星野道夫さん。随筆の中に書かれていたフレーズが、今も頭の隅に優しく残っている。
 星野さんは、写真家になる遙か以前、まだ中学生の頃に北海道のヒグマについて書かれた本を読み、以来、電車に乗っていても「今ごろは北海道のヒグマは何をしているのだろう」とまるで、恋人を想うように考えたという。そのヒグマに対する想いが、北方の自然に対する憧れを育て、ついにはアラスカに渡ることになる、と。
 都会の電車の中で「今ごろは北海道のヒグマは何をしているのだろう」と、思いを馳せる星野さん。街にいる人も野生の動物も自然も、地球上のすべての命が繋がっているという感受性を持ってファインダーを覗き続けた星野さんならではの、何とも魅力的な若き感性。
 その随筆を読んでからもう20年にもなるが、何故だか私にとって強烈なメッセージだったようで、札幌の賑やかなスクランブル交差点に立つ時など、ふと「今ごろは山のヒグマは何しているのかな」と、ふと、「星野さん風」に思ったりして心の中に自然の風を送っている。
 きっと、大切なことを、魂を込めて発信すると、こんな風に何年経っても人の心に刻まれるのだろうと思う。

寺沢孝毅さん 「ほっかいどう元気びと」に今回出ていただいた天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんの役割も、きっと、写真を通して「大切なことを忘れないでくださいね」を届けるメッセンジャー。天売島の海鳥は勿論、道内外、そしてロシア、アラスカ、北極圏など、地球のあらゆるところで起きている環境変化や生物の成育状況を捉えた写真を撮り続け、講演活動などを通してその実体や、自ら感じたことを伝えてきた人だ。
 子供の頃に魅せられた青い鳥との出会いから、小学校教員の赴任先を海鳥の楽園である天売島と決め、鳥の調査とともに続けた10年の教員生活を辞めて天売にとどまり、自然写真家としての活動を続けてきたという。

寺沢孝毅さん その、自然環境や生物の実体を「知らせなくては」という使命感の始まりは、天売島で最初に触れたオロロン鳥(ウミガラス)の現実。1年の間に、生息数が激減したことを目の当たりにし、「見てしまった事実。それは、見てしまった自分が多くの人達に伝えなくては」との思いに駆られるように写真やメッセージを発表してきたのだという。
 活動の難しさは、何と言っても「自然環境や野生生物と人との共存」と、寺沢さんは振り返る。絶滅の危機に瀕する海鳥は、生活をする人の視点から見ると、漁業を脅かす困った存在。ひとつの海で、魚を取り合う者同士がどう共存できるのか、よそから天売という漁村に住んだ寺沢さんにとって、どちらも「良し」とするためには何が必要なのだろうと悩み、それは永遠のテーマですと、その難しさを語ってくれた。

 写真家・寺沢さんの話は、まるで1枚1枚、カラー写真を見せられているよう。
 番組中、私がコメントで紹介する「あなたの宝ものはなんですか?」の問いかけに、こんな、生き生きとした表現をしてくれた。
 「宝ものは、自分をこの道に導いた青い鳥も宝ものだけど、そう、天売島で言うと、僕はケイマフリが一番好きなんですよ」と、やはり鳥とは切っても切れない寺沢さん。
 体が黒で、口の中と足が真っ赤な色をした海鳥「ケイマフリ」。
 「何がきれいって、4月から5月の求愛の時、水面に浮かんでお互いにその真っ赤な口を見せながらピピピピ鳴き合うその姿。これがどんどん盛り上がってきて、鳴き合いが高くなってくると、自分が近くにいてじっと見ているのがまずいような、照れくさいような気にもなる。その姿がほんときれいなんだよなあ」。

 このケイマフリは、生息分布も狭いため、地球上でケイマフリを見るなら天売島と言えるほど。オロロン鳥以上に絶滅が心配される貴重な鳥で、現在天売島には5百羽弱が住むという。
 「そのケイマフリが求愛をする湾の水の色もきれい。崖の草の緑、黒い岩、空の青、それらの色彩が皆、水面に絵の具のようにまじりあって、ケイマフリの黒と赤の美しさも引き立つ。やはり天売の環境の良さがあっての景色なんだなあ。そうか、僕の宝ものは、ケイマフリがいる天売島西側断崖の小さな湾・・・それが宝ものなんだろうなあ」
 寺沢さん、話しながら「宝もの」を再確認。
 写真家ならではの俯瞰の風景に、私の天売島への思いがどんどん募っていった。

 求愛の末生まれたケイマフリの雛たちは、8月はすでに巣立ちの季節を迎えて島を離れるという。天売島の宝ものに会えるのは、また来年春のお楽しみ。

 札幌の賑やかなスクランブル交差点に立つ私の頭に、これからはきっと、山の「ヒグマ」とともに、天売島の「ケイマフリ」も鮮やかに飛び交うだろう。
 「彼らは、今ごろは何をしているのかな」。
 どこにいても、人も自然も、すべての命もひとつながりということを忘れないように、ささやかに思い出したい大切なこと。

(インタビュー後記 村井裕子)

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