7月29日放送

 「棚から牡丹餅」を広辞苑で調べると、「思いがけない幸運が巡ってくることのたとえ」と出てくる。
 「タナボタ」とも使われるこの言葉の本来の意味は、それほど努力をせずとも突然ラッキーなことがやってくるというニュアンスが強い。

林克彦さん 今回のゲスト、「北海道ガーデンショー2012」の実行委員長である林克彦さんが説明する、オリジナルの「タナボタ理論」が面白かった。
 本来の意味とは違うのですがと前置きして、「棚から牡丹餅は、しょっちゅう落ちているんです。それが見える人と見えない人がいる。僕は、それを見逃さない生き方をしていきたい」。
 幸運なことというのは、すべての人の目に前に降っているのだ。見えているか見えていないかによって、人生はいいものにも、そうじゃないものにもなる。
 だから、「観察力」を磨いていきたい、と林さん。
 「あなたにとってのいい出会い、原動力は何か」といった質問の流れで出てきた、林さんならではの人生観だ。
 私のなかで即座に「セレンディピティ」というキーワードが思い浮かぶ。
 英語の辞書にも載っているこの言葉、「思いがけない発見をする才能、能力。運よく発見したもの。掘り出し物上手。偶然の発見」と訳されている。
 偶然の幸運を引き寄せる「力」だから、「努力せずとも」という本来の意味の「タナボタ」とは違う。でも、林さんオリジナルの「タナボタ理論」はまさしく「セレンディピティ」と同義語なのだと共感し、私の相槌の温度がぐんと上がった。

林克彦さん 林さんは36歳という若さだが、十勝の、そしてこれからの北海道の観光や産業はどうあるべきかの視点が未来まで続いている人だ。
 旭川から富良野、そして十勝を結ぶ全長200kmの「北海道ガーデン街道」を発案し、「連携」というキーワードで、旭川や富良野地区と十勝を繋ぐ広域観光の整備を進める中、北海道ならではの「庭園文化」を根付かせようと、今年初めての「北海道ガーデンショー2012」(十勝千年の森で開催中)を先頭に立って指揮する。
 自身の学びや、志を同じくする人達へのアプローチ、前向きな判断と選択によって、ひとつひとつ形になってきたという道のりが、お話から伝わってくる。
 地域の観光を充実させるために必要な要素は、「見る・食べる・泊まる」の3つ。十勝は今まで「美味しいものが豊富」という第一次産業の強みはあったが、足を止めて貰う魅力作りは弱かった。地域としての特性をどうやって掘り起こし、人を呼ぶことが出来るかを考えスポットを当てたのが、暮らしの彩りや心の癒しとして関心が集まっている「ガーデン」。そして同じような魅力を持つ他地域と手を携えて、点を線に、線を面に繋げていったというわけだ。

 この番組で、観光や地域作りの話を伺っていて気づくのは、何に取り組むにせよ、とにかく今のような難しい時代にどう対応していくかという視点が欠かせないということ。時代の空気をどう読み、バブル時代のような一過性ではなく、「持続可能な」観光や地域作りの必要性が益々求められているということ。将来にどう繋げていくか、何が本当に大切なのか、何を残したいのかという遙か先を見つめたビジョンが欠かせないということだ。
 林さんの数々の構想に「今」そして「遙か先」の視点を感じたのは、その「持続可能」への配慮が確固たるベースになっているからなのだろう。
 「ガーデンショー」を行う「十勝千年の森」という場所は、十勝本来の森の復元を目指して林さん達が森作りを進めてきた場であるということ。そして、ご自身の持つ農園では、無農薬・無肥料のリンゴ栽培で一躍有名になった「奇跡のリンゴ」の木村秋則氏に習い自然栽培にも取り組んでいるという。植物本来の力や自然そのものが持つ力を復活させ、次へと繋ぐ橋渡し。

 多分、その確固たるベースをしっかり持っていれば、一歩一歩踏み出す中で、賛同者が集まり、一緒に行動したい人が繋がり、そこからまた新たなアンテナも増え、共感という深い絆で繋がれる人が次々に目の前に現れるだろう。
 そうなったら、「棚から落ちてくる牡丹餅」を見逃さず、その時々でキャッチするだけだ。
 「タナボタ」のような「労せずとも」ではなく、そこには、ほんとうのものを見極める「観察力」が欠かせない。それは、到底努力無しには身につくものではない。

 私の好きな「偶然の幸運を引き寄せる力=セレンディピティ」は、いろいろな人がいろいろな表現で意訳をしている。
 林さんと話していて、久しぶりに最も好きだった表現を思い出した。

 「運命というのは、努力した人に偶然という橋をかけてくれる」

(インタビュー後記 村井裕子)

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